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テレワークに伴う「ジョブ型」雇用の導入

弁護士 倉本武任

1.はじめに

労働者が多様な働き方を選択できる社会の実現を狙いとした働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)(以下、働き方改革関連法といいます。)が2018年6月29日に成立してから、はや2年が経過しようとしています。

働き方改革関連法は1つの法律ではなく、労働基準法、パートタイム労働法などの労働関係法令を改正するものですが、同法の概要においては、労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する働き方改革を総合的に推進することを目的として、①働き方改革の総合的かつ継続的な推進、②長時間労働等の是正、多様で柔軟な働き方の実現、③雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保を3つの柱とすることが掲げられています[1]。この②の多様で柔軟な働き方を実現する手段として、テレワーク[2]という手段が着目されていました。本稿では働き方改革が期待したテレワークとはどういうものであったか、コロナ禍により結果としてテレワークが浸透したことで、昨今、いくつかの企業が導入を検討している「ジョブ型」雇用について、その導入にあたっての留意点について検討したいと思います。

2.働き方改革が期待したテレワークとは

働き方改革関連法の成立前に、政府主導の働き方改革実現会議が決定した「働き方改革実行計画」の中では、働き方改革の実現に向けた9つの検討テーマの1つとして「柔軟な働き方がしやすい環境整備」が掲げられ、そこでは、テレワークは、時間や空間の制約にとらわれることなく働くことができるため、子育て、介護と仕事の両立の手段となり、多様な人材の能力発揮が可能となると掲げられています[3]

働き方改革が主眼としたのは、上述のような時間、場所に拘束される働き方ができなかった層にも参加しやすい労働環境を作るという点にありますが、結果としてはその導入は進んでいませんでした[4]。このように導入が進まなかった背景には、テレワークは、勤務時間管理が困難であり、企業としても、平時に導入することによる費用対効果を考えると規模の大きい余裕のある大企業を除けば、なかなか、導入に前向きにはなれなかったものと考えられます。他方で、コロナ禍により、テレワークが難しい職種を除けば、少なくともオフィスワークの従業員に対するテレワーク(在宅勤務)の導入は、緊急事態宣言を受けての外出自粛要請に伴い、まさに非常時の企業の事業継続性の確保のため、緊急的に大きく進みました。

3.「ジョブ型」雇用の導入について

当初の働き方改革関連法が想定しない形で、結果として在宅勤務という形態が広がることになりましたが、在宅勤務制を採用する場合の課題は勤務時間管理の困難性です。この点について、いくつかの企業では、新型コロナウイルスの終息後も在宅勤務を続け、働きぶりが見えにくい在宅でも生産性が落ちないよう職務を明確にする「ジョブ型」雇用を本格的に導入することが検討されています。ここでいう「ジョブ型」雇用というのは、明確に行うべき職務が与えられ、それが達成された成果やスキルに応じて給与額が、決まるというものです。確かに勤務時間でなく成果で評価する制度であれば、在宅勤務において、労働時間を管理する必要性も少なくなります。

このような自己管理型の労働者を想定した成果主義的な制度については、実際に上述の働き方改革関連法による労働基準法の改正の1つである高度プロフェッショナル労働制(労基法41条の2第1項)が存在しています。

この制度においては、所定外労働についての割増賃金支払を不要となるため、賃金面で労働者の不利益となる可能性があることから、当該業務が高度に専門的なものであって労働時間を拘束することが労働者の能力発揮の妨げとなることや、割増賃金不払を補ってあまりある経済的待遇が与えられることが同制度が妥当性をもつ理由となります。

そうだとすれば、上述のような前提が認められないなかで、テレワークによる労働時間管理の困難性という理由のみをもって、自己管理型の労働者を想定した成果主義的な制度を取り入れることはできません。現在雇用関係にある従業員との間では、職務を与えての雇用とはなっておらず、そのような中で、高度プロフェッショナル労働制等の制度を適用することなく労働時間管理を完全になくすということはできないと思われます。

