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米国でも始まった個人情報保護~カリフォルニアCCPAの概要~
弁護士 苗村 博子
1.施行の経緯
アメリカには、GDPRや日本の個人情報保護法のような包括的な個人情報保護の法令はなく、規制対象の州、業種、対象者ごとに異なる法令が制定されているため、どのような法律が適用されるのかがわかりにくい状況です[i]。その中で、全米最大の人口を有しGoogleやFacebook等の巨大IT企業が本店を置くカリフォルニア州で、従前よりも厳格な包括的規制であるThe California Consumer Privacy Act of 2018 (CCPA)が定められたことには大きな意義があると考えられます。現在、カリフォルニア州に追随して他州でも包括的な個人情報保護法の立法の動きや(amazonやmicro softの本社があるワシントン州等)、連邦法での規制強化の動きも、ようやく出てきています。CCPAは、2018年6月28日に成立し、本年1月から施行されていますが、その民事罰等の執行は、同年7月1日の開始予定とされています。
2. 規制対象
1) 規制対象の事業者
カリフォルニア州で個人情報を集め、事業を行い、かつ、以下の基準の一つ又はそれ以上を満たす個人事業主、パートナーシップ、有限責任会社、法人、団体又はその他の法的主体(1798.140条(C))で、
A) 年間総収益が2,500万米ドルを超え、
B) 単独又は組合せにより5万件以上の消費者、世帯又はデバイスの個人情報を、年間ベースで、単独又は組み合わせで購入し、事業者の商業目的で受け取り、販売し、又は商業目的で共有し、かつ
C) 年間収益の50%以上を消費者の個人情報の販売から得ている
者とされています。
2) 州外の企業への適用
CCPAは「カリフォルニア州で」「事業を行う」の明確な定義を提供していません。
該当しない事業者として「商業的な行為のどの側面も完全にカリフォルニア州の外で行われている場合」にはCCPAの適用対象外となり、また、「消費者がカリフォルニア州の外にいるときに事業者が情報を収集し、消費者の個人情報の販売のいかなる部分もカリフォルニア州で生じておらず、又、消費者がカリフォルニア州にいたときに収集された個人情報が販売されていない場合」には、商業的行為は完全にカリフォルニア州以外で行われたもの」とされています(1798.145条(a)(6))。また「消費者」とは、カリフォルニア州の住民である自然人を意味することとなりますが(1798.140条(g))、これらの規定からすれば、事業の過程でカリフォルニア州に在住しかつ所在する自然人から個人情報を収集する事業者は、「カリフォルニア州で事業を行う」者としてCCPAの適用対象となる可能性があり、たとえカリフォルニア州に拠点を置いていなくとも、インターネットを利用する海外在住者であっても、カリフォルニアの消費者が利用し得る事業を行う事業者の多くがこれに該当すると考えられます。
3. 規制内容
1) 個人情報の範囲
「個人情報」とは、特定の消費者又は世帯を識別し、関連し、叙述し、合理的に関連づけることができ、又は直接的にもしくは間接的に合理的にリンクさせることのできる情報を意味し、法文には具体的な内容が列挙されていますが、(1798.140条(o)(1)) 多くは日本の個人情報保護法にいう個人情報と変わりません。
公に利用可能な情報(1798.140条(o)(2))及び非識別化された消費者情報又は消費者情報集合体(いわゆるビッグデータ、1798.140条(o)(3))は個人情報の定義から除外されますし、日本の個人情報保護法とは異なり、消費者の個人情報を保護する法律ですから、他の法令で規律される一部の個人情報(医療情報や金融機関が保有する個人情報等)については、CCPAが適用されず(1798.145条(c)(1))、従業員情報や企業間取引で得た消費者情報の一部についても、2021年1月までは「個人情報」の定義から暫定的に除外されます(1798.145条(h)及び(n))。
2) 消費者の権利
CCPAは消費者に対し、以下のとおり、みずからの個人情報に関する権利(開示請求権、消去請求権、オプトアウト権、差別禁止を求める権利)を付与されています。
A) 開示請求権(100条、1798.110条、1798.115条)
消費者は、消費者の個人情報を収集、販売又は開示する事業者に対し、1年に2回を限度として、その事業者が収集した個人情報のカテゴリー及び特定の部分を自身に対して開示するように求める権利を有する(1798.100条(a)、(d)、1798.115条(a))。
B) 消去請求権(105条)
消費者は、事業者が消費者から収集した当該消費者についてのいかなる個人情報をも削除するように求める権利を有し(1798.105条(a))、これを受けた事業者は、その消費者の個人情報を記録から削除し、また、サービス提供者に対して記録から個人情報を削除するように指示します(1798.105条(c))。ただし、事業者又はサービス提供者が、法定の一定の目的のために、消費者の個人情報を保持する必要がある場合、その事業者又はサービス提供者は、消費者の削除の要求に従うことは求められません(1798.105条(d))。
C) オプトアウト権(120条、1798.135条)
消費者は、消費者の個人情報を第三者に販売する事業者に対して、常に、その消費者の個人情報を販売しないように指示する権利を有します(1798.120条(a))。
D) 差別禁止を求める権利(125条)
事業者は、消費者がCCPAに基づく消費者の権利を行使したことを理由として消費者を差別してはならない(1798.125条(a)(1))とされ、この点は、GDPRや個人情報保護法とも異なる特徴となっています。例えば消費者に対する商品又はサービスの提供の拒否、具体的には、女性であることを情報提供したところ、住宅ローンを享受させないなどの不利益な取り扱いは許されません。3) 事業者の責務
消費者の権利は、それに対応する事業者の責務すなわち、開示・消去請求権行使のための措置(1798.130条)、消費者のオプトアウト権行使のための措置(1798.135条)、が法定され、その他、目的外利用の禁止(1798.100条(b))、消費者の個人情報を取り扱う者の研修、記録管理(施行規則999.317条)などの義務が定められています。
4) 違反事業者に対する民事罰
A) 消費者による提訴(150条(a))
個人情報を保護するために合理的な安全策をとる義務[ii]に事業者が違反した結果として、個人情報(この場合の「個人情報」は個人の氏名とソーシャルセキュリティナンバー等の一定の情報の組合せに限る。)が、無権限アクセス、流出、窃取又は開示の対象となった消費者は、以下の民事訴訟を提起することができます(1798.150条(a)(1))。
(1) 違反1件について消費者1人あたり100ドル以上750ドル以下の、又は実損害額の、いずれか大きい額の損害の回復。
(2)差止命令又は宣言的判決。
(3)裁判所が適切とみなすその他の救済。
B) 司法長官による提訴(155条(b))
事業者は、司法長官から不遵守を通知されてから30日以内に違反を是正しない場合、差止めの対象となり、また、違反1件について2,500ドルを超えない額の民事罰、又は、故意の違反1件について7,500ドルを超えない額の民事罰を支払う義務があり、それはカリフォルニア州の人々の名の下に司法長官により提起される民事訴訟において回収されます。
違反に対する行政罰として世界での売上の2%または4%という、売り上げを基準とするGDPRと違い、CCPAでは、一件あたりいくらという民事罰が用意されています。多数の消費者のデータ流出などが起こると大きな賠償額となってしまう可能性があり、GDPR同様、非常に厳しい法律となることが予想されます。
