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消費者団体訴訟制度(2011年2月17日)

消費者団体訴訟制度

第1 はじめに

平成18年の消費者契約法の改正で消費者団体訴訟制度が導入されました。そして,平成21年には消費者庁が発足し,消費者団体訴訟制度の対象となる行為が,消費者契約法に定められた行為だけでなく,特定商取引法,景品表示法に定められた行為にまで広がりました。

消費者団体訴訟制度が利用されると,その判決又は和解の内容が,事業者名も含めて消費者庁のホームページで公表されます(消費者契約法(以下「法」という。)39条1項)。平成23年1月31日現在,消費者庁のホームページには,判決が3件(同一事件の地裁判決,高裁判決を含むので事例としては2件),和解が2件公表されています。今回は,この消費者団体訴訟制度について,概略を説明していきたいと思います。

第2 消費者団体訴訟

1 主体

消費者団体訴訟は,具体的な消費者被害を受けた消費者ではなく,消費者団体が消費者被害を出した又は出すおそれのある事業者に対して訴訟提起することを認める制度です。しかし,どのような団体でも,消費者団体訴訟を提起できるわけではありません。「適格消費者団体」という内閣総理大臣の認定を受けた団体だけが消費者団体訴訟を提起できます(法2条4項)。

平成23年1月31日現在,認定を受けた9つの適格消費者団体の一覧が消費者庁のホームページに掲載されています。関西では,京都と大阪と神戸にそれぞれ1つの認定を受けた適格消費者団体があります。

2 訴訟提起

(1)事前請求

適格消費者団体であれば,事業者に対していきなり訴訟が起こせるというものではありません。適格消費者団体は,訴えを提起しようとする事業者に対して,請求の要旨や紛争の要点などを記載した書面を送付しなければなりません。その書面が事業者に到達してから1週間が経過しないと原則として訴訟は提起できません(法41条1項本文)。

これは,事業者に対して事業是正の機会を与え,紛争の早期解決の機会を確保するためです。したがって,何の前触れもなく,いきなり適格消費者団体から事業者が訴訟を提起されるということはありません。ただし,この適格消費者団体からの事前請求に対して,事業者が和解に応じたとしても,和解内容は消費者庁のホームページで公開されます(法39条1項・23条4項9号)。

(2)訴額・管轄

適格消費者団体が提起する訴えの第1審は地方裁判所で行われることになります。

土地管轄は,通常の訴訟と基本的に同じですが他の裁判所に同一又は同種の訴訟が継続している場合には,移送される可能性もあります(法44条)。そして,同じ裁判所に係属する同一内容の訴訟は原則として併合して審理されなければいけません(法45条1項本文)。

3 訴訟の中身

(1)請求の趣旨

適格消費者団体は,事業者が消費者と契約締結するにあたり,下記(2)の行為を現に行い又は行うおそれがあるときは,その行為の差止めを請求できます(法12条)。ただし,個別の消費者の損害賠償請求を消費者に代わって行うことはできません。

消費者団体訴訟制度の目的が,同種紛争の未然防止・拡大防止であるから差止請求を認めるにとどまっています。個別の消費者の具体的な被害回復までは目的としていないので,損害賠償請求までは認めていません。したがって,事業者が適格消費者団体から損害賠償請求を求められるということはありません。

(2)対象行為

ア 総論

消費者契約法で定められている,適格消費者団体による差止請求の対象となる行為は,大きく分けて①不当な勧誘行為と②不当契約条項の使用があります。

イ 不当な勧誘行為

(ア)事業者の不当な勧誘行為によって,事業者と消費者が契約を締結している場合,事業者は適格消費者団体から不当な勧誘行為による契約締結を止めるように求められる可能性があります。不当な勧誘行為としては,①誤認類型とされるものと,②困惑類型とされるものがあります。

(イ)誤認類型

誤認類型とされるものには,①不実告知(法4条1項1号),②断定的判断の提供(法4条1項2号),③不利益事実の不告知(法4条2項)があります。

不実告知とは,契約の重要事項について事実と異なることを告げることをいいます。例えば,半年間無料と告げてCS放送の受信契約を締結しながら,実際の無料期間は3ヶ月しかない場合等がこの不実告知にあたります(高橋善樹著『消費者団体訴訟制度のしくみと企業の対応実務』(以下「対応実務」という。)69頁)。