4.「ジョブ型」雇用の導入にあたっての留意点

既存の職務無限定の正社員について、「ジョブ型」雇用による正社員[5]とするため、従来の勤続年数による年功序列型の賃金体系を成果主義的な賃金制度に変更するのだとすれば、労働者によっては、賃金額が大幅に減額する場合もあり得、労働条件の不利益変更に該当する可能性があり[6]、対象となる労働者との間で個別に同意するか、就業規則の変更(労働契約法10条)又は労働協約による変更が必要となります。労働契約法10条は、労働者の同意の有無にかかわらず終業規則を変更できるのは、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、変更の必要性、変更内容の相当性等を考慮して合理的な場合で、労働者と使用者が当該労働条件について就業規則の変更によって変更できない旨の特別の合意をしていない必要があり、その変更内容によっては、その合理性が否定されるリスクもあります。

したがって、「ジョブ型」雇用を導入するとしても、まずは対象となる労働者との間で個別に同意を検討し、同意を得るにあたっても、仕事の内容の決定、仕事の成果の判断は誰が行い、どのような基準に基づいて行われるのか、仕事内容の変更の可能性や就業場所としてテレワークを認めるのであれば、テレワーク時の始業・終業時間・休憩時間・超過労働時間の管理を従業員に任せつつ、これらの時間を把握する方法(始業・終業時にメールで通知する又は自身で労働時間を記録し、報告してもらうなど)等、その中身については、細かな点を含めて労使間で十分に話し合い決めるべき必要があると考えられます。

5.テレワークをいきなり成果と結びつけない

少なくとも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンや有効な治療薬が開発、普及されるまでは、従業員の安全配慮義務を超え、社会の一員として、感染者を増やさないという観点でもテレワークを考える必要があるでしょう。テレワークによる方が成果が上がるからというのではなく、社会から必要とされているからテレワークを続けるのであって、その中で、時間管理の工夫、成果を上げる工夫を労使間で作り上げていくという視点が必要ではないでしょうか。

以上

[1] 厚生労働省『働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律 概要』

[2] 厚生労働省『テレワークではじめる働き方改革』7頁 テレワークとは、ICT(情報通信技術)を活用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方であり、テレワークには、①在宅勤務、②モバイルワーク、③サテライトオフィス勤務という3つのスタイルがあるとされています。

[3] 働き方改革実現会議決定『働き方改革実行計画(概要)』平成29年3月28日

[4] 総務省『平成30年通信利用動向調査の結果』令和元年5月31日 スライド6によれば、企業においてテレワークを導入している又は具体的な導入予定があるのは、26.3%(導入しているが19.1%、導入予定が7.2%)[4]とされています。

[5] 内閣府規制改革推進会議『ジョブ型正社員(勤務地限定正社員、職務限定正社員等)の雇用ルールの明確化に関する意見』においては、「職務か勤務地、あるいは労働時間のいずれか、または複数の要素が限定されている社員」と定義されています。

[6] 労働契約法10条の「変更」には、不利益変更の可能性も含むとされています(東京高判平成18年6月22日 労判920号5頁)

企業と人権-現代奴隷法の持つ意味

弁護士 苗村 博子

 

1.現代の奴隷

私が小学生だった半世紀前頃、時々買ってもらえるととても嬉しかったのが、世界子供文学全集(名前がはっきりしません)で、その中のアメリカ編、ストウ夫人著の『アンクルトムの小屋』は、何度も読み返しました。物のように売り買いされ、綿花採取などの過酷な労働を強いられるといった待遇があらわになり、後の南北戦争の契機になったとの逸話まで、リンカーン大統領の言葉とともに著者の名前まで記憶に残る小説でした。

現代にも奴隷が?と思われるかもしれませんが、今も奴隷と呼ぶしかない過酷な労働環境で働いていたり、人身売買の対象となっている人たちは、4,000 万人を超えているとのことです※1。このような奴隷労働や人身売買に加担しないことを企業に約束させるとともに、対象となった企業だけでなく、そのサプライヤーについてもそのような酷い労働をさせていないかチェックさせる必要があるとして、OECD(経済協力開発機構)でも協議され、世界中で企業に人権の保護を求める法律が施行されています。そのいくつかをご紹介いたしましょう。

 

2.英国の現代奴隷法

(Modern Slavery Act 2015)