以上
[i] 業種に着目した規制:the Fair Credit Reporting Act (金融業), the Video Privacy Protection Act of 1988(レンタルビデオ業)等や情報の対象者や性質に着目した規制:the Health Information Portability and Accountability Act (医療情報)、the Children Online Privacy Protection Act (児童に関する情報)等があります。
[ii] CCPA自体は合理的な安全策をとる義務を規定していないので、カリフォルニア州の司法長官が2016年に出した20の方策などを必要な策としてとるべきといわれています。
https://oag.ca.gov/sites/all/files/agweb/pdfs/dbr/2016-data-breach-report.pdf
弁護士 苗村博子
1.はじめに
今回は少し身近に感じられるかと思われる事案についての判決をご紹介します。結婚していても、配偶者以外の人に心惹かれてしまう人は、皆様の周りにもいらっしゃるかもしれません。そんな二人が男女の関係になってしまった、これを知った配偶者が、離婚をする際に男女関係の相手方に「離婚慰謝料」を請求できるかという問題です。
配偶者の不貞の相手方に対する慰謝料請求は、今、弁護士の業界では一つのトレンドとなっていて、また年々その慰謝料額は高額になってきました。有責配偶者への離婚慰謝料がほぼ一定、何十年連れ添ったご夫婦でもほぼ500万円が最高額というのがこの数十年変わらないのに対し、数十万円だった不貞慰謝料は今や数百万円にまで上がっています。
不貞の相手方への「不貞の慰謝料」と不貞の相手方への「離婚の慰謝料」は、まったく異なるもので、本件で離婚慰謝料が否定されたからといって、不貞の慰謝料を認めないわけではありません。しかし、最高裁がわざわざ、本件で離婚慰謝料を否定したことから、不貞の慰謝料請求にも制限的にするとの影響を及ぼすことが考えられます。実は不貞の慰謝料請求ができるかは、長年論点となってきましたが、裁判所は、一定の範囲でたやすく慰謝料請求を認めてきたのです。
まずは、なぜ原告が、不貞の慰謝料請求をせず、離婚慰謝料を請求したのかなど、本件特有の事実関係を見ながら、不貞の慰謝料、離婚慰謝料について検討していきましょう。
2.事案の概要について
本件の原告の妻をAさんと呼ぶことにします。原告とAさんは2子を設けたご夫婦ですが、結婚後12年ほどで夫婦関係がない状態となっていました。被告はそのころAさんと勤務先で知り合い、それから半年後に二人は男女の関係になり、それから約1年後、原告は、Aさんと被告との関係を知ることとなりました。Aさんはそのころ被告との関係を解消して、原告との同居を続けましたが、4年後に2番目の子供さんが大学に入学したことを機に別居しました。原告は、Aさんに対し、「夫婦関係調整の調停」を申し立てましたが、結果別居から10か月後に離婚が成立しました。判決からは明らかではないのですが、夫婦関係調整の調停は、夫婦としてやっていきたいと思う人が申し立てるものですので、原告は、婚姻の継続を望んでいたと思われます。その後、原告は、被告に対して、離婚に至ったのは被告とAさんの不貞行為が原因だとして、被告に対し、500万円近い慰謝料を請求しました。
3.第一審、控訴審での論点
第一審は、約200万円の範囲で離婚慰謝料を認め、控訴審もこれを支持しました。
第一審では、被告から、Aさんと不貞行為に至った時点で原告とAさんの婚姻関係が破綻していた、またそうでないとしても、不貞の事実を知ってから4年を経過しており、消滅時効が成立しているとの反論がなされました。裁判所は、不貞が始まった時点で原告とAさんは同居し、家計を同一にしていたこと、結婚から数年間はAさんから離婚を申し出ることはあったが、不貞が始まった当時はそのような申立てはなかったとしてまず、婚姻関係が破綻していたとの反論を退けました。また消滅時効については、原告が請求していた、探偵を使った調査費用については、その支出から3年以上経過しているとして消滅時効の抗弁を認めましたが、離婚慰謝料そのものについては、離婚が成立するまで、時効は進行しないとして、時効消滅をみとめず、離婚原因を被告とAさんの不貞行為にあるとして、原告の精神的苦痛に対して約180万円と弁護士費用18万円を認めました。第一審、控訴審ともに、時効の起算点はともかくとして、「不貞の慰謝料」と「離婚慰謝料」を一連のものとして、第三者である被告に離婚慰謝料の支払いを命じたものといえます。
4.最高裁の判断
本件で、最高裁は「夫婦が離婚するに至るまでの経緯は当該夫婦の諸事情に応じて一様ではないが、協議上の離婚と裁判上の離婚のいずれであっても、離婚による婚姻の解消は、本来当該夫婦の間で決められるべき事柄である」として第一審、控訴審とは異なり、離婚と不貞行為の間に直接の関係を認めず、「夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は、これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても、当該夫婦の他方に対し、不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして、直ちに、当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはない」とし、第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは、当該第三者が単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず、当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られる」として、本件では、不貞行為の発覚のころにその関係が解消され、離婚成立までに特段の事情があったとは認められないとして原告の請求を認めませんでした。
5.最高裁判例からくみ取れること
最高裁は、離婚というのは当事者間で決められるもので、不貞の相手方は、第三者であると基本的には離婚慰謝料を認めませんでした。判例評釈では、これまで第三者に離婚慰謝料が認められたのは、夫両親の嫁いびりの特殊な案件のみとされており※1、本件は、不貞の相手方もこのような案件と、第三者であるという点では変わりないと判断したのだろうと指摘しているように思えます。そして本件では、不貞発覚、不貞関係終了から3年以上婚姻が継続されたうえでの離婚であり、不貞と離婚との関係が薄れていたという事情、不貞の慰謝料は、探偵費用に見られるようにすでに時効消滅しており、原告としては離婚慰謝料という形をとらざるを得なかったことに特徴があります。これだけですと、離婚において第三者が責任を問われることはまずないというだけでさして目新しさは感じられません。
しかし、第一審、原審は、不貞の慰謝料と、離婚の慰謝料をほぼ同一視していることから考えると、最高裁は、この不貞の慰謝料請求にも安易な適用を避けるべきとのメッセージを込めたようにも思えます。
冒頭でも述べましたが、実は不貞の慰謝料を認めるべきかについては、裁判所は最高裁も含め、これまでは、「他方の配偶者の夫又は妻としての権利」が侵害されているのだとして、基本的には不貞の相手方への「不貞の慰謝料」の請求を認めてきているのです。
