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ブランド名のハッシュタグ使用につき商標権侵害が認められた事例(2022年10月26日)

ブランド名のハッシュタグ使用につき商標権侵害が認められた事例

 弁護士 田中 敦

1 はじめに

SNS 上の投稿で用いられるハッシュタグは、フリマアプリ等で商品紹介のためにも使われることがあります。ところが、令和 3 年 9 月、商標登録されたブランド名をハッシュタグとして無断で使用する行為につき、商標権侵害に該当するとの判決が下されました(大阪地裁令和 3 年 9 月 27 日判決・判時 2523 号 117 頁、以下「本判決」といいます)。

本稿では、本判決の判示内容をご紹介した上、商標的使用についての考え方を踏まえて、他人の商標を表示するにあたり注意すべき点について検討します。

 

2 本判決の判示内容

(1)事案の概要

原告は、指定商品を「かばん類」等とする標準文字商標「シャルマントサック」(以下「本件商標」といいます)の商標権者です。被告は、みずから製造するかばん等の商品をフリマアプリの「メルカリ」に出品して販売していた個人です。

被告は、メルカリの商品紹介ページ上で、被告の商品(巾着型バッグ)の紹介をするにあたり、検索用のハッシュタグを付した「# シャルマントサック」との表示をしていました。ただし、被告は、同ページ上の商品説明として、商品がハンドメイド品であると明記していました。また、被告は、「# シャルマントサック」や「# ドットバッグ」等の多数のハッシュタグを上下に並べた直下に、「好きの方にも…」という文章を記載していました(写真1 及び2 参照)。ただし、同ページ上では、被告の商品が、原告が販売する「シャルマントサック」のブランドの真正品か否かについては記載がありませんでした。原告は、上記の被告によるハッシュタグの使用が、本件商標の商標権侵害にあたると主張して、その差止めを求めました。

(2)争点

本判決で争点とされたのは、①「業として」の使用の有無、②商標的使用の有無及び③差止めの必要性の 3 点であり、本稿では争点②の商標的使用の問題を中心に論じることとします。

 

(3)裁判所の判断

争点①のうち「業として」使用されたか否かについて、被告はバッグの製作・販売が単なる趣味であると主張しましたが、裁判所は、被告が少なくとも 1 年以上にわたり複数商品を販売していたことから、「業として」商品を譲渡する者(商標法 2 条1項1 号)であると判断しました。

また、争点②の商標的使用の有無について、被告は、ハッシュタグとは、「#」に続く文字列が表す特定の情報を結び付けるものであり、そのような情報のウェブサイト上の所在場所を表すものにすぎず、また、被告がハッシュタグに続いて「好きの方にも…」との文章を記載していたことなどからも、被告による「# シャルマントサック」の表示は、メルカリユーザーの検索の便宜を図ったものであって、商品の出所を表示する態様により使用したものではないと主張しました。しかし、裁判所は、本件商標と「# シャルマントサック」との類似性を端的に認めた上、標的使用の有無について、ハッシュタグは、原告の商品やブランドの情報を検索する利用者を被告のサイトへ誘導するために用いられたのであり、当該サイトの商品が「シャルマントサック」なる商品名又はブランド名のものであると認識させると指摘しました。その上で、本判決は、ハンドメイド品であることや「好きの方にも…」との各表示について、被告の商品が被告みずから製造したものであることや、「シャルマントサック」の商品そのものではなく、同商品を好み又はこれに関心を持つ利用者に推奨される商品であることを示すとも理解し得ることを認めつつ、被告の商品が「シャルマントサック」との商品名又はブランド名であるとの認識を失わせるに足りるものではなく、これと両立し得る表記であるとして、被告によるハッシュタグの表示が、商品の出所を表示する態様により使用されたものであると判示しました。

そして、裁判所は、被告がメルカリのアカウントを維持していること、被告のフォロワー数(636 名)から、争点③ の差止めの必要性を認めて、原告の請求を認容しました。

