コミットメント制度の導入について(2015年12月1日)
コミットメント制度の導入について
弁護士 貞 嘉徳
TPP の政府間合意を受け、公正取引委員会において、コミットメント制度の導入に向けた検討が開始されたとの報道がなされたことは記憶に新しいことと思います。EU では、2004 年5 月1 日に施行された規則1/2003 号により、コミットメント制度が明文化され、実務上も活用されてきました(同規則9 条)。2005 年から2014年までの10 年間でみると、60%以上の事案(ハードコアカルテル事案を除く。)においてコミットメント制度が活用されたという報告もされています。
コミットメント制度は、競争法違反の疑いが存在する場合に、対象となる事業者が、その疑いを払拭する改善措置を申し出て、当該措置により競争法上の懸念が払拭されると競争当局が認めた場合に、コミットメント決定(commitment decision)により、競争法違反の有無を明らかにすることなく、調査を打ち切る制度です。事業者にも競争当局にも、コミットメント制度を利用する義務はありません。競争法違反の存在を明らかにし、その禁止を命じる禁止決定(同規則7 条:prohibition decision)と並び、EU 競争法の執行制度において重要な役割を担っています。
コミットメント決定により、事業者は、申し出た改善措置に法的に拘束され、違反した場合には、前年度総売上高の10%を上限とする制裁金を課されます(同規則23 条(2)C)。マイクロソフト社が561 百万ユーロの制裁金を課された事件は有名です。
価格協定や談合などのいわゆるハードコアカルテルは、コミットメント決定の対象外とされています。コミットメント決定は、競争当局と事業者との合意を基礎とすることから、通常、その内容が争われることはなく、早期に実効的な解決を図り、行政コストの削減に資する制度であるといわれる一方、競争法違反の有無が明らかにされないため、予測可能性・法的安定性、制裁、あるいは民事上の救済といった点で、不十分な結果をもたらす可能性を孕んでいます。EU では、競争当局は、コミットメント決定に先立ち、事案の概要と改善措置の要旨を公表し、第三者に意見陳述の機会を与えるものとされており、手続の透明性が確保されています(同規則27 条(4))。実務上は、決定案の全文が公表されてお
り、過去には、公表手続の結果、コミットメント決定をとりやめ、禁止決定に移行したという事例も存在しています。
今後、日本でどのような制度が指向されるのか、注目されます。