例外は、すでに婚姻関係が破綻していた状態で不貞関係に至った場合※2や、権利濫用と考えられる場合で、このような場合には、これを否定する最高裁判例も奇しくも同じ日に出されています※3。また、婚姻生活の平穏に支障をきたさないとの理由で、クラブのママとの性交渉については、長期に亘るものであって、相手方配偶者が精神的な損害を被っていたとしても不法行為にならないとする判例※4なども考えますと、不貞慰謝料が認められるのは、不貞関係に至った当時、婚姻関係が継続していて、不貞をきっかけに婚姻関係が破綻し、かつ相手方配偶者が不貞関係を知った時から3年以内といった場合に限られることになるのかもしれません。学説には、配偶者以外の人と性関係をもつかどうかも、自らの判断で行った配偶者自身が貞操義務違反の責任を負うのが筋だとして、相手方の不法行為責任を否定する考え方もあります※5。
婚姻に伴う貞操義務自体は、今後も認められ、有責配偶者が相手方配偶者に対して、慰謝料を支払うべきという考えは今後も大きく変わることはないでしょうが、不貞の相手方への慰謝料は、制限されていくことになるように思われます。
以上
※1 判例タイムズ146号30頁
※2 最判平成8年3月26日(民集23巻10号1896頁)
※3 最判平成8年3月26日(家月48巻12号39頁)
※4 東京地裁平成26年4月14日判決
※5 二宮周平「妻の不貞行為の相手方の不法行為責任」判例タイムズ1060号112頁
弁護士 田中 敦
1 はじめに
近年、アメリカ司法省によるFalse Claims Act(31 U.S.C.§§3729-3733, 以下「FCA」といいます。)に基づく取締りが注目されており、不正に連邦政府から金銭を受給した企業に対し高額の制裁金等が課せられる事案が増加しています。FCAでは、厳しい罰則に加えて、私人による告発に関する特殊な手続が設けられています。本稿では、FCAの概要を述べた上で、近時の執行状況をご紹介します。
2 False Claims Actの概要
(1) FCA とは
FCAは、連邦政府からの金銭の不正受給、納付すべき金銭の過少申告等の取締りを目的とする法律で、「不正請求防止法」や「虚偽請求取締法」などと和訳されます。FCAの歴史は古く、1863年に南北戦争時の北軍への納品業者による不正請求を阻止するために施行されました。1986年、2009年及び2010年の改正により、制裁金の高額化、懲罰賠償の導入、私人による告訴手続の拡張等が行われ、その適用範囲を拡大してきました。
(2) FCAの規制対象
FCAは、虚偽請求の提出やその承認(§3729(a)(1)(A))、虚偽記録の作成や使用(同(B))、それら行為の共謀(同(C))等の計7つの行為を「False Claims」と定義しています。それら定義で用いられる「knowingly」の解釈には、請求にかかる事実等が虚偽であることを実際に認識していた場合(§3729(b)(1)(A)(i))のみならず、情報の真実性を敢えて無視していた場合(deliberate ignorance)(同(ii))や、情報の真実性を全く意に介さず軽視していた場合(reckless disregard)(同(iii))を含みます。そのため、意図的な虚偽記載に限らず、重大な過失により誤った記載がなされた場合等もFCA違反となる可能性があります。
規制対象行為の例としては、医療関係者による公的医療保険制度(メディケア、メディケイド等)に基づく診療報酬の不正受給、防衛関連の政府納品業者による品質等の虚偽申告等が挙げられます。もっとも、それら以外にも教育、貿易、エネルギー、災害復旧の分野等、連邦政府からの金銭支出又は連邦政府への金銭納付を伴う広範な産業が取締りの対象となり得ます。
(3) FCA違反への罰則
FCAに違反した場合、条文上、最低5,000ドルから最高10,000ドルまでの制裁金が定められています。ただし、当該金額は、連邦民事制裁金調整法改正法(Federal Civil Penalties Inflation Adjustment Act Improvements Act)に基づくインフレに伴う調整を受けます(§3729(a)(1))。2018年1月29日以降に付課される制裁金額は、最低11,181ドル、最高22,363ドル ※1とされ、条文上の金額を大きく上回っています。
さらに注意すべき点は、制裁金に加えて、連邦政府が被った損害の3倍額の懲罰的賠償が定められていることです。この規定により、違反行為が長期にわたった場合等には非常に高額の支払いを命じられるおそれが生じます。
2019年5月7日、司法省は、FCA違反案件の捜査にあたり、制裁の軽減に向けて考慮される事項を明確化するガイドラインを公表しました ※2。その中では、不正行為に関する情報の自主的な開示、関与した個人の特定、商慣習や法律により求められる範囲を超えた文書の保存、収集及び開示等の協力行為が列挙されており、制裁金や懲罰賠償の金額の算定にあたり、それら協力の有無及び程度が考慮されるものと考えられます。
(4) 私人である告発者による訴訟提起
FCAの特徴的な手続上の規定として、連邦政府による調査や訴訟提起のみならず、私人である告発者(「relator」や「whistleblower」と呼ばれます。)に対しても、違反行為者を被告としてみずから民事訴訟を提起する権限を与えています(§3730(b)(1))。当該規定に基づき私人である告発者から提起された訴訟は、「Qui tam 訴訟」(Qui tam action)と呼ばれます。私人による告発は、違反企業の従業員、退職者、取引先等の不正行為に関する内部事情を知る者によることが多いですが、ときには競業他社による告発が行われることもあります。
FCAでは、Qui tam訴訟に関し、下記のとおり通常の訴訟とは異なる定めを設けています。
① 訴状の秘匿と連邦政府による先行調査
Qui tam訴訟では、訴状の写しと実質的に重要な証拠を記載した書面がまず連邦政府に送達されます。連邦政府が送達を受けた日から少なくとも60日間、裁判所による送達命令があるまで、それら書面は被告に対し秘匿されます(§3730(b)(2))。その期間内に、連邦政府は、訴訟に参加しみずから訴訟追行するか、訴訟に参加せず告発者に訴訟追行する権利を与えるかを決定します(同(4))。連邦政府は、裁判所におけるヒアリングの機会を原告に与えた上で、訴訟を却下するよう求めることもできます(§3730(c)(2)(A))。
訴状の秘匿に関するFCAの規定は、一次的には、後続する刑事手続捜査の可能性について違反者が前もって知ることを防ぐという連邦政府の利益保護を目的とします※3 。もっとも、告発者にとっても、当該規定により、訴訟提起により告発の事実を直ちに被告に知られることを避けるという一定のメリットがあるものと考えられます。
② 告発者への報奨金
連邦政府が訴訟を追行し、被告から金銭を回収した場合、訴訟を提起した告発者には、原則として回収額の15%から25%までの報奨金が与えられます(§3730(d)(1))。また、連邦政府ではなく告発者みずから訴訟を追行し、被告が連邦政府に対し金銭の支払いを命じられた場合、告発者には、被告が支払いを命じられた額の25%から30%までの報奨金と合理的な額の弁護士費用及び訴訟追行費用が支払われます(同(2))。
報奨金の規定は、私人による告発を促進する大きなインセンティブとなっており、このことは、後述のとおりFCA違反に基づく案件全体の大部分をQui tam訴訟が占めている事実に裏付けられています。
③ 違反企業による報復的措置への救済
FCAでは、違反企業が、正当な告発を行った従業員等に対し、告発の事実を理由として解雇等の不利益処分やハラスメント等を行った場合、従前の地位の回復、未払給与の2倍額の支払い、あらゆる特別損害の補償を含む救済措置を裁判所が命じることができると定めています(§3730(h))。
3 近時の執行状況
