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労働者派遣法改正による日雇派遣原則禁止(2012年11月9日)

労働者派遣法改正による日雇派遣原則禁止

弁護士 西村真由美

1 法改正の経緯

平成18年頃から,偽装請負・違法派遣問題,違法な給与天引き,労災隠し,ワーキング・プアなどが問題とされ,特に日雇派遣労働者については,派遣元会社による雇用管理が不十分といわれました。そこへ,リーマンショックに端を発する派遣切りが社会問題化し,日雇派遣に対する規制強化の流れが更に強まりました。このような流れを受けて,平成24年3月28日,派遣労働者の保護を目指し労働者派遣法が改正され,同年10月1日より施行されています[1]。

2 日雇派遣の原則禁止

改正労働者派遣法では,原則として日雇派遣を禁止しています。ここでいう「日雇派遣」とは,日々または30日以内の期間を定めて雇用する労働者派遣のことです。これは,あくまで「派遣元と派遣労働者との雇用契約」の期間が30日以内のものを禁止するのであり,派遣先と派遣元との契約期間を縛るものではありません。日雇派遣の一番の問題は,雇用管理責任が曖昧になる点であり,それは「派遣元と労働者との間の関係の希薄さ」に起因するところが大きいからです。

なお,「30日以内」とされた理由は,30日を超える期間を定めて雇用契約を締結した場合は雇用保険加入の対象となることから[2],適正な雇用管理が可能と考えられる点にあるようです。

3 日雇派遣禁止の例外

(1)もっとも,日雇派遣禁止には例外が認められています(改正労働者派遣法35条の3第1項)。

第一は,当該日雇労働者の適正な雇用管理に支障を及ぼすおそれがないと認められる業務として政令[3]で定める業務について労働者派遣をする場合です。

第二は,雇用の機会の確保が特に困難であると認められる労働者の雇用の継続等を図るために必要であると認められる場合,その他政令で定める場合です。

(2)まず,第一の例外の趣旨は,以下のとおりです。日雇派遣労働者の中には今までどおりの働き方を希望する者も多く,原則禁止にした場合,失職するおそれがあります。また,雇用者責任を果たせない事業者に対しては個別のケースに応じた指導強化で対応することも可能です。そこで,日雇派遣が常態であり,かつ,労働者保護に問題の少ない業務では,政令により限定列挙する形で日雇派遣を認めたのです。

具体的には,改正前の労働者派遣法において派遣期間制限のない業務として列挙されていた“専門26業務”のうち,ソフトウェア開発業務や通訳業務,秘書業務等の“17.5業務”が,日雇派遣原則禁止の例外とされています(政令4条1項)[4][5]。

(3)次に,第二の例外は,政省令[6]に以下のように規定されています。

ア 日雇労働者が60歳以上である場合

イ 日雇労働者が学校教育法の学校(専修学校・各種学校を含む。)の学生又は生徒(定時制の課程に在学する者等を除く。)である場合

ウ 日雇労働者の収入(生業収入)の額が500万円以上である場合

エ 日雇労働者が生計を一にする配偶者等の収入により生計を維持する者であって,世帯収入の額が500万円以上である場合

上記アが例外とされたのは,禁止すると高齢者の雇用機会確保の点で不都合が生じるためであり,他方,上記イ,ウ,エが例外とされたのは,逆にそもそも雇用確保の要保護性が低いためだとされます。

4 企業にとっての注意点

(1)以上の改正に伴い,企業としては以下の点に注意する必要があります。

まず,改正前の専門26業務については,派遣契約上は形式的には専門26業務とされていながら,実態としてはそれ以外の業務に労働者派遣を行うケースが見られたことから,労働局が,専門26業務への該当性につき集中的に指導監督してきました。さらに,行政機関が,例外業務の該当性に関する解釈を変更することで,これまで17.5業務に該当するとされてきた業務についても,例外には該当しないと判断するおそれがあります。したがって,企業としては,専門業務の該当性についての行政機関の解釈に注意していく必要があります。人材会社の中には,例外規定は運用次第で大きく変わるリスクがあり,それに頼っていては事業の安定性を確保できないという意識のもと,日雇派遣は全て使えなくなるという前提で事業構築しているところもあるようです。

(2)次に,物流業界等,繁忙期のある業界が派遣先である場合,人手不足に拍車がかかることになります。

対応策としては業務請負とすることが考えられますが,偽装請負とならないよう注意が必要です。また,『日々紹介』といわれるシステム(利用者が労働者と直接雇用契約を締結する点に着目し,給与振込を除く労務手続きを代行するシステム)も,対応策の一つとして考えられます。しかし,日々紹介は事実上の日雇派遣とみられるリスクがあり,コンプライアンスリスクは増すといわざるを得ません。さらに,『雇用管理代行』という,求人や雇用管理を代行する仕組みも考えられますが,これも,利用者の直接雇用となりうるため,日々紹介と同様のリスクが生じます。

このように,繁忙期のある企業では,人員を派遣労働者に頼ることができなくなるため,計画的な人員募集が必要です。また,人材調達ができても,個々の仕組みに応じたコンプライアンスリスクに充分な注意を払う必要があります

(3)改正労働者派遣法は施行されたばかりであり,行政がどのような態度をとるかにつき,今後の運用を注視していく必要があります。

[1]本改正により,労働者派遣法の正式名は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」から「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」に改正され,法律の目的にも,派遣労働者の保護のための法律であることが明記されました。

[2]雇用保険法6条3項

[3]改正後の労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行令(以下「政令」とします)第4条

[4]厚労省ホームページ http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/haken-shoukai/kaisei/02.html

[5]日雇派遣禁止の例外業務が“17.5業務”と表現されているのは,改正前政令4条1項第16号で,「受付・案内」と並んで「駐車場管理等」が規定されていたところ,今回の改正で,案内・受付は日雇派遣禁止の例外とされ,駐車場管理は例外とされなかったことによるものです。

[6]政令4条,改正後の法施行規則(以下「省令」とします)第28条の2及び第28条の3

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