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フランチャイズ契約における情報提供義務と競業避止義務が問題となった事例(2013年10月9日)

フランチャイズ契約における情報提供義務と競業避止義務が問題となった事例

弁護士 西村真由美

【はじめに】

今回は,フランチャイズ契約(以下「FC契約」という)における情報提供義務と競業避止義務が問題となった大阪地判平成22年5月27日(判時2088号103頁)をご紹介します。

フランチャイズにはいくつかの定義がありますが,一般的には,本部(フランチャイザー)が加盟者(フランチャイジー)に対して,特定の商標,商号等を使用する権利を与えるとともに,加盟者の物品販売,サービス提供その他の事業・経営について,統一的な方法で統制,指導,援助を行い,これらの対価として加盟者が本部に金銭を支払う事業形態であるとされます[1]。

【事案の概要】

高齢者向け弁当宅配事業を営むフランチャイザーである原告が,元フランチャイジーである被告に対し,被告との間で締結したFC契約(以下「本件FC契約」という)解除後も高齢者向け弁当宅配事業を継続しているとして,本件FC契約における競業禁止特約[2]に基づき,営業の差止めを求めました(第1事件)[3]。

これに対して,被告は,本件FC契約締結に当たり,原告が誤った売上予測を提供したために,被告において損害が生じたとして, 被告が原告に対し,債務不履行[4]に基づき,加盟金,ロイヤルティ等合計3861万円の損害賠償を求めました(第2事件)。

【争点】

1 被告の競業避止義務違反の有無

2 原告の情報提供義務違反の有無

【判旨】

第1事件請求認容,第2事件請求棄却

争点1(被告の競業避止義務違反の有無)

(1) 結論

義務違反を肯定

(2) 理由

本判決は,「競業禁止特約は,その制限の程度いかんによっては営業の自由を不当に制限するものとして公序良俗に反して無効になる場合がある」とした上で,「本件FC契約における競業禁止特約は,・・原告の経営ノウハウの保護を目的としているものと解される。このような目的に照らすと,期間を5年として,対象者を加盟者及びその関係者とし,区域を定めず,経営だけでなく出資や従事を禁止することも直ちに合理性がないとまではいえず,これに加え,同特約には,期間,業種の限定があり,条項上は地域的限定がないものの,原告の本件請求においては,旧a奈良南店と同一店舗及び奈良県内と区域が限定されており,違反した場合における違約金の定めもないことを併せ考慮すると,同特約は加盟店の営業の自由を不当に制限するものとはいえず,公序良俗に反するものではないというべきである。」として,競業禁止特約を有効とし,被告が,本件店舗と同一の場所において弁当の宅配を行っており,そのメニューや価額がほぼ同一であることから,原告と同一の事業を行っているものと認められるとして,被告の競業禁止特約違反を肯定しました。

争点2(原告の情報提供義務違反の有無)

(1) 結論

義務違反を否定

(2) 理由

本判決は,「フランチャイズ・システムにおいては,一般にフランチャイジーは,店舗経営の知識や経験に乏しく,フランチャイザーから提供される情報に大きな影響を受けるのが通常であり,また,フランチャイズに加盟しようとする者にとって,フランチャイザーから提供される売上予測は,加盟するか否かを決定する際の重要な要素となるから,FC契約締結に向けた交渉の過程において売上予測を提供する場合には,フランチャイザーは,フランチャイジーに対し, 客観的かつ正確な情報を提供すべき信義則上の保護義務を負っているものというべきである。」とした上で,本件FC契約締結前に,原告は被告に対して,当時の被告の収入と同程度の収入を得ることが可能である旨述べただけであって,明確な売上予測として示されたものではない上,被告が営業努力によって顧客を獲得することを前提とした説明であって,その説明において必ず原告提示の35,6万円の収入が得られると誤認させるものであったとは認められず,被告がその収入を得ることはできていないのは,本件店舗における被告の経営の仕方に由来するものであって,原告の売上予測が誤りであったことの根拠にはならないとして,原告の情報提供義務違反を否定しました。

