HOME>Legal Essays>公益通報者保護法以外の内部通報の保護(21.Jul.17)

公益通報者保護法以外の内部通報の保護(21.Jul.17)

公益通報者保護法以外の内部通報の保護

弁護士 苗村博子

1. はじめに

日本では文科省、米国では FBI と、公務員からのマスコミへの通報が内部告発として許容されるのかどうかに関心が集まっています。内部告発といえば、「公益通報者保護法」を思い浮かべる方も多いと思いますが、この法律は、それまで外部に告発した通報者への解雇、不利益取扱いに関する判例の基準に明確性を与えるために作られた法律で、 その適用の射程が狭く、この法律だけでは、保護が必要と思われる内部通報をすべてカバーすることができません。同法 6 条自体が、他の法律による保護を妨げないと明記しています。したがって労働基準法や民法に基づく解雇権濫用法理などで、解雇を無効とする実務は、公益通報者保護法施行後も続けられており、様々な方策で通報者保護が図られています。

2.公益通報者保護法の保護範囲

まず、国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法令の遵守を図るために、公益通報者を保護する法律であることから、通報対象事実は国民生活に関わる限定列挙された法律で、①直接刑事罰の対象となるか、②違反行為に対する処分への違反が刑事罰の対象となるものに限られています。また、外部への通報ができる場合は、権限のある監督官庁に対して行う場合でも、「信じるに足りる相当の理由がある場合」に限られます。マスコミ等、通報することで発生や被害の拡大を防止するために必要と認められる者に対する場合は、①内部や監督官庁に通報すれば不利益取扱をされると信じるに足りる相当の理由がある場合、②内部に通報すれば証拠等が隠滅されると信じるに足りる相当の理由がある場合、③労務提供先から正当な理由なく通報を止められた場合、④書面によって内部に通報してから 20 日を経過しても調査をする旨の通知がないか、正当な理由がないのに調査しない場合、⑤個人の生命身体に危害は発生する急迫した危険がある場合に限られているのです。
ちなみに公務員も公益通報者に該当するのですが、アメリカの FBI 前長官の例などは、日本に司法妨害罪がないだけでなく、国民の生命、身体などに直接関わらないので、日本では、仮に解雇前に例のメモをマスコミに開示していたとして、公益通報者保護法では前長官を保護することは難しくなります。

3.民法等による保護

(1) トナミ運輸事件
公益通報者保護法施行前の内部通報に対する不利益取扱いが債務不履行、不法行為とされた事件で有名なのはヤミカルテルに関するトナミ運輸事件(富山地裁平成 17 年 2 月 23 日判決)でしょう。裁判所は、告発者(原告)が告発したヤミカルテル行為は現実に行われていたとし、告発者(原告)が内部で副社長や営業所長に直訴したものの受け入れられなかったことから新聞社に通報をしたと認定しました。報道機関は是正を図るに必要な者ではあるものの、一方で会社の違法行為が不特定多数に広がり、短期的には会社に打撃を与え得ることから信頼関係維持のため会社の不利益にも配慮する必要があったとしながらも、告発者が会社内部で是正のため努力しても会社の状況から何らかの是正措置が執られる可能性は低かったとして、告発は法的保護に値するとしました。告発者はその後、退職を強要されたり、個室に入れられ、格別の仕事もないまま、昇進もなく過ごすしかないような不利益な取扱いを受けたとして、会社の不法行為、人事権の逸脱による債務不履行を認めたというものです。この判決の判断方法は、まさに今も公益通報者保護法のモデルとなったともいえるような事件でした。

(2) 大阪市河川事務所職員懲戒免職事件
こちらは、大阪地裁平成 24 年 8 月29 日の判決で、行為自体も公益通報者保護法施行後の、公務員に関わる事件です。河川事務所職員が清掃時に収得した現金等を分配する映像を撮影し、自らも分配を受けた原告が、この映像をマスコミに提供したところ、この領得等を以て、懲戒免職処分を受けたため、免職処分の取消を求めたというものです。公益通報者保護法では、河川事務所による物色・領得行為は同法が認める法律違反といえるか微妙で、通報対象事実に該当しない可能性があります。この映像はテレビで放送され、調査チームによる調査がなされ、大量の処分者が出ました。判決は、原告も 5 万円の分配を受けてはいるものの、原告の内部告発により、河川事務所の違法または不適切な取扱いの実態が明らかになってその是正が図られており、これは原告に有利な事情として考慮すべきであるとし、懲戒処分として免職としたのは裁量権の逸脱であるとして、免職の無効を言い渡しました。通報行為についても、内部への通報をしないまま直ちにマスコミに映像とともに通報することは公益通報者保護法では認められないとされる可能性が高い行為ですが、裁判所は、この法律を離れ、懲戒免職処分の相当性から、判断をしたのです。

4.おわりに

大阪河川事務所事件からすると、FBI前長官の行為が仮に解任前になされていたとしても、これを以て解雇されていて、日本で裁判になれば、その解任が無効となる可能性は十分にあるといえるでしょう。公益通報者保護法は、内部通報制度を構築する際の参考にはなりますが、社内の通報制度を構築する場合には、この法律の枠組みにとらわれることなく、通報者の保護範囲をより広い制度にしておくことが重要と思われます。