専属的国際裁判管轄合意に関する注目される判例動向 (2015年8月17日)
専属的国際裁判管轄合意に関する注目される判例動向
弁護士 渡辺 惺之
平成24 年民訴法改正により新設された国際裁判管轄合意に関して注目すべき判例が現れている。大阪高判平成26年2 月20 日(判時2225 号77 頁)と東京高判平成26 年11 月17 日(判時2243 号28 頁)である。いずれも契約書面上に外国裁判所を専属的管轄合意した条項が明記されていたが、公序に反し無効として日本裁判所の管轄を肯定した事例である。外国裁判所を専属的裁判所とする国際裁判管轄合意の内容が「著しく公序法に反する」場合は無効とし、日本裁判所への提訴を許すことができること自体は、平成24年改正前からチサダネ号事件最高裁判例(最判昭和50 年11 月28 日(民集29 巻10 号1554 頁))が判示し判例法理として確定していた。しかし、国際裁判管轄合意について全く制定規定を欠く状態であった法改正以前と、国際裁判管轄に関する規定が整備された改正後とでは、同一法理でも、適用・解釈に違いが生じ得る。
チサダネ号事件判例法理における「公序」判断のポイントは、専属的管轄合意により取引上の弱者に一方的に不利な管轄裁判所を押しつけられたり、法的知識が充分でない一般人が約款上の管轄合意により提訴を著しく困難にさせられたりする事態を避ける趣旨にあった。このような事態への予防として、管轄合意は書面による合意を要するとか、商法上の商人間に限るとか等の要件規制も外国法には見られる。平成24 年改正法は、このような
事態への対応として、弱者保護の観点から、消費者契約、労働契約については強い制限を課して、不適切な結果の防止を図っている。反面、事業者間の契約に関しては、日本の裁判所を専属的合意裁判所とする合意管轄については「特段の事情」による却下を認めず、管轄合意の有する紛争解決への予見可能性を保護している。この視点との整合性を重視すると上記判例はいずれも議論の余地を残すと思われる。今後の議論の展開に注目したい。