アメリカ司法省による統計 ※4では、2018年にFCA違反により訴訟や調査等が開始された新規案件867件のうち645件がQui tam訴訟とされ、全体のおよそ84%を占めています。2009年の改正以降、従来は年間300?400件程度であったQui tam訴訟が増加し、2011年以降は8年続けて年間600件以上のQui tam訴訟が提起されています。これに伴い、全体の新規案件数も2009年以前に比べて年間100?200件程度増加しています。制裁金等により連邦政府が違反企業から回収した金額も同様に、2009年以降大きく増加しており、2010年以降8年続けて年間30億ドルを上回っています。2017年以降は新規案件数、回収金額ともにわずかずつ減少しているものの、現在のところ、大統領選挙による政権交代と執行状況には顕著な相関関係を見出すことはできません。
産業分野としては、保健福祉省が管轄する医療・医薬品等の分野での案件数が、2010年以降年間400?500件に上っており、ここ数年は全体の3分の2程度を占めています。
近時の東アジアの企業への執行として、2018年3月、日本の繊維製造業者が、防弾ベストに使用された繊維の欠陥を開示しなかったとして提起された訴訟において、連邦政府に対する6600万ドルの支払いに合意しました※5 。また、同年11月及び2019年3月、韓国の燃料供給事業者5社が関与した不正入札事件の訴訟においても、反トラスト法違反の賠償金と合わせて1社あたり最大で約9000万ドルを支払うことに合意しました※6-7 。これらの訴訟は、いずれも告発者により提起されたQui tam訴訟とされています。
4 おわりに
FCAは、報奨金というインセンティブによって、私人による告発を端緒とした違反行為の摘発を企図しており、近時の執行状況からすれば、そのような試みは現在のところ功を奏していると評価できます。今後、様々な形で連邦政府の関与する事業に携わる企業としては、退職者や競業他社による正当な告発を止めることはできないことに鑑み、違反行為の発生を未然に防止するための社内体制の構築になお一層注力することが求められます。
※1 https://www.govinfo.gov/content/pkg/CFR-2018-title28-vol2/xml/CFR-2018-title28-vol2-sec85-5.xml (2019年11月13日現在、脚注にて以下同じ。)
※2 https://www.justice.gov/jm/jm-4-4000-commercial-litigation#4-4.112
※3 State Farm Fire & Cas. Co. v. United States ex rel. Rigsby, 137 S. Ct. 436
※4 https://www.justice.gov/civil/page/file/1080696/download?utm_medium=email&utm_source=govdelivery
弁護士 倉本 武任
1.はじめに
知的財産権に関して、侵害を主張する被侵害者は、損害賠償請求権の根拠となる事実の主張・立証責任を負い、侵害があると主張する被侵害者が、自己の損害を立証しなければなりません。しかし、知的財産権侵害の場合は、損害額の証明が事実上困難であることから、損害額の推定およびみなし規定が設けられています(特許法102条、商標法38条、不正競争防止法5条等)。
令和元年5月10日に成立した改正特許法[1]は、侵害した者が不当に得をしないように、損害賠償額算定方法の見直しを行っており、知的財産権の侵害に対しては、より権利者の保護を拡充しようとしています。そのような中で、令和元年6月7日に特許法102条2項及び3項[2]の損害額の算定方法に関する判断基準を具体的に示した知財高裁大合議判決が出されました。本稿では、同判決が示した判断、同判決の内容について検討します。
2.事案の概要について
名称を「二酸化炭素含有粘性組成物」とする発明に係る2件の特許権を有する化粧品メーカーである被控訴人(原審原告)が、控訴人ら(原審被告ら)が製造、販売する炭酸パック化粧料(原審被告ら各製品)は上記各特許権に係る発明の技術的範囲に属する等主張して、特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めた事案です。
3.本判決における主要な争点
本判決における争点のうち、損害論における主要な争点は、
①特許法102条2項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額、推定覆滅事由
②特許法102条3項所定の受けるべき金銭の額
です。
4.本判決の判断について
(1)侵害者の利益及び推定覆滅事由(争点①)について
ア 侵害行為により侵害者が受けた利益の額
本判決は、特許法102条2項所定の「侵害者が受けた利益の額」とは、具体的には、侵害者の侵害品の売上高から侵害者において侵害品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額であり、その主張立証責任は特許権者側にあるとし、控除すべき経費について、侵害品についての原材料費、仕入費用、運送費等は、侵害品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費に当たるが、管理部門の人件費や交通・通信費等は、通常、侵害品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費に当たらないことを示しました[3]。
イ 推定覆滅事由について
本判決は、特許法102条2項における推定覆滅事由について、同条1項但書きの事情と同様に、侵害者が主張立証責任を負い、侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれにあたるとして、具体的には、①特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること(市場の非同一性)、②市場における競合品の存在、③侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告)、④侵害品の性能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴)などの事情を挙げ、これらの事情については、特許法102条1項但書きの事情と同様、同条2項についても推定覆滅の事情として考慮することができることを示しました。
(2)ロイヤルティについて(争点②)
本判決は、特許法102条3項は、特許権侵害の際に、特許権者が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定であるとし、平成10年の特許法改正により、同項の「その特許発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額」との定めから、「通常」の部分が削除された経緯を理由としてあげたうえ、特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、実施に対し受けるべき料率は、むしろ、通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきであるとしています。そして、実施に対し受けるべき料率は、①当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ、②当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性、代替可能性、③当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、④特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して、合理的な料率を定めるべきとし、具体的な考慮要素を示しました。
(3)結論