英国で事業を行っていて、一年の売上高がその子会社分も含め、世界で36百万ポンド(約50 億円)を超える企業は、自ら及びそのサプライチェーンにある企業において、現代の奴隷行為や人身売買が行われないよう必要な措置をとったこと(取っていなければいないこと)を報告しなければなりません。この報告書には、①その組織・事業内容・サプライチェーン、②奴隷行為や人身売買に対抗するポリシー、③自らの事業やサプライチェーンにおいてこれらが行われていないかについてのデューディリジェンスの方法、④自らの事業やサプライチェーンにおいてこれらが行われるリスクとそれに対して取った対処方法、⑤取った措置が適当であると考える理由、⑥従業員等に対して行っている研修について述べなければならないと内務省のガイドラインは説明しています※2。そして企業が会社組織であれば、この報告書に対し取締役会における承認と取締役の署名が必要とされ、企業が、ウェブサイトを持っていればこの陳述書を公表しなければならないとされています。また、奴隷行為や人身売買が外国で行われていることが疑われた場合の対処法もガイドラインは示していて、場合によっては、その地域の政府や法執行機関にまず駆け込むのではなく、NGO や産業界、貿易機関等、救済策を考えてくれる組織に相談するのがよいとしています。

この法律は、Bribery Act のように巨額の罰金を科すとして強制的に対応させるのではなく、報告書に取締役に署名させ、公表させることにより、もしこの公表内容と内実が異なっていて、奴隷労働が行われていたような場合には、その会社の評判が下がることについて、一定の民事的な責任が取締役に課されうるという間接的な強制方法をとっている点です。罰金のような直接効果はなくても、署名させられる取締役にとっては大きなプレッシャーになります。

 

3.フランス自主調査法

(Law on the Duty of Vigilance)

この法律は、2017 年2 月に成立しました。フランス国内に5,000 人以上の従業員を有するか世界で1 万人以上の従業員を有するフランス会社法による会社が親会社となっている企業グループが対象です。フランスに本拠を置いていたり、フランス子会社およびその子会社が1 万人の従業員を擁している日本の会社は多くはないと思われますが、この法律は、英国の現代奴隷法と似た開示義務を課しています。対象となる企業は、自らの事業、サプライチェーンにおいて、人権侵害、自由の侵害等に関し、リスクマッピング、問題行為発見時の対策、リスクを減少させるための措置、監視システムが効果的な方法で実施されるよう計画を策定して、これを実施するとともに、その施策を開示する義務を負うことになります。

英国とは違って、これらの施策の有効的な実施のため、この法律は、裁判官による実施命令と、実施されなかった場合に損害を被った者による賠償請求を認めています※3

 

4.カリフォルニア、サプライチェーンの可視化法

(The California Transparency inSupply Chains Act 2010)※4

カリフォルニアは、奴隷行為や人身売買に対して、企業が関与しないようにといち早く法制化した州といえるでしょう。その方法論は、英国やフランスにも影響を及ぼしたものと思われます。

カリフォルニアで事業を行っている、(納税申告書に)小売業または製造業として届けている会社で、年間売上が世界全体で1 億ドルを超える会社には、自らのウェブサイトに①製品のサプライチェーンにおいて人身売買や奴隷行為が有るかの評価とリスクについて述べること、②サプライヤーが、自社のスタンダードに準拠してこれらの行為を行わないようにしているかの監視を行っていること、③自社に直接納入しているサプライヤーに対して、サプライヤーが事業を行っている各国において、人身売買や奴隷行為に関する法を遵守して、原材料を製造していることについての証明を求めていること、④従業員や契約相手が間違ってこれらの行為を行わないように内部の説明準則を維持すること、⑤購買に直接責任のある従業員や経営陣に対し、サプライチェーンでかような行為が起こるリスクを軽減するための研修を行っていることについて、掲載しなければなりません。これらに従っていない場合には、司法長官が差止命令(injunctive relief) を求めて会社に対し、提訴することができます。

 

5.オーストラリア 現代奴隷法

オーストラリアでは、本年から英国と同様の現代奴隷法が施行されました。年間売上が1 億豪ドル以上のオーストラリア法人及びオーストラリアで事業を行っている法人が内務大臣への年次の報告書を提出し、内務大臣がこれを無償でインターネット上で公開するとの事です※5

 

6.日本

外国人実習生の過酷な実態など現在の日本にも奴隷労働というべき労働環境があると言われているにも関わらず、かような法制を求める声も残念ながら聞こえてこないのが現状です。働き方改革、ブラック企業などというだけで、奴隷労働を防ぐ手立てとしての、企業の監視という発想がないように思います。世界で事業を展開する日本企業は、まず海外の法制で、この問題の重要性に気付かされることになりますが、日本においても、問題があることをしっかり受け止める必要があるように思います。

