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依頼者と弁護士の通信秘密保護制度(23.Oct.17)

依頼者と弁護士の通信秘密保護制度

弁護士 苗村博子

1. 通信秘密保護制度って何?

まだ耳慣れないこの言葉、AttorneyClient Privilege または弁護士依頼者間秘匿特権といった方が、分かっていただきやすいかと思いますが、日本語のこの表現は、どうも弁護士の特権といった誤解を生みやすく、私が参加している日弁連のWGでは、ご依頼者の権利であることを分かっていただけるよう、タイトルの言葉を用いています。通信秘密として保護され、行政当局、刑事司法当局、民事事件の相手方に対して、依頼者と弁護士の間の通信内容を記した書類の提出を拒むことができ、またその通信内容に関する証言を拒否できるというものです。コモンローの国では、この保護が明確ですが、日本では、十分な保護があるとはいえない状況です。
現在この問題が最も先鋭化しているのが国際カルテルの分野です。日本で通信秘密保護が十分でないことから、米国の弁護士等は自分たちの意見書を依頼者に渡さないよう私たちに指示をしてきます。米国では必ず後で起こるクラスアクションなどの民事賠償請求の際に、依頼者の手元に意見書があれば、ディスカバリでこの提出が求められるからです。日本の弁護士は、これをどうご依頼者に説明するか苦慮します。違反行為を認めざるを得ない場合に、違反があると考えざるを得ないということは口頭でも理解してもらえますが、何が問題だったのか、どうすれば、事案に即した再発防止策を立てるのが難しい状況となっています。事務所には意見書を置いているので見に来て下さいとはいっていますが、やはり、企業としては、身近に意見書をおいて分析するのは重要だと思います。

2. 通信秘密を保護する理由

依頼者は、弁護士に包み隠さず事実や状況を伝えられて初めて、適切な弁護士のアドバイスが受けられるという依頼者の広い意味での防御権、そして適切な意見により、適切なコンプライアンス体制がとれるという効果の二つが期待されています。

3. 何が保護の対象か
―コモンローの国での保護要件

①まず、依頼者と弁護士の間の通信であることが必要です。従って、弁護士に法的アドバイスを求めるための相談内容や弁護士からの回答、また弁護士の意見書などがこれに含まれます。企業のご依頼者の場合、法律相談と、ビジネス相談が一緒になることがありますが、通信秘密制度の保護対象となるのは、法律相談が主な場合に限られます。またその相談のために、過去に作成された従業員のメールなどを添付して送られる場合がありますが、このような過去に作成された書類まで秘密保護の対象となるわけではありません。かつては、弁護士をCC に入れておけば全て秘密にできるなど間違った用いられ方が推奨されたことがありますが、これは誤解です。
弁護士は、その国の弁護士だけでなく、外国の弁護士も対象となります。但し、その外国で通信秘密保護制度が認められていない国の弁護士は、弁護士として認められない可能性があります。日本では東京高裁が通信秘密保護制度は現行の法制下では保護されていないとして、独禁法違反事件に関し、弁護士の意見書を公取委が押収した事案で、同意見書の押収について取消請求を認めませんでした※1
現在アメリカではいくつかの州で日本の弁護士への相談も通信秘密保護の対象だと認めてくれていますが、今後、この点が争われるのではないかが懸念されます。またイギリスを除くヨーロッパでは、組織内弁護士は、必要な独立性を満たしていないとされ、通信秘密保護の対象となる弁護士とはされていません。
③この通信の秘密が保たれていることが必要です。社内で保管されていれば秘密ということではなく、関係者をあまり限らず、多くのCC 先に送ったりすると、秘密性が失われてしまう可能性があります。
④弁護士への相談が、犯罪の示唆や、証拠隠滅に関わっていないことが要件です。過去に起こした犯罪行為に関する相談自体は、通信秘密保護の対象ですが、これから犯罪を企てるための相談や、過去の犯罪行為をどう隠蔽するかといった相談は対象外です。よく濫用防止が必要といわれますが、濫用というより、このような相談はそもそも保護の対象となりません。
⑤また、放棄されていないことも必要です。かつて米国司法省では、犯罪捜査に協力して減刑を求めるには、この通信秘密の保護を放棄するように求めることがありましたが、この保護を重視する議会がこのような放棄の強制を認めない法案を策定するとの動きをしたことにより、司法省も実務を変えたようです。それだけ重要な制度と考えられています。

4. 審査手続

ある書類が通信秘密保護の対象かどうかについては、第三者的な判断が必要となりますが、刑事、行政の分野では捜査、調査を遅延させないため、まずは当局の担当者以外の者による判定がなされ、不服がある場合、また民事の場合は、裁判所による判断が成されています。

5. LAWASIA 東京大会での議論

「弁護士との相談は秘密か?」というタイトルで、一つのセッションが行われ、私がモデレータを務めました。オーストラリアの州最高裁判事、元の米国司法省反トラスト部局次長の弁護士、日本企業の社内弁護士、韓国の弁護士のスピーカーを迎え、様々な角度から、討論をしてもらいました。通信秘密保護制度が事実解明を阻害することにならないか、また、秘密性がどのような時に失われてしまうのか等、この保護制度が日本でも法制度として構築されるための多くの示唆を得ました。どこかでご紹介できればと思っています。

※ 1:東京高裁平成25年9 月12 日判決