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学校法人の再建的な法的手続の検討(2011年8月26日)

学校法人の再建的な法的手続の検討

弁護士・ニューヨーク州弁護士 苗村博子

第1 はじめに

18才人口の減少が言われてひさしく,私立学校は,生徒,学生の確保に様々な工夫が必要とされています。また一方で,経営の監視については,会社にとっての株主のような存在がなく,放漫経営に陥りやすいのも,私立学校の経営の難しいところです。

学生が集められなかったり,リスクの高い投資や,財産の私的流用により,学校経営が危うくなった場合,民事再生手続などによって,債務の免除を受けることも,学校の閉鎖という事態を防ぐためには,必要な場合があります。

第2 学校の再建手続きの特徴

今回は,学校の民事再生手続きにおける,通常の会社の場合との違いを見ていくことにしましょう。

ア 学校経営の維持

民事再生手続によれば、学校経営を維持し、学生の就学の機会を奪うことなく、また、教職員についても基本的に、手続申立後も就労の継続がなされます。学校が存続することにより,随時学校が行っている、卒業証書や成績証明書の発行といった卒業生への対応も可能となります[1]。

イ 資金繰りの確保の重要性

学校に限らず,再建的な手続において、最も重要ともいえるのが資金繰りの確保ですが,学校法人の場合は、一般の企業の場合よりもさらに、この問題が深刻です。企業の場合,長くても1、2ヶ月の内に倒産前後の売上が、入金し、キャッシュとなって、その後の経営の費用に宛てることが可能ですが,

学校法人においては、収入の中心が,1年ごと,半年ごとに支払われる,学生からの学費であるため,手元に資金がないという中での申立となってしまうことも多いと思われます。

このような学校法人には,必ずといって良いほど,当初からスポンサーの支援によって,資金繰りがつくことが重要です。

ウ 学生の債権の取扱

民事再生手続においては,手続申立前に成立した債権,すなわち金融機関の貸金債権などは,再生債権と呼ばれ,一定額の免除の対象となります。学生の授業料についても,先に前払いして,学校から授業を受けるという性質上,再生債権となるとの考え方もあります。塾などの破綻の場合,前払いした授業料の返還を求めても,全額は戻ってこないというのが通例です。

しかし,それでは,学生の保護に欠けるというような考え方から,学生のこのような債権を共益債権と考え,学生は,他に優先して授業料の返還請求権があるという考え方もあります。

学生と学校の間の契約(在学契約)を,例えば、大学であれば通常4年間で卒業までの授業を提供することになっているということから考えて、学校側にはその間授業を提供する義務があり、また学生にはその間、継続して授業料を支払う義務がある契約であると考えるのです。そのように考えると、民事再生手続の開始という、倒産の時点において、大学側にも学生側にも双方に未履行部分があることになります。かように解した上で、破綻した学校がこれらの在学契約において、履行を選択すると、学生の反対債権、授業を受ける権利は、共益債権となると考えるのです。しかし,全てを共益債権とすると,スポンサーは,半年か一年分の経費を負担せざるを得ず,相当重いものになってしまいます。私は,学生にも一部を負担してもらうというような柔軟な考え方もできる,再生債権説も一理あるのではないかと考えています。

エ 校地、校舎、その他の資産と担保権者の関係

民事再生申立を必要とするような学校においては、校地校舎や、学校の機材や機器などにも抵当権や譲渡担保権などの担保が設定されていることが多いでしょう。

民事再生手続きでは,担保権者は,手続きの枠外にあり,債務者との交渉(別除権交渉)で合意しなければ,担保権実行を行うことが可能です[2]。

学校にとって,校地校舎は,その存続に是非とも必要なもので,文科省の定める設置基準を満たしている必要があるとされています。よって,担保権者との交渉は,是非とも妥結したいところですが,例えば,大都会の一等地にキャンパスがあるような場合,担保権者は,マンション用地としての価値を担保額と考え,学校側は,学校経営により生み出せる,低い収益でしか評価できないとすると,その溝を埋めるのは簡単ではありません。

スポンサーに一旦買い取ってもらって,そのリースバックを受けるなどの方法が,設置基準との関係で問題とされる可能性もありますが,文科省にも事情説明するなどして,理解を求めることも必要となるでしょう[3]。

どうしても担保権者と別除権協定を結べず,担保権者が強制執行の申立をするような場合には,担保権消滅制度(民事再生法148条)を利用して,その物件の価格を裁判所に納めることで担保権を消滅させることで対抗するしかありません。この校舎を失えば,設置基準を満たさなくなるなどの事情があれば,事業継続に欠くことができないとの点は認めてもらいやすくなります。その際に,裁判所に,物件の価値を,学校の経営で生み出される利益から算定してもらえるかどうかは,スポンサーに資金提供してもらう場合も大事な要素ですが,実際の例はまだないようです。

オ 税務上の問題-債務免除益

次に、再生計画により,債務免除を受ける場合に,通常の会社の場合に最大の問題となるのが,免除益課税の問題です。学校は,学校経営の他に収益事業も営むことが可能で,その場合には,同様の問題が生じますが,収益事業以外には課税されないため、学校経営に関しての負債であれば、債務免除益の問題は考慮しなくてよいことになります。学校の負債が,どのような趣旨で発生したかにも注意が必要です。

第3 スポンサーの協力

学校経営は,スポンサーになり,経営手法を変えたからといって直ちに利益を生むものではありません。もちろん,経費の合理化や,魅力的な宣伝,新規の授業やカリキュラムの導入によって,収益構造は変えられますが,もともと利益を生むことを目的としていいからです。となれば,篤志家的な発想を持つ人,団体でなければ,スポンサーにはなってくれません。学校存続の重要性をアピールすることも大事ですが,学生,教職員の協力を始め,管轄庁の理解や,民事再生手続き上での工夫も含めた,支援体制が必要と考えられます。
[1] 京都地判平成7年9月22日(判タ902号111頁)は、学校は卒業生に卒業証明書を交付すべき義務を認めて、発行されるまでの慰謝料を認めている。同誌には、このような卒業証明書の交付請求権は、在学契約に由来するとの解説がなされている。

[2]学校法人の寄附行為及び寄附行為の認可に関する審査基準(私立学校法31条、私立学校法施行規則2条による)、これは認可基準と呼ばれており、同基準は、校地・校舎が設置基準を満たしていることを要するとしている。

[3]認可基準第1、1、(2)では、校地校舎は自己所有であることを原則としている。

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