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判決の送達を欠いた外国判決の承認(2019年5月29日)

最判(二小)平成31年1月18日(裁判所ウェブ)
判決の送達を欠いた外国判決の承認

弁護士・大阪大学名誉教授 渡辺 惺之(わたなべ さとし)

・民訴法118 条2 号は敗訴被告への訴訟開始文書の送達を外国判決の承認要件とする。その文書の送達(公示送達を除く)が被告の応訴権を保障するからである。最判平成31 年1 月18 日は、訴訟開始文書ではなく、敗訴被告への判決送達を欠く外国判決の承認に関する判例である。控訴審は、日本在住被告への送達を欠く米国(カリフォルニア州)デフォールト判決について、「判決や決定の当事者に対する送達は、裁判所の判断に対して不服を申し立てる権利を手続的に保障するものとして、我が国の裁判制度を規律する法規範たる公の秩序の内容となっている」とし、「欠席判決であるが故に欠席当事者…への送達を要しないものとされているとしても、そのような訴訟手続自体が日本における公の秩序に反する」として承認を拒絶し執行判決請求を棄却した。これに対し上告審は「外国判決に係る訴訟手続において、当該外国判決の内容を了知させることが可能であったにもかかわらず、実際には訴訟当事者にこれが了知されず又は了知する機会も実質的に与えられなかったことにより、不服申立ての機会が与えられないまま当該外国判決が確定した場合,その訴訟手続は、我が国の法秩序の基本原則ないし基本理念と相いれないものとして、民訴法118 条3 号にいう公の秩序に反するということができる」と判示し、原審に差し戻した。

・敗訴被告への判決送付は、訴訟開始文書の送達と違い、法廷地訴訟法上の訴訟法律関係にある当事者として送達という方式に限定する必要はない。上訴権の保障には判決内容の了知で足りるとの基準は合理的である。ここでの外国判決承認の実質的な公序基準は上訴権侵害に当たるのかにある。通常、法廷地国外在住の当事者は法廷地訴訟法により国内の送達場所や送達受理代理人等の届出が求められるので、判決の不送達は例外的な事故が多い。敗訴被告の側に法廷地訴訟法が課している訴訟当事者としての義務過怠による送達事故もある。国により職権送達主義か当事者送達主義かによる違いはあるが、送達がなく敗訴被告が了知を欠いた場合でも常に上訴権の侵害があるとは限らない。敗訴被告に「了知させることが可能であった」のに「了知されず又は了知する機会も実質的に与えられなかった」かの判断が問題となる。

・本件で問題となった米国デフォールト判決は、一般に欠席判決と訳されるが、懈怠判決という方が適切である。欠席当事者に相手方主張事実への擬制自白を認めて下す日本法の欠席判決とは異なり、英米法の懈怠判決は裁判所の期日出頭命令に対する不服従当事者への制裁として対立当事者の請求を認容する制度である。本件も、被告が米国訴訟の途中で代理人を解任し後任を選任せず期日欠席を続け、裁判所の代理人選任と期日出席を命じた懈怠警告付き決定への違反事例である。この命令違反による懈怠判決は判決登録日に確定し、懈怠当事者へは送達されない(FRCP77 条(d)(1))。懈怠当事者は自ら訴訟離脱し防御権を放棄した(out of court)とされる。この米国デフォールト判決を公序違反として判決の効力承認を拒絶すべきかであり、上訴権の実質的な侵害と判断すべきかである。

・日本の民事訴訟において、外国被告が、例えば国内訴訟代理人を解任し届出場所での送達受理ができない状態にしながら、その所在も明らかでない場合、判決の公示送達を認める見解も有力である(秋山・伊藤・加藤・高田・福田・山本『コンメンタール民事訴訟法Ⅱ』419 頁)。ドイツ法は外国当事者が送達受理代理人の指定をしない場合、その外国住所に付郵便送達を認める(ZPO184 条(1)、芳賀雅顕『外国判決の承認』153 頁)。スイス連邦裁判所は、スイス法も同様な場合に公示送達を認めるとして、被告は警告を無視して期日不出頭を続けたのであり、自ら上訴機会を放棄したに等しいとし、公序違反をは認めず米国判決を承認した(BGE116II625,1990/12/19)。被告自らの手続過怠の結果で上訴権の侵害ではないとした。

・以上とは異なり、判決の送達は欠いたが、敗訴被告が実際には了知していた、つまり上訴は実際には可能であった事情を挙げて、公序違反は生じていないというアプローチもあり得る。本件でも、米国訴訟の原告代理人が法的義務はないが自発的に被告本人に敗訴判決を送付し、被告の所在変更のため受理されなかったが被告は了知していたとか、被告に対する米国での別件手続においてデフォールト判決の了知があったとかの主張もある。偶然的な了知によって実際には上訴権の侵害はなかったという主張もあり得る。

・第1 の公序違反の主張は、敗訴被告が制度的な上訴権保障を自身の懈怠により放棄したと看做すことの相当性という帰責性が重要になる。これが認められない場合でも、敗訴被告が偶然的事情により了知していて実際には上訴の機会は失われていないという第2 のアプローチもあり得る。偶然の了知による上訴権侵害の治癒の相当性が問題となるが、デフォールト判決に関する公序違反の論理としては被告の手続過怠の帰責性を問題とするのが本筋に思われる。

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