3 解説 

(1)ハッシュタグとは

ハッシュ記号(#)と特定のワードを一体化させたハッシュタグは、Twitter

や Instagram 等の SNS を中心として2010 年頃から急速に広まったものであり、「#」に続くワードをタグ付けし、SNS の利用者が当該ワードに関連する投稿を検索することを容易にする機能があります。ハッシュタグを活用することで、閲覧者としては、関心のあるワードに関連する投稿を簡単に見つけ出すことができ、また、投稿者としては、多くの同じ関心を持つ閲覧者を集めることで閲覧数を増やすことができます。

メルカリ等のフリマアプリが広まってからは、出品者による商品紹介のページでもハッシュタグが用いられるようになりました。フリマアプリでのハッシュタグは、閲覧数を増やすとともに、「#20 代 # スカート # カジュアル」のように、商品の特徴を伝える目的でも使用されます。

(2)商標的使用

商標権侵害が成立するためには、商標が、需要者が何人かの業務にかかる商品又は役務であることを認識することができる態様、言い換えれば商品又は役務の出所を明示する態様で使用されていなければなりません(商標法26 条1 項6 号)。このような態様による使用を、商標的使用といいます。

出所を明示する態様ではなく、意匠的・装飾的に用いられたり、説明的・記述的に用いられたりする場合には、商標的使用にはあたらず商標権侵害が成立しません。過去の裁判例では、被告が「煮物万能だし」等の容器に「タカラ本みりん入り」と表示した行為につき、「タカラ」の登録商標を有する原告が商標権侵害を主張した事案において、裁判所は、被告の商品の「タカラ本みりん」との表示は原告の商品が素材として入っていることを示す記述的表示であって、出所を示す態様(商標的使用)での表示ではないとして、商標権侵害を否定しています(東京地裁平成 13 年 1 月 22 日・判時1738 号 107 頁)。

(3)本判決の解説

まず、フリマアプリでのハッシュタグが商品の特徴を示すために用いられることからすれば、ハッシュタグにブランド名を付することが、商品の出所を示す態様での表示にあたり得るという本判決の判示は、説得力があるものと考えます。ただ、本判決の被告は、商品紹介ページで、ハンドメイド品であることを明記し、ハッシュタグに続いて「好きの方にも…」といった表示をしていました。しかし、本判決は、これらのいわば「打ち消し表示」は、被告の販売する商品が「シャルマントサック」なる商品名又はブランド名であるとの利用者の認識と「両立し得る」ものであると述べ、出所の誤認のおそれを打ち消すには足りないと判断しました。

そうすると、ハッシュタグにブランド名を表示しつつ、「本商品は〇〇(ブランド名)の商品ではありません」などと、販売商品がブランドの真正品であることと明らかに両立し得ない表示をした場合には、本判決の射程が直ちに及ぶとはいえず、さらなる検討を要するようにも思えます。もっとも、過去の裁判例上、裁判所が、出所表示機能を否定するための打ち消し表示の効果を限定的に解している例もあり(大阪地裁平成 29 年 1 月31 日判決・判時 2351 号 56 頁)、一定の打ち消し表示があるからといって、商標的使用が直ちに否定されると考えるべきではありません。

(4)他人の商標を表示する上での注意点

SNS やフリマアプリでは、現在もハッシュタグが多用されており、商品の出品者が、商標権侵害を特に意識することなく、他人のブランド名をハッシュタグ化してしまう場合も少なくありません。本判決を前提とすれば、他人の登録商標を無断でハッシュタグとして用いることは、商標権侵害のおそれが大きい行為であるといえます。

このことは、フリマアプリでの商品販売のみならず、SNS での商品やサービスの紹介であっても同様です。各企業において SNS を利用した販売促進が一般的になっており、企業アカウントであっても個性的な投稿をするアカウントが注目されていますが、SNS 担当者としては、本判決の判示を踏まえ、他社の社名やブランド名の表示には十分注意すべきことを理解しておくことが重要です。

 

(写真1[1]

 

(写真2[2]

[1] 裁判所ウェブサイト・知的財産裁判例集・大阪地裁令和3年9月27日判決・添付文書2(https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/606/090606_option2.pdf)6頁目より引用。

[2] 裁判所ウェブサイト・前掲注1・7頁目より引用。

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