 

※ 1: 原田久義国会図書館 調査及び立法考査局調査室主任調査員著「【オーストラリア】2018 年現代奴隷法」

※ 2: 法律自体は“may include” としていますが、2017 年の改訂されたガイドライン「Transpalancy in SupplyChain, practical guide」は、”should include”として、陳述書に①~⑥の記載が必要としています。https://www.gov.uk/government/publications/transparency-in-supply-chains-a-practical-guide

※3: 以上、SherpaというNGOによるガイドライン(VigilancePlance Rreference Guidance)

※ 4: サプライチェーンの人権問題に対処する連邦法であるNamrun Quarterly 21 号でご紹介した米国DoddFrank 法による紛争鉱物規則自体は,議会が廃止の決定をしたようです。

※5: 前掲※1 に同じ

クロレラチラシ配布差止訴訟と消費者契約法上の「勧誘」の意義

弁護士 田中 敦

1. はじめに
本年1 月24 日、最高裁が、サン・クロレラ販売株式会社(以下「サン・クロレラ」といいます)による広告チラシの配布について、消費者契約法上の「勧誘」に該当し得るとの判断を下しました。当該判断は、不特定多数に向けた広告であっても、消費者契約法に基づく差止請求等の対象となり得るとする点で、従前の行政解釈を実質的に変更するものであり、今後の広告の在り方に大きな影響を与えるものと考えられます。

2.事実の経緯

サン・クロレラは、昭和48 年頃からクロレラ(単細胞の緑藻類)を原料とした健康食品を販売している会社です。
平成25 年8月、「日本クロレラ療法研究会」の名義で、クロレラには免疫力を整え細胞の働きを活発にするなどの効用がある旨の記載や、クロレラの摂取により高血圧等の様々な疾病が快復した旨の体験談等の記載がある折り込みチラシ(以下「本件チラシ」といいます)が配布されました。本件チラシには、具体的な商品名の記載はなく、本件チラシに記載された研究会の連絡先への問合せがあれば、サン・クロレラから問い合わせた者へ商品カタログが送付されていました。
消費者契約法に基づく認定を受けた適格消費者団体(特定非営利活動法人京都消費者契約ネットワーク)は、本件チラシの配布は消費者契約法上の「勧誘」にあたり、サン・クロレラが実質的な配布主体であるところ、本件チラシには消費者に対する不実告知が含まれると主張して、その配布の差止めを求めて提訴しました 。
原判決(大阪高裁平成28 年2 月25日判決)は、景品表示法に基づく差止請求※1 を認めた第一審判決(京都地裁平成27 年1 月21 日判決)を破棄した上、消費者契約法に基づく差止請求についても、同法上の「勧誘」には「事業者が不特定多数の消費者に向けて広く行う働きかけ」は含まれず、本件チラシの配布は「勧誘」にあたらないとして、適格消費者団体の請求をすべて棄却したところ、これに対し同団体が上告しました。

3.最高裁の判示した内容

(1) 本件における争点
(消費者契約法上の「勧誘」の意義)消費者契約法4条各項は、事業者による消費者契約の締結の「勧誘」に際して、不実告知(重要事項について事実と異なることの告知)や不利益事実(重要事項について消費者の不利益となる事実)の不告知を禁止し、これに違反した場合の消費者の取消権を定めています。また、同法12 条1項及び2 項では、適格消費者団体は、消費者契約の締結の「勧誘」に際し、事業者が上記の各禁止行為を現に行い、または行うおそれがあるときには、当該事業者に対し、それら行為の差止め等を求めることができると定めています。
本件の最高裁判決では、本件チラシの配布が、消費者契約法上の「勧誘」に該当し、適格消費者団体による差止めの対象となるか否かが争点となりました。