断定的判断の提供とは,将来における価格,将来において消費者が受け取るべき金額,その他将来における変動が不確実な事項について,断定的判断を提供することをいいます。例えば,証券会社の担当者から「円高にならない」と言われて外債を購入したのに,円高になったという場合です(消費者庁企画課編『逐条解説消費者契約法(第2版)』(以下「逐条解説」という。)117頁)。

不利益事実の不告知とは,重要事項やそれに関連する事項について利益になる旨だけを告げ,不利益となる事実を故意に告げないことをいいます。例えば,「日当たり良好」との説明を受けてマンションの一室を購入したのに,半年後隣接地に建物が建設され日照が遮られた場合等がこれにあたります(前掲逐条解説120頁)。

(ウ)困惑類型

困惑類型とされるものには,①不退去(法4条3項1項),②監禁(法4条3項2号)があります。

不退去とは,消費者が事業者に対して消費者の住居等からから退去すべき意思を示したのに,事業者が退去しないことをいいます。

監禁とは,事業者が消費者に対して契約締結の勧誘をしている場所から,消費者が退去する旨の意思を示したのに,事業者が退去させないことをいいます。

消費者庁のホームページで公表されている和解事例の1つも,不当な勧誘行為の事例です。英会話講座受講契約締結の勧誘にあたり,いつでも自由に受講日及び受講時間が決められるわけではないのに,決められるかのように告げる不実告知,不利益事実の不告知をしていたこと,さらには家に帰ってから考えたいとする消費者の帰宅を認めない監禁をしていたことを適格消費者団体と事業者が相互に認め,今後はそのような勧誘行為をしないと合意されました。

ウ 不当な契約条項の使用

事業者が消費者と契約書を交わすにあたり,不当な契約条項を盛り込んでいる場合,事業者は,適格消費者団体から不当な契約条項を含んだ契約書による契約の差止めを求められる可能性があります。不当な契約条項としては,①事業者の損害賠償責任を免除する条項(法8条),消費者が支払う損害賠償の額を不当に高額に予定する条項(法9条),消費者の利益を一方的に害する条項(法10条)があります。

消費者庁のホームページで公表されている,2つの判決事例と和解事例の1つも消費者の利益を一方的に害する条項が問題とされた事例です。建物賃貸借契約の終了時に,敷金又は保証金を無条件に一定額控除する旨の敷引特約条項と,利息付金銭消費貸借契約において,期限前に返済する場合期限までの利息以外の金員を貸主に交付する旨の早期完済違約金条項についての事例で,適格消費者団体が事業者に対して,当該条項を使用した契約締結等の停止を求め,裁判所で認められました。また,資格講座の受講にあたり,受講生の解約権をクーリングオフに限るとする契約条項について,適格消費者団体と事業者の間で,転勤や失業等の場合にも解約権の行使を認める条項に改訂する和解が成立しました。

エ 特定商取引法,景品表示法による禁止行為

従来は,差止請求の対象となる行為は,消費者契約法に定める行為に限られていましたが,平成21年の法改正により特定商取引法,景品表示法にも差止請求の対象となる行為が定められました。紙面の都合で詳細には述べませんが,一定の訪問販売や電話勧誘販売,実際よりも著しく優良又は有利と誤認されるような表示について,適格消費者団体から差止めが請求される可能性があります。

4  後訴の制限

一つの適格消費者団体から差止請求訴訟を提起され,確定判決や訴訟上の和解を得た場合,原則として同一の差止請求を他の適格消費者団体から提起されることはありません(法12条の2第1項2号本文)。

これは,同一の事案について複数の判決が出されて判決間に矛盾が生じることを防ぐとともに,事業者に何度も応訴しなければならない負担を負わせないためです。

5 執行

差止請求訴訟は,不当な行為をしてはならないと裁判所が命じることを求める訴訟です。適格消費者団体が勝訴すれば,判決は一定の不作為を命じることになりますので,間接強制でしか強制執行をすることができません(法47条)。

第3 おわりに

以上,概略ではありますが,消費者団体訴訟制度を見てきました。はじめにも述べましたが,消費者団体訴訟制度の対象となる行為は,消費者契約法だけでなく,特定商取引法,景品表示法にも規定されるようになりましたので,契約書のひな型や営業従業員のマニュアルについては一層慎重な対応が求められるようになっています。

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