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昨今の広告手法と景品表示法の規制(2023年7月24日)

昨今の広告手法と景品表示法の規制 

弁護士 倉本武任

1.はじめに

令和 4 年2 月15 日に消費者庁よりアフィリエイト広告等に関する検討会の報告書(「アフィリエイト報告書」)が公表され、同年 6 月 29 日には、不当景品類及び不当表示防止法(「景表法」)の規定に基き制定されてい「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」(平成 26 年内閣府告示第 276 号、「管理指針」)の改正があり、アフィリエイトプログラムを利用した広告(「アフィリエイト広告」)に関する記載が追加されました。さらに SNS 等で中立的な第三者のような体裁をとって、実際には事業者から金銭等の対価を提供された広告であるステルスマーケティング(「ステマ」) は、景表法 5 条 3 号の内閣総理大臣の指定告示(「本件告示」)に係る不当表示となり、本件告示は本年10 月1 日から施行されます。このようにアフィリエイト広告やステマといった新たな広告手法に対する規制が昨今、強化されており、実際に消費者庁等による措置命令も行われています(「アフィリエイト広告に対する措置命令等の状況」参照)。そこで、本稿ではかような広告手法に対する規制内容について検討します。

【アフィリエイト広告に対する措置命令等の状況】

 

2.問題となる広告手法

(1)アフィリエイト広告の問題

ア アフィリエイト広告の構造

アフィリエイト広告とは、広告される商品等を供給する事業者(「広告主」)が、ウェブサイトやブログ等の作成者(「アフィリエイター」)に広告を作成してもらい、同広告を通じて商品・サービスが購入される成果に応じて、アフィリエイターに対して報酬が支払われる仕組みの広告手法をいいます(下記「アフィリエイト広告の概要(イメージ)」参照。)。アフィリエイト広告も様々あり、広告主とアフィリエイターを仲介する役割のアフィリエイトサービスプロバイダー(「ASP」)がおり、広告主とASP の間で利用契約を、ASP とアフィリエイターの間でパートナー契約を締結するといった場合も多く見られます。

【アフィリエイト広告の概要(出典:アフィリエイト報告書3頁)】

イ 表示主体性の問題について

不当表示をした「事業者」(景表法 5 条) とは、裁判例では「表示内容の決定に関与した事業者」であるとされ、「表示内容の決定に関与した事業者」は、「自らもしくは他の者と共同して積極的に表示の内容を決定した事業者」のみならず、「他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた事業者」や「他の事業者にその決定を委ねた事業者」も含まれるとされています(東京高裁平成 20 年 5 月23 日判決参照)。よって、アフィリエイト広告の広告主が、アフィリエイターに対して、表示内容の決定を委ねた場合も、広告主は、表示内容の決定に関与しているとして表示主体性が肯定されます。

ウ アフィリエイト広告の広告主による表示の適切な管理のための措置

景表法 26 条 1 項は、事業者に対して、不当表示の未然防止や消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害しないよう、必要な管理上の措置を講じなければならないと定めており、アフィリエイト広告の「事業者」として責任主体となる広告主は、アフィリエイターの広告内容に対しても、必要な管理上の措置を講じる義務があります。広告主は、必要な管理上の措置を講じていても、アフィリエイターの広告内容が不当表示に該当する場合には、同法 5 条 1 号乃至 3 号違反だとして措置命令(景表法 7 条 1 項)を受けるおそれがありますが、課徴金納付命令(景表法 8 条)に関しては、「不当景品類および不当表示防止法第 8 条(課徴金納付命令の基本的要件)に関する考え方(平成 28 年 1 月29 日消費者庁)」において、事業者が、必要かつ適切な範囲で管理指針に沿うような具体的な措置を講じていた場合には、「相当の注意を怠った者でない」と認められるとされており、事業者は課徴金の納付を避けるうえでは、かかる管理上の措置を取っていたかが重要となります。

エ アフィリエイト広告の広告主において講ずべき措置の具体的内容

上述の管理指針では、アフィリエイト広告に関して様々な管理上の措置を取ることが求められており、例えば、① ASP やアフィリエイター等との間で、契約書において、どの主体が何を行うかについて、役割分担及び責任の所在を明記すること、②表示等に関する情報の確認・共有や表示等の根拠となる情報を事後的に確認するために、アフィリエイター等とのやり取り(メール、チャット等) の内容等を残しておくこと、③アフィリエイト広告を行う事業者の表示であることを明示することなどが求められています。広告主となる事業者は、アフェリエイト広告の表示が不当表示か問題となった際に、上述の「相当の注意を怠った者でない」との要件との関係で、具体的な管理措置を取っていたと説明できるような体制を整えておくべきです。

(2)ステマの問題について

ア ステマの問題点

ステマでは、広告であることを明示すると、消費者は警戒するため、中立的な第三者の感想や口コミと思わせる方が消費者を誘引しやすく、広告主の広告表示であるにもかかわらず、第三者の表示であると一般消費者に誤認させている点が問題だとされています。

イ 本件告示について

(ア)本件告示の内容

本件告示では、「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」が不当な表示と指定されており、また、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準(「運用基準」)が消費者庁より公表されています。なお、本件告示に違反した場合には、措置命令の対象となるものの、景表法 5 条 3 号適用の問題であるため課徴金納付命令については、対象として除かれています(同法 8 条 1 項柱書)。

(イ)「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」とは

運用基準では、「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」と認められる場合は、「事業者が表示内容の決定に関与したと認められる場合」とされ、それは客観的な状況から、第三者の自主的な意思による表示とは認められない場合とされており、①事業者が自ら表示をする場合、②事業者が第三者に表示させる場合に区別して説明されています。

①で特に問題となるのは、事業者は把握していないが、従業員が表示を行うケースです。この場合、従業員の自主的な意思による表示であるか否かを、従業員の事業者内の地位、従業員の権限、従業員の担当業務、表示目的等の実態から判断することになります。また、②で特に問題となるのは、上述のアフィリエイト広告のように、事業者がアフィリエイターに委託して、自らの商品又は役務について表示させる場合が該当するのはもちろん、事業者が他の事業者に依頼して、プラットフォーム上の口コミ投稿を通じて、競合事業者の商品又は役務について、自らの商品又は役務と比較して低い評価を表示させるような場合も該当します。さらに、事業者が第三者にSNS   等を通じ自らの商品又は役務について表示してもらうことを依頼しつつ、当該商品又は役務を無償で提供し、結果第三者が事業者の方針や内容に沿った表示を行う場合など明示的に依頼・指示していない場合も含まれます。

(ウ)「一般消費者が当該表示であることを判別することが困難である」場合とは

次に、「一般消費者が当該表示であることを判別することが困難である」との要件は、事業者の表示であることの記載がない場合だけでなく不明瞭な場合を含みます。事業者としては、表示を見た人が事業者の広告表示であると認識できるような記載を講じておく必要があるのです。よく見かけるインスタグラムなどのSNS の投稿で、大量のハッシュタグを付した文章の記載中に当該事業者の表示である旨の表示を埋もれさせるような方法は、運用基準においても、事業者の表示であることが不明瞭な方法で記載された場合とされているので、許されないと考えるべきです。

 

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