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独占禁止法改正~第171回通常国会にて審議~(2009年4月23日)

独占禁止法改正~第171回通常国会にて審議~

弁護士 貞 嘉徳

「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」(以下「独占禁止法」)は、「国内における自由経済秩序を維持・促進するために制定された経済活動における基本法」(i)として、経済法の中核をなす法律と位置づけられています。とりわけ、近年、規制当局の対応は積極化の傾向にあり、最近では、1社あたりの金額としては過去最高額となる79億円を超える課徴金が課されたことが注目されるなど(ii)、企業が経済活動を行う上で益々重要な法律となっています。平成17年改正により、課徴金減免制度の導入などの規定の整備が行われたところですが、同改正法施行後の状況等を踏まえた見直しを行うべく、平成21年4月9日より、衆議院本会議において、改正法案の審議が開始されました。

1 改正法案の概要
改正法案は、①課徴金制度等の見直し、②不当な取引制限等の罪に対する懲役刑の引上げ、③企業結合規制の見直しの他、④海外当局との情報交換に関する規定の導入、利害関係人による審判の事件記録の閲覧・謄写規定の見直し、差止訴訟における文書提出命令の特則の導入など所要の事項を対象としています。本稿では、紙幅の関係上、①課徴金制度等の見直しのうちの主要な事項を紹介させていただきます(iii)。

2 課徴金の適用対象の拡大
(1) 排除型の私的独占及び不公正な取引方法(一部)の追加

ア 課徴金制度は、独占禁止法上の違反行為を抑止するために、違反行為を行った事業者に対して、課徴金を納付させて金銭的不利益を課す行政上の措置であり、昭和52年改正の際に導入されました。
イ 現行法では、課徴金制度の対象は、支配型の私的独占(iv)及び不当な取引制限(v)に限られていますが(7条の2第1項、同第2項)、改正法案は、新たに、排除型の私的独占(改正法案7条の2第4項)及び不公正な取引方法(一部)を課徴金制度の対象としています。
ウ 課徴金制度の対象とされる不公正な取引方法の違反行為類型は、共同の取引拒絶、差別対価、不当廉売及び再販売価格の拘束(改正法案20条の2ないし5 以下「共同の取引拒絶等」)並びに優越的地位の濫用(改正法案20条の6)としています。このうち、共同の取引拒絶等は、当該違反行為を繰り返した場合に限って、課徴金を課すこととしています。
また、優越的地位の濫用については、「継続して取引する相手方に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること」などの3つの類型の違反行為に限って、課徴金を課すこととしています。

(2) 課徴金の額
課徴金の額は、排除型の私的独占について違反行為の対象商品等の売上額の6%(改正法案7条の2第4項)、共同の取引拒絶等について違反行為の対象商品等の売上額の3%(改正法案20条の2ないし5)、優越的地位の濫用について違反行為に係る取引先との取引額の1%(改正法案20条の6)とされています。

= [課徴金の算定率](vi) =                                     ()内は中小企業の場合

製造業等

小売業

卸売業

現行法

不当な取引制限

10%(4%)

3%(1.2%)

2%(1%)

支配型私的独占

10

3

2

改正法案

排除型私的独占

6

2

2

不当廉売、差別的対価等

3

2

1

優越的地位の濫用

1

3 主導的事業者に対する課徴金の割増算定
(1) 平成17年改正により、現行法では、課徴金の算定にあたって、早期に違反行為から離脱した事業者には算定率を20%軽減したり、違反行為を繰り返し行った事業者には算定率を50%加重(割増し)するといった加重減軽制度が設けられています(7条の2第5項、同第6項)。
(2)改正法案は、このような従前の加重減軽要件に加え、新たに、不当な取引制限を内容とする違反行為について主導的役割を果たした事業者に対する課徴金の算定率を50%加重する制度を設けています。
すなわち、カルテル・入札談合などの違反行為について、主導的な役割を果たした場合(「単独で又は共同して、当該違反行為をすることを企て、かつ、他の事業者に対し当該違反行為をすること又はやめないことを要求し、依頼し、又は唆すことにより、当該違反行為をさせ、又はやめさせなかった」場合などの3つの違反行為)、当該事業者に対する課徴金を50%加重することとしています(改正法案7条の2第8項)。
また、現行の加重要件と改正法案における加重要件を共に満たす場合には、課徴金の額を100%加重(2倍)とすることとしています(改正法案7条の2第9項)。

4 課徴金減免制度の拡充
(1)減免申請者数の拡大
平成17年改正により導入された課徴金の減免制度について、現行法が最大3社としている減免申請者の数につき(7条の2第7項ないし9項)、改正法案は最大5社まで認めることとしています(改正法案7条の2第11項、同第12項)。
(2) 企業グループ内の共同申請
現行法では、減免申請は他の事業者と通謀することなく単独で行う必要があるとされていますが(7条の2第7項ないし第9項)、改正法案は、一定の要件を満たす場合には、同一企業グループ内の複数事業者による共同申請を認め、全ての共同申請者に同一の順位を割り当てて、課徴金の減免を認めることとし、減免申請者数の算定においても複数事業者を一つの事業者として扱うこととしています(改正法案7条の2第13項)。

= [減免申請](vii)

5 事業譲渡等が行われた場合の課徴金納付命令等にかかる名宛人の取扱いの整備
(1) 課徴金納付命令
現行法では、課徴金の対象となる違反行為をした会社が合併により消滅したときは、合併後の会社に課徴金の納付を命ずることとされていますが(7条の2第19項)、改正法案では、これに加えて、譲渡又は分割によって違反行為に係る事業を引き継いだグループ会社に対して課徴金の納付を命ずることとされています(改正法案7条の2第25項)。
(2) 排除措置命令
改正法案は、合併、分割又は譲渡により、違反行為に係る事業を引き継いだ存続会社等に対しても排除措置を命ずることができることとされています(改正法案7条2項)。

6 課徴金納付命令等に係る除斥期間の延長
改正法案では、課徴金納付命令及び排除措置命令に係る除斥期間を、現行の3年から5年に延長されています(改正法案7条の2第27項、7条2項)。

====================

(i)シール談合刑事事件・東京高判平5・12・14
(ii)平成21年4月13日現在 公正取引委員会HP 報道発表資料 H21.2.19付「塩化ビニル管及び同継手の製造販売業者に対する排除措置命令及び課徴金納付命令について」
(iii)改正の経緯・改正法案の内容については、内閣府HP(独占禁止法基本問題懇談会のページ:http://www8.cao.go.jp/chosei/dokkin/index.html)及び公正取引委員会HP(H21.2.26付報道発表資料:http://www.jftc.go.jp/pressrelease/21index.html)で確認できます。
(iv)私的独占には、市場における有力な事業者が、①取引拒絶・不当廉売・排他条件付取引などを手段として、新規参入事業者や既存の事業者を市場から排除する「排除型」の私的独占と、②株式保有・役員兼任等の会社組織上の手段・取引上の優越的な地位などを利用して、同業者や流通業者などの事業活動を支配することで、その市場の価格や数量を制限する「支配型」の2つの類型が存在しています。これまでの適用事例の多くは排除型の私的独占であるところ、現行法では、排除型の私的独占は課徴金制度の対象とされていません。
(v)不当な取引制限のうち、価格カルテルのほか、数量・シェア・取引先制限のカルテルなどが課徴金制度の対象とされています。
(vi)図は公正取引委員会HPを参照
(vii)図は公正取引委員会HPを参照

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