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DIPファイナンスの必要性~コロナ禍の事業再建―支援したい取引先のために~(28.Sep.20)

DIPファイナンスの必要性~コロナ禍の事業再建―支援したい取引先のために~

弁護士 苗村博子

1.はじめに

耳慣れない言葉に戸惑われたかと思いますが、DIPはDebtor In Possessionの略で、債務者が自ら経営を続けながら、事業の再建を目指す、米国のChapter 11と呼ばれる再建的な倒産手続きの手続開始の直後に手続中の資金を得るための融資のことをDIPファイナンスといいます。Chapter11は、米国では、1979年に旧Chapter10の全面改正によりできた章で、再建的な倒産手続を定めています。

新型コロナの問題以前は平成の徳政令ともいわれた中小企業金融円滑化法による金融機関の返済の猶予と、この20年の間に進化した私的整理の手法によって法的倒産を回避して行う事業再建が一般化したことにより、日本では会社更生手続や民事再生手続を申請する事業者は激減しました。私も管財人代理を務めましたマイカルの会社更生事件では、みずほ銀行等から、更生計画案提出までに苦しくなる資金繰りに対し、このDIPファイナンスを受けることができましたが、その他は運送業のFootwork社の民事再生手続やJALの会社更生手続で同様にこれが実施された以外では、大規模な案件ではなく、DIPファイナンスは米国のChapter 11では、一つのファイナンス手法として確立しているにも関わらず、日本ではほとんど育っていません。今回は、コロナ禍の事業再建手続においてこのDIPファイナンスを必要とする事業者が増加すると考えられ、DIPファイナンスを日本で根付かせるために何が必要かについて述べたいと思います。

2.米国でDIPファイナンスが事業として成り立つ理由

(1) DIPファイナンスと債権分類

米国でもDIPファイナンスは、Chapter 11が制定された直後にはなかなかこれに乗り出す金融機関はありませんでした。米国ではDIPファイナンスの債権が回収不能のリスクの高い債権(Highly Leveraged Transaction)とみなされるとこのファイナンスはできないと考えられたからです。そこで、金融機関が当局に働きかけ、1991年に(連邦準備制度理事会)その他管轄機関の金融調査においてDIPファイナンスの債権は、非分類とされるとのガイダンスが出されたとのことで、これによって大手の金融機関がDIPファイナンスに乗り出すようになりました。

(2) プライミングリーエンの付与(DIPファイナンスへの優先性、担保の付与)

加えて、Chapter 11は、DIPファイナンスについて特別の貸し手へのインセンティブを定め、より、貸し手にとって魅力的なものとしています。

① 364条(a) 通常業務でなされる無担保の貸付けについては、裁判所の許可なしに、債務者は、借入が認められている。この債権は、管理費用と同等の優先性が付与される。

② 364条(b) 通常業務以外の無担保の貸付けについては告知と聴聞の後に、裁判所によって許可される。同じく管理費用と同等の優先性が付与される。

③ 364条(c)他の管理費用に優先して回収することができるというSuper Priorityが与えられ、加えて、担保設定されていない資産に対し担保設定でき、かつ担保設定されている資産に対し、劣後担保を設定できる。かような優先性を付与しなければ、DIPファイナンスを得られないことを裁判所に示す必要があり、裁判所の許可を要する。

④ 364条(d) 最も優先性の高いDIPファイナンスで、既存の担保と同列又は先順位の担保を与えること(Priming Lien)によってしか、DIPファイナンスを得られないような場合に限られる。また既存の担保権者に対して適切な保護(appropriate protection)が与えられることが要件とされ、裁判所の許可を要する。

⑤ いずれの裁判所の許可もDIP Orderという裁判所の命令の形で発令され、DIPファイナンスが善意で行われている場合にはその効力は上訴審の決定により無効とされない。