本判決は、結論として原判決(大阪地方裁判所平成27年(ワ)第4292号)の判断に誤りはなく、控訴人ら(被告ら)の控訴は理由がないため、いずれも棄却すべきと判断しています。
5.本判決に対する検討
本判決の内容は、従前、実務書等にも紹介されている見解を具体的に説明しているだけという点では、実務家からは面白みのないものとも考えられているようです。しかしながら、冒頭で触れたように特許法改正により損害額算定規定の見直しが図られ、より権利者の保護を拡充しようというタイミングで、あえて、損害賠償額について丁寧な解説をする判決を出したという点については、裁判所としてプロパテントの立場を宣明し、今後、知的財産権一般の損害賠償額の判断にあたって、権利者保護を重視する姿勢を示したものと評価できます。
特許に限らず、知的財産権一般の侵害訴訟において、損害論の審理に入った段階で、原告側は、損害額の算定方法に関する規定の適用を主張しますが、その適用や要件についてさらに主張・立証を尽くす必要があります。また、被告側が売上額等を誠実に提出するとは限らず、侵害論で侵害が認められているにもかかわらず、結論として認定される損害賠償額が低いという話もあります。このように知的財産権の侵害に対して裁判を起こしても、賠償額が低ければ、権利者は訴えを躊躇し,ひいては知的財産権自体の価値の低下を招きかねません。
先の特許法改正にあたっては、懲罰的損害賠償制度の導入という話もあったようですが、填補賠償という不法行為の損害賠償制度の基本原則と相容れないとして、導入は見送られているようです。しかし、お隣の国、韓国では、本年7月9日から他人の特許権・営業秘密を故意に侵害した場合、損害額の最大3倍までの損害賠償を認める懲罰的損害賠償制度が施行されています。韓国では、従前、損害賠償額が大きくなかったため侵害が予想されても、まず侵害から利益を得て、事後に補償すればよいという認識が多いというまさに侵害し得な状況であったことが導入の理由です。
日本では立法として、まだまだ、権利者の保護が十分とはいえません。これまでは、十分に整備がされていない立法の下で、裁判所が裁量により損害額を認定するという場面が多く、裁判所としても、損害額の認定にあたって慎重にならざるを得ないところはあったのではないかと思われます。したがって、本判決も、丁寧な説示をしたに留めざるを得ず、今後、裁判所が実際の金額として、権利者の利益の救済を図るには、やはりよって立つ法律が十分に整備されるべきであると考えます。
以上
[1] 改正特許法では①侵害者が得た利益のうち、特許権者の生産能力等を超えるとして賠償が否定されていた部分について侵害者にライセンスをしたとみなして、損害賠償を請求できること、②ライセンス料相当額による損害賠償額の算定に当たり、特許権侵害があったことを前提として交渉した場合に決まるであろう額を考慮できることが明記されます。
[2] 特許法102条2項は、侵害者が侵害行為により利益を受けている場合に侵害者の利益を損害額と推定する規定、特許法102条3項は、特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害額として賠償請求できる旨を定めた規定です。
[3] 特許法102条2項の侵害者の利益については純利益、粗利益を指すのかについて議論があり、近年では、利益とはいわゆる限界利益を意味し、人件費や減価償却費のような販売管理費のうち、売上増減と無関係に必要とされる費用は、控除対象費目には含まれないと考えられており、本判決は同見解に沿った判断です。
弁護士 苗村 博子
1.改正の趣旨
独禁法には、さまざまな規制が定められています。いま、大きな話題となっているのは、いわゆるGAFAといわれるデジタルプラットフォーマーが、その利用者に対して課しているさまざまな制約が独禁法に抵触しないかという問題です。この原稿を書いている最中にも公取委が独禁法を企業対個人にも適用し、現在の法律においてもその圧倒的案シェアにより、プラットフォームを利用する者に自らの規律を一方的に押し付けているような場合に、優越的地位の濫用にあたるとする指針案を出したと日経新聞に報道されました。今回の改正の次には、このプラットフォーマー規制について、立証の容易化その他が検討され、規制が強化されるものと考えられます。
前置きが長くなりましたが、今回の改正は、それとは異なり、課徴金が最も効率よく課されている不当な取引制限、すなわち、カルテルの課徴金の額を公取委の裁量で決められるようにしようというものです。課徴金が導入された昭和52年以降、課徴金の対象行為は拡大されてきましたが、その執行が強化されたのは、2005年に課徴金減免制度が導入されて以降です。この減免制度については、現在は、一番目の申立者には、全額免除、2番目の者には、50%免除、3番目の者には30%免除というように、免除額が、羈束されており、公取委には裁量権がありません。米国では、課徴金の免除制度に当たるリニエンシーは、最初にこれを申し立てた者のみにしか与えられませんが、2番目の者はセカンドインと呼ばれ、その協力の如何により、減じられる罰金額について司法省の裁量幅は相応に広く、対象企業は少しでも減じてもらうため、必死に情報提供を行います。そして提供された情報から、司法省は、新たなカルテルを見つけ出すのです。
このように課徴金について、公取委に一定の裁量権を認め、協力すれば課徴金を減じ、非協力であれば、課徴金を増額するとして、対象事業者にプレッシャーをかける、いわば米国司法省の捜査手法を取り入れようというのが、今回の改正の趣旨なのです。
2.改正の骨子
(1) 課徴金制度の見直し
これまでは、課徴金の算定の基礎となる期間は3年まででした。米国では反トラスト法違反には消滅時効が適用されないため、カルテルの開始時まで遡れるのとは、大きな違いで、米国の罰金額と日本の課徴金額に大きな差異があったのは当然のことです。今回調査開始日から10年まで遡れるように改正されます。その売上額の10%が課徴金額となりますが、算定基礎自体も追加され、①談合の際に、応札しないことによる対価や、②対象となる商品や役務に関連する業務によって受けた売上額も加算され、③違反者の売上だけでなく、カルテル等の指示を受けて行動した、子会社等の売上も加算対象となります。
(2) 課徴金減免制度の見直し
改正法は、これまでの順位のみによる低減率を小さなものとし、調査開始前であれば、1番目の者には従前どおり全額免除を与えますが、2番目に申請した者に20%減、3~5位に10%減、6位以下には5%とし、調査後であれば、最大3社に10%、それ以外には5%の低減率と定めました。目玉はそのほかの低減率で、この基礎となる減率に加え、調査協力の度合いに応じ、これにプラスして調査前であれば、最大40%の低減率が、調査後でも最大20%の低減率が用意されています。
また現在は、違反行為の繰り返しや、違反行為の主導者については、一方だけがあれば、50%、両方があれば100%の加算が加えられますが、この改正で、これらに加え、隠ぺいや、仮装などの調査妨害もこの割増算定の対象とされることになりました。
協力する者には、2番であっても場合によっては60%の減算が可能となりますし、初めての検挙で指導的立場でなかったとしても、調査妨害があれば、50%割増加算がなされるということになり、まさにあめとムチでの対応がなされるのです。
一定の裁量権を持つことは、公取委の悲願ともいえるものでしたので、公取委としては、今回の改正は、その法執行力の強化に重大な影響を及ぼすものと理解しているはずです。
3.弁護士依頼者間の秘匿特権の導入