【検討】

1 情報提供義務違反の判断基準

本判決は,「信義則上の保護義務」として,フランチャイザーが,FC契約締結に向けた交渉の過程において売上予測を提供する場合には,フランチャイジーに対し客観的かつ正確な情報を提供すべき義務を負うと認めた上で,原告にその義務違反は認められないとしています。一般的に,フランチャイザーとフランチャイジーとの間には知識,経験及び情報の格差が存在することから,フランチャイザーが,フランチャイジーになろうとする者がFC契約を締結するか否かについて的確な判断ができるよう正確な情報を提供すべき信義則上の義務を負うことについては,判例法理として確立しています[5]。

もっとも,一般論として,フランチャイズ・システムにおける事業リスクはフランチャイジーが負担するのが原則であるため,売上予測は,実際に予測と異なる結果が発生したとしても,それ故に直ちに義務違反となるわけではありません[6]。これまでの裁判例においては,売上・収益予測に関する情報提供義務違反の判断基準として,①売上・収益予測の手法の相当性・合理性,及び②売上・収益予測の適用過程の相当性・合理性という2点を考慮しているようです[7]。

2 競業禁止特約について

競業禁止特約とは,契約期間中あるいは契約終了後において,相手方に対して,自己と同種の事業を行うこと等の競業行為を禁止する特約であり,これには,自ら競業事業を起こすことのみならず,競業他社へ就職することをも禁じる内容を含まれます。FC契約においては,フランチャイザーは,フランチャイジーに対し,営業秘密,ノウハウ及び内部情報等を提供するため,フランチャイジーがフランチャイザーと同一または類似の営業をしたり,提供を受けた営業秘密等を不正に利用したりすることは,フランチャイザーのみならず当該フランチャイズ・システム全体を脅かすものになりかねません。そのため,FC契約においては,一般的に,フランチャイジーによる競業や秘密開示を防止するために競業避止義務に関する規定が設けられます。

もっとも,契約終了後もフランチャイジーに競業避止義務を負わせることは,フランチャイジーの営業の自由や職業選択の自由を制限し,また,投下資本回収を妨げるなど,フランチャイジーにとって大きな不利益となります。そこで,裁判例[8]では,かかる競業制限が合理的であるか否か,具体的なケースごとに合意の対象となった期間・地域・営業の種類などについてその程度を見極め,公序良俗違反の存否を通して,特約の有効性が判断されています。

本件の競業禁止特約は,期間を5年とし,地域限定がないという点では,相当程度被告の営業の自由を制限しているようにも見えます。しかしながら,かかる場合でも,特約に基づく実際の差止め請求において区域を限定することにより,場所に関する制限の合理性を確保する可能性が肯定されている点は,留意すべきであると考えられます。

[1]「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」(平成14年4月24日公正取引委員会)

[2] 本件FC契約においては,「被告又は被告の関係者は,原告の承諾なく,本件FC契約の有効期間及び同契約終了後5年間は,当チェーンの事業の経営,出資,従事等をしてはならない。」旨の特約が存在しました。

[3] 原告は,この他に被告に対し未払のロイヤルティ等合計512万円余りの支払を求め,全額認容されています。

[4] 被告は,本件FC契約締結前の情報提供義務違反の他にも,原告が契約締結後に適切な経営指導等をしなかったとして債務不履行を主張しましたが,判決では,経営改善のための指導等が行われていたとして,原告の経営指導義務違反は否定されています。

[5] 「コンビニエンス・フランチャイズ・システムをめぐる法律問題に関する研究会報告書(1)」NBL948号

[6] 西口元ほか編「FC契約の実務」新日本法規出版株式会社

[7] 前掲「コンビニエンス・フランチャイズ・システムをめぐる法律問題に関する研究会報告書(1)」

[8] なお,FC契約における競業避止義務違反の有無の判断にあたっては,単にフランチャイジーの投下資本回収の必要性が認められるというだけでなく,フランチャイザーによる不適切な勧誘行為を契機として,フランチャイジーが多額の資金を投下することになったという点を重視し,競業避止義務違反を認めた裁判例(大阪地判平成22年5月12日判時2090号50頁)もあり,情報提供義務違反が競業避止義務違反に影響を与えるものとして参考になると考えられます。

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