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民事再生手続におけるファイナンス・リース契約の取扱い(2012年8月3日)

民事再生手続におけるファイナンス・リース契約の取扱い

Ⅰ はじめに

中小企業金融円滑化法が施行された平成21年度以降,企業倒産件数は減少傾向にあり,今年は6年ぶりに企業倒産件数(負債総額1000万円以上)が1万3000件を割り込みました。

しかしながら,慢性的な円高や電力不足など,中小企業,とりわけ製造業を取り巻く経営環境は依然として厳しい状況です。中小企業金融円滑化法が期限切れを迎える平成25年度以降,再建型も含めた法的倒産処理手続を選択する企業数は増加するものと見込まれます。

ところで,再建型の倒産処理手続である民事再生手続においても,債権者であるリース会社から,債務の全額弁済やリース物件の即時引揚げなど,強硬な主張がなされることがあります。これらの要求を受け入れていると,ただでさえ経済的に窮境にある再生債務者[1]は,事業の継続のために必要な資金や設備を失い,事業再生が困難になります。また,再生債務者の事業再生を支援するスポンサーの立場からも,リース債権者への対応の巧拙は,拠出金の額に直結し,場合によっては支援自体の可否をも左右するものとなります。

したがって,民事再生手続を利用した事業再生を成功させるためには,リース債権者に対し,法律に従い適切に対応することが非常に重要になります。

そこで,今回は,問題点の多いファイナンス・リース契約の民事再生手続における取扱いについて,基本的な事項を整理したいと思います(以下では,民事再生法を「法」といいます。)。

Ⅱ リース債権の性質

リース物件のユーザーが民事再生手続開始決定を受けると,一部のリース債権者から,「リース債権は共益債権[2]だから,全額支払ってもらいたい。」との主張がなされることがあります。

こうした主張は,リース契約が賃貸借類似の契約であり,双方未履行双務契約[3]にあたるとの理解を前提に,開始決定時以降も再生債務者がリース物件を使用し続けていることをもって履行選択したと捉え,開始決定時以降に発生した反対債権が共益債権になると主張しているものと理解できます。実際,かつての東京地裁では,リース契約を双方未履行双務契約として扱い,リース債権を共益債権とする運用もなされていたようです。

しかし,ファイナンス・リース契約において,ユーザーは,契約により定められた範囲のリース物件の利用価値[4]を全て使い切ることが予定されており,中途解約は認められていないのですから,リース契約が締結された時点で,リース料債権は全額発生しており,月々のリース料の支払いとリース物件の使用は対価関係に立ちません。したがって,リース契約は双方未履行双務契約にはあたらず,リース料債権は再生債権[5]となります。この趣旨は,会社更生に関する判例[6]でまず示され,その後,平成20年には,民事再生に関する判例[7]でも,リース契約が双方未履行双務契約とならないことを前提とする判断が示されています。

このように,リース料債権が共益債権になるとのリース会社の主張には現在では理由がありませんので,再生債務者としては,リース料債権が全額につき再生債権に過ぎないことを説明し,必要な物件については,後述のとおり,別除権協定[8]の締結を目指すことになります。

Ⅲ 別除権協定

1 別除権者としての取扱い

前述のとおり,リース債権は再生手続開始決定により再生債権となりますが,リース債権者は,リース物件に担保権を有すると考えられるため[9],再生手続において,リース債権者は別除権者として処遇されます(法53条1項参照)。そして,別除権は,再生手続外で行使することができますので(同条2項),リース会社は,リース契約の解除とリース物件の引き上げを主張することがあります[10]。

2 別除権者に対する対抗措置

リース債権者が別除権協定締結に向けた交渉に応じず,問答無用的にリース物件の引き上げを主張する場合,再生債務者にはどのような手段が用意されているのでしょうか。

まず,再生手続開始申立後[11],担保権実行中止命令[12]の申立てをすることが考えられます(法31条1項)。これにより,別除権協定の締結に向けた交渉に必要な一定期間,担保権の実行を凍結させることができます。

また,交渉の結果,別除権協定の締結が不可能となった場合には,リース物件の処分価額[13]相当額の金銭を一括納付して,リース物件に存する担保権を消滅させることの許可を裁判所に対して求めることができます[14](法148条)。

なお,ユーザーに民事再生手続開始申立等の事由が生じたことを理由として,リース契約を解除するとのファイナンス・リース契約における条項(倒産解除特約)は,再生債務者に,別除権協定締結の必要性に関する検討やリース債権者との交渉,担保権実行中止命令・担保権消滅請求等の検討をする時間を与えず,問答無用的にリース契約を解除する点で,民事再生法の強行法的規律に反し,無効であると解されます[15]。