公取委は、法律ではなく、規則で主だった内容が明記されることとして、課徴金減免制度を用いた法執行の効率的な運用と適正手続を確保する観点から、一定の弁護士と依頼者の通信についての秘匿を認めることとしました。事業者から、弁護士への相談内容、もちろん最初の段階では、事業者は自社の行動が独禁法違反になるのかどうかという点からの相談となりますが、相談にかかわる弁護士との様々なやり取りは、秘密として、公取委から求められても提出を拒むことができる制度の導入が検討されています。いまだ規則案が公表されていないので、議論はこれから始まるのですが、公取委としては、この制度は、独禁法違反行為全般に及ぶものではなく、カルテルについてのみ、独禁法47条の強制調査権に基づき、提出を求められた際に、これらの通信についての文書が調査の対象とならないとするようです。公取委が挙げている例を申しますと、事業者からの相談文書、弁護士からの回答文書、弁護士が行った社内調査に基づく法的意見が記載された報告書や、弁護士が出席する社内会議でその弁護士との間で行われた法的意見についてのやり取りが記載された社内会議メモなどが挙げられています。電子メールがこの中に入るのかが明確ではありませんが、ご依頼者との多くの通信が電子メールで行われている現在、これが対象とならないようでは、ほとんど意味がありません。この点はこれからも日弁連でも強く申し入れをしていく必要があるところと考えています。
もちろん、秘匿する特権ですから、これらの電子メールが、CC等で社内の人とはいえ、あまりに多くに送付されているようでは、秘密性が疑われれてしまいます。むやみにCCに入れて送付するのはよくありません。
また公取委と弁護士の間で、秘匿特権の対象となるかについて、見解が分かれた時には、まずは、書類に封をした状態で、公取委に渡し、これを、事件を担当する審査官ではなく、公取委内の官房に置かれた判別官がこれらの書類の要件の充足性について審査を行うとしています。電子メールのようなデータの取扱については、公取委の規則案、細則案を見ないとわかりません。米国では、まずは、司法省は、電子データをすべてコピーして持ち帰りますが、直ちに捜査担当検事がみるのではなく、事業者側で、自らベンダーに依頼してフォレンジック機能を用いて、関係するデータだけをサーチワード等で、検索するとともに、これらの検出されたデータの中から、弁護士が秘匿特権対象文書の記録(ログ)を作成して、検察官に提出し、検察官は納得すれば、対象証拠にはアクセスしません。争いになった場合には裁判所に判断を求めることができます。公取委も判別官と弁護士の意見が分かれた場合には、行政事件訴訟法の規定に基づいた取消訴訟の提起が可能だとしています。
公取委では、今回の秘匿特権らしきものの導入は、事業者側の要請に格別の配慮をしたものとして、国際的にもアピールしたいとの考えの様ですが、世界では全く逆に評価されているようで、本来すべての事件で、依頼者と弁護士の通信は秘密であるべきと考える英米の弁護士には、このような一部にだけ、しかも課徴金減免制度を利用した者にのみ秘匿特権を認めるということは、ほかには認めないものと考えるきらいがあります。米国の弁護士から、よく、あなたには弁護士依頼者間の秘匿特権がないのでは?と言われるのに閉口しています。私はNY州の資格もあるから大丈夫と答えていますが、そのような答えをしなければならないところに日本の弁護士としてのもどかしさを感じて仕事をしております。
企業と人権-現代奴隷法の持つ意味
弁護士 苗村 博子
1.現代の奴隷
私が小学生だった半世紀前頃、時々買ってもらえるととても嬉しかったのが、世界子供文学全集(名前がはっきりしません)で、その中のアメリカ編、ストウ夫人著の『アンクルトムの小屋』は、何度も読み返しました。物のように売り買いされ、綿花採取などの過酷な労働を強いられるといった待遇があらわになり、後の南北戦争の契機になったとの逸話まで、リンカーン大統領の言葉とともに著者の名前まで記憶に残る小説でした。
現代にも奴隷が?と思われるかもしれませんが、今も奴隷と呼ぶしかない過酷な労働環境で働いていたり、人身売買の対象となっている人たちは、4,000 万人を超えているとのことです※1。このような奴隷労働や人身売買に加担しないことを企業に約束させるとともに、対象となった企業だけでなく、そのサプライヤーについてもそのような酷い労働をさせていないかチェックさせる必要があるとして、OECD(経済協力開発機構)でも協議され、世界中で企業に人権の保護を求める法律が施行されています。そのいくつかをご紹介いたしましょう。
2.英国の現代奴隷法
(Modern Slavery Act 2015)
英国で事業を行っていて、一年の売上高がその子会社分も含め、世界で36百万ポンド(約50 億円)を超える企業は、自ら及びそのサプライチェーンにある企業において、現代の奴隷行為や人身売買が行われないよう必要な措置をとったこと(取っていなければいないこと)を報告しなければなりません。この報告書には、①その組織・事業内容・サプライチェーン、②奴隷行為や人身売買に対抗するポリシー、③自らの事業やサプライチェーンにおいてこれらが行われていないかについてのデューディリジェンスの方法、④自らの事業やサプライチェーンにおいてこれらが行われるリスクとそれに対して取った対処方法、⑤取った措置が適当であると考える理由、⑥従業員等に対して行っている研修について述べなければならないと内務省のガイドラインは説明しています※2。そして企業が会社組織であれば、この報告書に対し取締役会における承認と取締役の署名が必要とされ、企業が、ウェブサイトを持っていればこの陳述書を公表しなければならないとされています。また、奴隷行為や人身売買が外国で行われていることが疑われた場合の対処法もガイドラインは示していて、場合によっては、その地域の政府や法執行機関にまず駆け込むのではなく、NGO や産業界、貿易機関等、救済策を考えてくれる組織に相談するのがよいとしています。
この法律は、Bribery Act のように巨額の罰金を科すとして強制的に対応させるのではなく、報告書に取締役に署名させ、公表させることにより、もしこの公表内容と内実が異なっていて、奴隷労働が行われていたような場合には、その会社の評判が下がることについて、一定の民事的な責任が取締役に課されうるという間接的な強制方法をとっている点です。罰金のような直接効果はなくても、署名させられる取締役にとっては大きなプレッシャーになります。
3.フランス自主調査法
(Law on the Duty of Vigilance)
この法律は、2017 年2 月に成立しました。フランス国内に5,000 人以上の従業員を有するか世界で1 万人以上の従業員を有するフランス会社法による会社が親会社となっている企業グループが対象です。フランスに本拠を置いていたり、フランス子会社およびその子会社が1 万人の従業員を擁している日本の会社は多くはないと思われますが、この法律は、英国の現代奴隷法と似た開示義務を課しています。対象となる企業は、自らの事業、サプライチェーンにおいて、人権侵害、自由の侵害等に関し、リスクマッピング、問題行為発見時の対策、リスクを減少させるための措置、監視システムが効果的な方法で実施されるよう計画を策定して、これを実施するとともに、その施策を開示する義務を負うことになります。
英国とは違って、これらの施策の有効的な実施のため、この法律は、裁判官による実施命令と、実施されなかった場合に損害を被った者による賠償請求を認めています※3。
4.カリフォルニア、サプライチェーンの可視化法
(The California Transparency inSupply Chains Act 2010)※4
カリフォルニアは、奴隷行為や人身売買に対して、企業が関与しないようにといち早く法制化した州といえるでしょう。その方法論は、英国やフランスにも影響を及ぼしたものと思われます。