④のいわゆるプライミングリーエンを付与する場合の、既存の担保権者に対する適切な保護については、その担保権者の同意があればともかく、そうでない場合、これを証明することは困難ではあるとされます。ただし、広く担保を徴求している担保権者は、既存の債権についての担保価値の下落を避けるため、同意することが多く、また一部の財産にだけ担保を設定している担保権者が反対する場合には、その財産を避けて他の財産に先順位担保を得てDIPファイナンスがなされるとされています。従って、担保を多く有している既存の債権者がこの債権の保護の意味でDIPファイナンスを行うことも多く、このような場合はDefensiveな場合といい、新たにDIPファイナンスを行う貸し手をOffensiveな貸主とも呼ぶようです。

3 日本へのあてはめ

(1) DIPファイナンスと既存の担保権者

日本では、金融庁検査では、各金融機関の自己査定に基づいて債権の分類を行うことが認められていますが、多くの金融機関は、回収困難な債権として分類しているのではないかと思われます。しかしながら、上述の米国のChapter11 364条のような保護がDIPファイナンスに与えられればどうでしょうか?

④の364条(d)のようなプライミングリーエンが与えられる場合はなおのこと、③の(c)のように、手続申立前の債権に優先するだけでなく、手続開始後に発生する債権(日本の共益債権に当たり、手続き外でも弁済が認められる債権です)にも優先するようなものであれば、回収の可能性は相応に高くなり、多額の引当てを積む必要はなくなります。

また裁判所の許可で担保権が設定されるのであれば、メインバンクにとっては、既存の担保の価値を維持する意味でも、DIPファイナンスを行って、ニューマネーを債務者に供与して、事業を継続してもらう合理的な理由が出てきます。

もちろん既存の担保権者と並ぶまたはその先順位になる担保権の創設を裁判所の許可だけでできるようにするのですから、このような立法は、民法その他の法律によって認められてきた担保権の価値を大きく左右することになると考えられるかもしれません。しかし現実に担保権の実行が最も必要となるのは借主が倒産した場合です。会社更生法においては、担保権も手続きに取り込まれ、その手続下では、担保権実行は認められず、更生担保権として担保価値に応じた額を更生計画に応じて支払われるにとどまります。このような担保権の倒産手続きによる変容が許容されていることからすれば、裁判所の許可を以て、DIPファイナンスに担保権を付与することも日本においても許容できるのではないかと思います。

このためにはもちろん立法を必要とします。現在再建的な倒産手続きに精通した弁護士で(私も一応メンバーです)、このようなDIPファイナンスを取り入れるための時限立法を含め、より窮境にある事業者が民事再生手続き等を申立て易くできないか検討しています。

(2)もしDIPファイナンスに優先的な担保権等を付与し得るなら

さて、ようやく副題との関係を記せるようになりました。皆様の会社の取引先で、窮境に陥っていて、いよいよ法的な倒産手続きが必要な企業に対し、支援を考える場合にもDIPファイナンスに優先権があれば、先にこのようなDIPファイナンスにより、当座の事業資金を融通しやすくなることに気が付かれたと思います。DIPファイナンスは既存の担保権者が行うDefensiveな場合だけでなく、支援企業でも行えます。債権者数も多く、再生計画案が同意されるかわからない、事業の先行きに不確定要素があるというような場合でも、必要な技術等を持っている取引先であれば、支援をしたいと考えるところです。ただ、その不確実さがある故二の足を踏んでしまうといった場合に、担保権設定ができ、かつ共益債権としての優先順位が高ければ、回収できないとのリスクは相当小さくなり、思い切った支援をしても大丈夫との判断がつきやすくなります。そして、支援者がDIPファイナンスを行うというだけで、債務者の取引先の信頼度は十分に改善し、より良い方向に歯車は回りだします。

4.最後に

コロナ禍の経済、特に製造業への悪影響はこの秋冬から本格化するといわれています。それまでに何とか時限立法でよいので、コロナ禍の窮境企業の再建についての立法にこのようなDIPファイナンスへの優先性の付与がなしえないか、運動を続けていきたいと考えています。

以上

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