交通事故被害者の破産 (2015年7月15日)
交通事故被害者の破産
弁護士 立川 献
<事案のご紹介>
甲(破産者)は、住宅ローン支払い等により消費者金融から借入を行なっていた。しかし、交通事故に遭い、代理人A により示談交渉を行い、傷害慰謝料、後遺傷害慰謝料及び後遺障害逸失利益に相当する損害賠償金がA の口座に振り込まれた(以下「本件預り金」)。他方で、甲は上記借入等についての債務整理を経て、破産手続開始の申立を行った。
裁判所により破産手続開始決定がされ、X が管財人に選任されたが、本件預り金について、X は、破産財団を構成するとして引き渡しをA に請求したが、A に本件預り金の引き渡しを拒否されたため訴訟を提起した。
<解説>
1 破産手続と交通事故
事故が破産手続開始決定後に発生した場合、事故による損害賠償請求権は破産者が開始決定後に新しく得た財産=「新得財産」となり、破産管財人による管理・処分の対象にはなりません。
しかし、ご紹介した事案のように、破産手続開始決定前に交通事故が発生した場合には、「破産手続開始決定時の財産が破産財団を構成する」という「固定主義」に基づき、交通事故により発生した損害賠償請求権は、原則破産管財人による管理・処分の対象になると考えられます。
破産者は生活に困窮する可能性が高いといえますが、そのうえ事故による損害賠償金を受け取れないとすると、破産者の生活再建もままなりません。この点が争われたのが、大阪高裁平成26 年3 月20 日付判決です。
2 裁判所の判断と今後の対応
B は、本件預り金については自由財産に該当することなどを主張しましたが、裁判所は、破産手続開始決定前に損害賠償請求権が代理人の預り金に転化した点を指摘し、自由財産に該当しないと判断しました。
現状、事故による賠償金を破産者が利用するために、「自由財産の拡張」という方法が考えられています。また、慰謝料請求権は、行使するかが被害者に委ねられている権利であり、その行使の時期等についての工夫が必要です。
各損害費目の性質や債務者の状況を踏まえ、どの範囲で自由財産の拡張が認められるか、いかなる対応をすべきかにつき、実務的な蓄積が待たれるところです。