カリフォルニアで事業を行っている、(納税申告書に)小売業または製造業として届けている会社で、年間売上が世界全体で1 億ドルを超える会社には、自らのウェブサイトに①製品のサプライチェーンにおいて人身売買や奴隷行為が有るかの評価とリスクについて述べること、②サプライヤーが、自社のスタンダードに準拠してこれらの行為を行わないようにしているかの監視を行っていること、③自社に直接納入しているサプライヤーに対して、サプライヤーが事業を行っている各国において、人身売買や奴隷行為に関する法を遵守して、原材料を製造していることについての証明を求めていること、④従業員や契約相手が間違ってこれらの行為を行わないように内部の説明準則を維持すること、⑤購買に直接責任のある従業員や経営陣に対し、サプライチェーンでかような行為が起こるリスクを軽減するための研修を行っていることについて、掲載しなければなりません。これらに従っていない場合には、司法長官が差止命令(injunctive relief) を求めて会社に対し、提訴することができます。
5.オーストラリア 現代奴隷法
オーストラリアでは、本年から英国と同様の現代奴隷法が施行されました。年間売上が1 億豪ドル以上のオーストラリア法人及びオーストラリアで事業を行っている法人が内務大臣への年次の報告書を提出し、内務大臣がこれを無償でインターネット上で公開するとの事です※5。
6.日本
外国人実習生の過酷な実態など現在の日本にも奴隷労働というべき労働環境があると言われているにも関わらず、かような法制を求める声も残念ながら聞こえてこないのが現状です。働き方改革、ブラック企業などというだけで、奴隷労働を防ぐ手立てとしての、企業の監視という発想がないように思います。世界で事業を展開する日本企業は、まず海外の法制で、この問題の重要性に気付かされることになりますが、日本においても、問題があることをしっかり受け止める必要があるように思います。
※ 1: 原田久義国会図書館 調査及び立法考査局調査室主任調査員著「【オーストラリア】2018 年現代奴隷法」
※ 2: 法律自体は“may include” としていますが、2017 年の改訂されたガイドライン「Transpalancy in SupplyChain, practical guide」は、”should include”として、陳述書に①~⑥の記載が必要としています。https://www.gov.uk/government/publications/transparency-in-supply-chains-a-practical-guide
※3: 以上、SherpaというNGOによるガイドライン(VigilancePlance Rreference Guidance)
※ 4: サプライチェーンの人権問題に対処する連邦法であるNamrun Quarterly 21 号でご紹介した米国DoddFrank 法による紛争鉱物規則自体は,議会が廃止の決定をしたようです。
※5: 前掲※1 に同じ
最判(二小)平成31年1月18日(裁判所ウェブ)
判決の送達を欠いた外国判決の承認
弁護士・大阪大学名誉教授 渡辺 惺之(わたなべ さとし)
・民訴法118 条2 号は敗訴被告への訴訟開始文書の送達を外国判決の承認要件とする。その文書の送達(公示送達を除く)が被告の応訴権を保障するからである。最判平成31 年1 月18 日は、訴訟開始文書ではなく、敗訴被告への判決送達を欠く外国判決の承認に関する判例である。控訴審は、日本在住被告への送達を欠く米国(カリフォルニア州)デフォールト判決について、「判決や決定の当事者に対する送達は、裁判所の判断に対して不服を申し立てる権利を手続的に保障するものとして、我が国の裁判制度を規律する法規範たる公の秩序の内容となっている」とし、「欠席判決であるが故に欠席当事者…への送達を要しないものとされているとしても、そのような訴訟手続自体が日本における公の秩序に反する」として承認を拒絶し執行判決請求を棄却した。これに対し上告審は「外国判決に係る訴訟手続において、当該外国判決の内容を了知させることが可能であったにもかかわらず、実際には訴訟当事者にこれが了知されず又は了知する機会も実質的に与えられなかったことにより、不服申立ての機会が与えられないまま当該外国判決が確定した場合,その訴訟手続は、我が国の法秩序の基本原則ないし基本理念と相いれないものとして、民訴法118 条3 号にいう公の秩序に反するということができる」と判示し、原審に差し戻した。
・敗訴被告への判決送付は、訴訟開始文書の送達と違い、法廷地訴訟法上の訴訟法律関係にある当事者として送達という方式に限定する必要はない。上訴権の保障には判決内容の了知で足りるとの基準は合理的である。ここでの外国判決承認の実質的な公序基準は上訴権侵害に当たるのかにある。通常、法廷地国外在住の当事者は法廷地訴訟法により国内の送達場所や送達受理代理人等の届出が求められるので、判決の不送達は例外的な事故が多い。敗訴被告の側に法廷地訴訟法が課している訴訟当事者としての義務過怠による送達事故もある。国により職権送達主義か当事者送達主義かによる違いはあるが、送達がなく敗訴被告が了知を欠いた場合でも常に上訴権の侵害があるとは限らない。敗訴被告に「了知させることが可能であった」のに「了知されず又は了知する機会も実質的に与えられなかった」かの判断が問題となる。
・本件で問題となった米国デフォールト判決は、一般に欠席判決と訳されるが、懈怠判決という方が適切である。欠席当事者に相手方主張事実への擬制自白を認めて下す日本法の欠席判決とは異なり、英米法の懈怠判決は裁判所の期日出頭命令に対する不服従当事者への制裁として対立当事者の請求を認容する制度である。本件も、被告が米国訴訟の途中で代理人を解任し後任を選任せず期日欠席を続け、裁判所の代理人選任と期日出席を命じた懈怠警告付き決定への違反事例である。この命令違反による懈怠判決は判決登録日に確定し、懈怠当事者へは送達されない(FRCP77 条(d)(1))。懈怠当事者は自ら訴訟離脱し防御権を放棄した(out of court)とされる。この米国デフォールト判決を公序違反として判決の効力承認を拒絶すべきかであり、上訴権の実質的な侵害と判断すべきかである。
・日本の民事訴訟において、外国被告が、例えば国内訴訟代理人を解任し届出場所での送達受理ができない状態にしながら、その所在も明らかでない場合、判決の公示送達を認める見解も有力である(秋山・伊藤・加藤・高田・福田・山本『コンメンタール民事訴訟法Ⅱ』419 頁)。ドイツ法は外国当事者が送達受理代理人の指定をしない場合、その外国住所に付郵便送達を認める(ZPO184 条(1)、芳賀雅顕『外国判決の承認』153 頁)。スイス連邦裁判所は、スイス法も同様な場合に公示送達を認めるとして、被告は警告を無視して期日不出頭を続けたのであり、自ら上訴機会を放棄したに等しいとし、公序違反をは認めず米国判決を承認した(BGE116II625,1990/12/19)。被告自らの手続過怠の結果で上訴権の侵害ではないとした。
・以上とは異なり、判決の送達は欠いたが、敗訴被告が実際には了知していた、つまり上訴は実際には可能であった事情を挙げて、公序違反は生じていないというアプローチもあり得る。本件でも、米国訴訟の原告代理人が法的義務はないが自発的に被告本人に敗訴判決を送付し、被告の所在変更のため受理されなかったが被告は了知していたとか、被告に対する米国での別件手続においてデフォールト判決の了知があったとかの主張もある。偶然的な了知によって実際には上訴権の侵害はなかったという主張もあり得る。
・第1 の公序違反の主張は、敗訴被告が制度的な上訴権保障を自身の懈怠により放棄したと看做すことの相当性という帰責性が重要になる。これが認められない場合でも、敗訴被告が偶然的事情により了知していて実際には上訴の機会は失われていないという第2 のアプローチもあり得る。偶然の了知による上訴権侵害の治癒の相当性が問題となるが、デフォールト判決に関する公序違反の論理としては被告の手続過怠の帰責性を問題とするのが本筋に思われる。
著作権法の諸改正
弁護士 苗村 博子
1.多方面からの改正