3 別除権協定に向けた交渉

再生債務者は,2で述べたような法制度の存在を前提に,場合によってはその一部を利用しつつ,別除権者と別除権協定締結に向けた交渉に臨むことになります。

ところで,リース債権者からは,交渉の過程で,残リース料ベースでのリース契約の巻き直しや再リース契約締結の提案がされることがあります。

しかし,このような処理を採用すると,契約締結当初に必要とされる資金は少額で済むものの,実質的に再生債権の全部又は一部が共益債権[16]に格上げされることになり,最終的には再生債務者の事業再生の重荷になります。したがって,リース契約の巻き直しによるリース債権の処理は,再生債務者にとって望ましいものではありません。

そもそも,リース債権者が把握している担保価値は,リース物件の処分価額を上限とするものです。そのため,再生債務者としては,リース債権者との交渉に先立ち,リース物件の処分価額を査定した上で,そこから物件の運び出し等に必要とされる費用を控除した価額をベースに,別除権協定の締結を目指すことになります。

さらに,スポンサーによる支援を前提とする民事再生の場合には,別除権協定によるリース債権者への弁済方法については,再生計画認可後の一括弁済によるべきです[17]。したがって,スポンサー支援を検討する企業は,別除権者への支払を考慮した上で,拠出可能な金額を決定する必要があります。

[1]民事再生手続開始の申立をした債務者を再生債務者と言います。

[2] 共益債権は,民事再生手続によらず随時弁済できます(法121条1項)。

[3] 再生手続開始決定時に,双方の債務の履行が完了していない双務契約については,再生債務者に履行か解除かの選択権が認められ(法49条1項),再生債務者が履行を選択した場合には,相手方の債権が共益債権となります(同条4項)。

[4] この点,フルペイアウト方式のファイナンス・リース契約においては,ユーザーがリース物件の利用価値を全て使い切ることが予定されており,ノンフルペイアウト方式のファイナンス・リース契約においては,リース期間終了後のリース物件に残存価値があることが予定されていますが,契約上予定された利用価値をユーザーが使い切るという点で,両者に差異はないと理解すべきです。

[5] 再生債権は,原則として再生手続外で弁済することができず,再生計画に従って権利変更された額が弁済されることになります(法85条1項)。

[6] 最判平成7年4月14日(民集49巻4号1063頁)。

[7] 最判平成20年12月16日(民集62巻10号2561頁)。

[8] 再生債務者が別除権者に対して一定額を支払い,別除権者が担保権の全部又は一部を放棄することを内容とする,再生債務者と別除権者との合意を別除権協定と言います。

[9] リース債権者が何に対して担保権を有するのかが,別除権の行使方法と関連して問題になります。

まず,担保権の対象をリース物件の所有権と見ることが考えられます。その場合,リース物件の引き揚げ行為そのものが担保権の実行として捉えられることになります。

しかし,ファイナンス・リース契約において,リース物件の所有権が終始リース会社に留保されており,リース契約の終了後もユーザーに移転することが予定されていないことを考慮すると,リース物件の所有権に対してリース会社の担保権が設定されていると考えることには無理があると考えられます。

そのため,ファイナンス・リース契約においては,リース物件の利用権に対して担保権が設定されていると理解されます(大阪地決平成13年7月19日(金法1636号58頁),山本和彦「倒産手続におけるリース契約の処遇」金法1680号13頁)。

このように解しても,リース会社がユーザーからリース物件を取り戻して交換価値を実現し弁済を受けるところまでをリースにかかる担保権の実行手続と評価することは可能であると解され(才口千晴他「新注釈民事再生法」154頁),再生債務者が担保権実行中止命令等の手続を採ることはなお可能であると考えられます。

[10] 特に,リース物件が自動車である場合などのように,リース物件の引き揚げが容易でリース物件としての資産としての劣化が早い場合には,リース会社は強硬に物件の引き揚げを主張します。

[11] 再生手続開始決定後も含みます(前掲才口千晴他145頁)。

[12] なお,担保権実行中止命令は,担保権の実行としての競売に関する規定ですが,ファイナンス・リース契約にも類推適用されると解されます(前掲山本)。

[13] ファイナンス・リース契約においては,リース物件の利用権に担保権が設定されていると考えられるため,「処分価額」(民事再生規則79条1項)とはどのような価額を指すのかが問題になりますが,リース債権者は最終的にリース物件を復帰させることにより担保権の実行を行うので,リース期間満了時のリース物件の残存価値の有無にかかわらず,「処分価額」もリース物件自体を競売により売却した場合の価額と等しくなるものと考えられます。

[14] ファイナンス・リースが担保権消滅請求の対象となることにつき,前掲大阪地判平成13年7月19日,東京地判平成15年12月22日(金法1705号50頁)等参照。

[15] 前掲最判平成20年12月16日,岡正晶「判批」金法1876号44頁。

[16] 再生手続開始決定後にリース契約を巻き直すと,それにより発生するリース料債権は,共益債権となります(法119条2号)。

[17] スポンサー型の民事再生の場合,リース債権者は一括による弁済を期待しており,また,一括弁済であればリース債権者としても低価格での別除権協定締結に応じやすくなります。

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