著作権法は,昨年末から施行された多方面からの改正があり,また今年も改正が見込まれそうです。登録を必要とし,また企業活動に関わることの多い他の知的財産と異なり,著作権は,登録を要さず,また私たち個人も創作する側になったり,利用する側になったりする最も身近な知的財産権です。このような特徴から,その権利保護と過度の保護による利用者の不利益の調整の場面が最も多く現れる権利であり,権利保護強化の方向(プロ),権利制限の方向(コン)の改正が行われた(る)ということでしょう。
まず,プロとなる改正については,著作権の保護期間が著者の死後70年となるということが挙げられます。また今年の通常国会で,「リーチサイト」への規制に刑事罰が盛り込まれる点も海賊版への対応という意味では,一步前進と言えるでしょう。
一方,著作権の権利制限的な効果についての改正としては,柔軟な権利制限規定の整備が挙げられます。他にも改正があるのですが,今回はこれらの改正に絞って紹介していきましょう。
2.権利保護期間
TPP(環太平洋連携協定)が2018年12月30日に発効し,著作権の保護期間が,著者の死亡後70年とされました。団体が著作者である場合や映画や実演については公表後70年となります。レコードについては発行後70年となります。
海外の著作物に関しても,著作権の発生国がベルヌ条約加盟国であれば,例えば著作者の死亡後50年としているなど,日本の保護期間より短い場合は,その発生国の保護期間と同じ期間だけの保護となりますが,発生国が70年の保護期間を定めていれば,日本と同期間保護がなされることになります。実は,このあと述べる「マンガ」等を除けば,日本は,著作権に関しては,輸入の方が断然多く,経済的な観点からすると,海外の著作物の保護期間が20年分多くなり,その分,支払うロイヤルティは,増える計算になってしまいます。日本にいる利用者にとっては,フレンドリーな改正ではないのです。
3.デジタル化,ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定の整備
(1) 制限規定の規定の仕方
権利者と利用者間の利害の調整について,米国では,いわゆるフェアユースという一般的な制限規定が置かれ,時代,技術の進歩に応じた柔軟な著作権の制限が可能となっており,日本でもフェアユース規定をおくべきかは,長く議論されてきました。しかし,今回もこの導入は見送られ,現状のいわゆる著作権の例外といわれる規定について,新たに3つの制限規定が設けられ,また整備されました。
(2) 著作物に表現された思想または感情の享受がない場合
まず,一つ目は著作物に表現された思想または感情の享受を目的としない利用について,①著作物の利用に係る技術開発・実用化の試験のための利用(著作権法30条の4,1号),②情報解析を目的とするもの(同条2号)及び③電子計算機による情報処理の過程における利用等に供する場合(同条3号)を具体例として挙げる権利制限の規定を設けました。
この「表現された思想又は感情」の「享受」が何を意味するかですが,文化庁は,著作物等の視聴等を通じて,視聴者らの知的または精神的欲求を満たすという効用を得る行為だとしています※1。また主目的は享受でなくても,享受も同時に起こる場合として,例えば民間の漫画教室で,作画技術を学ばせるため,著名な漫画のコピーを生徒に渡すような場合を挙げており,このような利用は著作権法30条の4の権利制限には当たらないとしています。受け手が機械の場合には享受していないと今は言えると思いますが(今後AIにも心があるなどというほど,AIが進化すると機械による表現の享受というような場面が出てくるかもしれません),人間が著作物を受け取る場合には,著作物に表現された思想又は感情が受け手に享受されていないかの吟味が必要です。①の典型例として,美術品の複製に適したカメラやプリンターを開発するために,美術品を試験的に複製する行為が挙げられています。また②については,ディープラーニングの方法によるAI開発の為の学習用データとして著作物をデータベースに記録するような場合も対象となるとされます。③は,コンピュータの情報処理の過程でいわゆるバックアップが作られる様な場合やリバースエンジニアリングによるプログラムの調査解析もこれに含まれるようです。
(3) 電子計算機による著作物利用に付随した利用
次に,電子計算機による著作物の利用に付随する利用も通常権利者の利益を害さない行為として導入され,規定の整理がされて,同法47条の4の条文にまとめられました。大まかには,1項がキャッシュの作成行為,2項がバックアップの作成行為に該当するとのことです。1項は,電子計算機における利用を円滑又は効率的に行うために計算機の利用に付随する利用に限られ,2項は,電子計算機における著作権の利用の維持又は回復を目的とする場合に限られています。また両項ともに,必要と認められる限度という制限が付き,さらに,但書きとして著作権者の利益を不当に害する場合が除かれています。1項によって,情報処理の高速化のためのキャッシュの作成,サービスプロバイダがウイルスや有害情報等のフィルタリングを行うための複製が認められることになり,2項では,スマートフォンを替える場合の古いスマートフォンのメモリの新しいスマートフォンへのデータ移行のための一時的な複製行為などが例外として明記されたことになるといわれています。しかし,その結果,古いデータが削除されず,いずれも使えるような状態を維持すると,但書きの権利者の利益を不当に害することになりかねません。従って,これらの例外規定については,個別に検討が必要となってきますので,その点注意が必要です。
(4)電子計算機による情報処理等に付随する軽微利用
最後の権利制限規定は,(2),(3)とは違い,若干権利侵害はあるかもしれないものの,それが軽微であることを理由に,同法47条の5に限定列挙する形で権利制限を認めたものです。1項1号では,所在検索サービスを定め,いわゆるキーワード検索の際に,著者や文献名などと共に,著作物の文章の一部を提供する場合を定めています。2号は,情報解析サービスについて定め,その結果を提供することを定めており,例として,他の論文からの剽窃を検証するサービスにおいて,オリジナルの論文の一部を提供するサービス等を挙げています。3号ではこれ以外についても政令で定めることができるとしています。検索の対象となる著作物ということですので,公衆に向けて提示,提供された著作物だけが対象となります。いずれも軽微な場合だけが権利制限の対象ですので,提供される分量や表示の精度などによって,この規定の基準を満たしているかが判断されることになります。
4.リーチサイト規制への刑事罰導入
この改正は,これから国会審議に係る改正です。漫画の海賊版サイト等が問題となり,これらのサイトをプロバイダがブロックすべきとする法制度が検討されましたが,憲法上の通信の秘密(憲法21条2項)との関係で,これは見送られました。が,かような違法サイトを紹介するサイト(リーチサイト)への刑事罰と共に,静止画のダウンロードについての刑事罰を盛り込んだ著作権改正が2019年の通常国会で審議されると新聞報道されています※2。これまで録音,録画については,違法にアップロードされたものについてのダウンロードが,刑事罰の対象とされてきましたが(著作権法119条3項),これが静止画にも拡大され,漫画などのダウンロードを刑事罰化しようというものです。ただ,動画,音楽についても刑事罰が適用されたケースはほとんど無いようですので,この点は啓発活動にしかならない可能性があります。なお,このリーチサイトに対して,東京地裁において違法サイトのURLについて削除命令が発令されたとの報道がありました。ブロッキングまで法制化せずとも違法サイトを無くすよい手段になることが期待されます。
※1:文化庁「著作権の一部を改正する法律(平成30年度改正)について(解説)」
※2:日本経済新聞2019年1月26日記事