(2) 最高裁の判示
最高裁は、本件チラシの配布が「勧誘」にあたらないとした原判決の判断を是認することができないと判示しました。
その理由として、最高裁は、消費者契約法は消費者の利益の擁護を図ること等を目的とするところ、事業者が「その記載内容全体から判断して消費者が当該事業者の商品等の内容や取引条件その他これらの取引に関する事項を具体的に認識し得るような新聞広告により不特定多数の消費者に向けて働きかけを行うときは、当該働きかけが個別の消費者の意思形成に直接影響を与えることもあり得る」として、不特定多数に向けた働きかけを一律に「勧誘」から除外することは同法の趣旨目的からして相当でないことを挙げました。
もっとも、最高裁は、サン・クロレラは本件チラシを現に配布しておらず、また配布するおそれもあるとはいえないとして、結論としては適格消費者団体の請求をいずれも棄却した原判決を是認しました。

4.本判決が今後の広告実務に与える影響

どのような消費者への働きかけが消費者契約法上の「勧誘」にあたるかについて、従前の消費者庁の見解※2 では、不特定多数の消費者に向けて広く行う働きかけは「勧誘」には含まれないと解されていましたが、これに対する根強い反対意見もありました。
この点、本判決は、不特定多数に向けた働きかけであっても「勧誘」に該当し得ると判示し、従前の行政解釈を実質的に変更したものといえます。現に、本判決翌日の消費者庁の会見※3 では、消費者庁長官から「昨日出されました最高裁の判決は、大変重要なものと考えております」と述べられ、その後消費者庁が改定した消費者契約法の逐条解説では、本判決に関する記載が新たに設けられるに至りました。
本判決は、今後の広告実務にも大きな影響を与え得るものです。例えば、事業者のウェブサイト上での商品紹介が「勧誘」にあたるとすれば、当該サイトでの商品内容、価格、取引条件等の説明中に不実告知や不利益事実の不告知があると判断された場合、当該商品を購入した消費者による取消権が発生し、また、そのような広告は適格消費者団体からの差止請求の対象となります。そのため、事業者としては、不特定多数の消費者に向けた広告チラシやインターネット広告であっても、その記載内容から消費者に誤認を生じさせることのないよう、より慎重な検討が求められることとなります。

5.おわりに

消費者契約法に関する規制以外でも、昨年4月に景表法の不当表示への課徴金制度が導入され、本年1 月には自動車メーカーに対し4 億8000 万円程の課徴金納付が命じられるなど、広告表示への規制は近年さらに厳格化しています。各事業者においては、広告規制への違反が重大な経済的リスクや信用棄損につながり得ることを認識した上、自社広告のチェック・管理体制の整備への意識を高めることが重要となります。

 

※ 1:消費者契約法に基づく差止請求と合わせて、本件チラシの記載内容が優良誤認表示に該当するとして、景品表示法に基づく差止請求がなされました。第一審判決は、サン・クロレラと本件チラシ作成者の一体性、及び、本件チラシの優良誤認表示該当性を認め、同法に基づく配布の差止めを命じました。しかし、原審判決では、サン・クロレラが本件チラシを今後配布するおそれが認められないとして差止めの必要性が否定され、同法に基づく適格消費者団体の請求が棄却されました。
※ 2:消費者庁消費制度課『逐条解説消費者契約法[第2版補訂版]』(商事法務・2015 年)109 頁
※ 3:消費者庁ウェブサイト「岡村消費者庁長官記者会見要旨(平成29 年1月25日(水))」の「2.質疑応答」

公益通報者保護法以外の内部通報の保護

弁護士 苗村博子

1. はじめに

日本では文科省、米国では FBI と、公務員からのマスコミへの通報が内部告発として許容されるのかどうかに関心が集まっています。内部告発といえば、「公益通報者保護法」を思い浮かべる方も多いと思いますが、この法律は、それまで外部に告発した通報者への解雇、不利益取扱いに関する判例の基準に明確性を与えるために作られた法律で、 その適用の射程が狭く、この法律だけでは、保護が必要と思われる内部通報をすべてカバーすることができません。同法 6 条自体が、他の法律による保護を妨げないと明記しています。したがって労働基準法や民法に基づく解雇権濫用法理などで、解雇を無効とする実務は、公益通報者保護法施行後も続けられており、様々な方策で通報者保護が図られています。

2.公益通報者保護法の保護範囲

まず、国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法令の遵守を図るために、公益通報者を保護する法律であることから、通報対象事実は国民生活に関わる限定列挙された法律で、①直接刑事罰の対象となるか、②違反行為に対する処分への違反が刑事罰の対象となるものに限られています。また、外部への通報ができる場合は、権限のある監督官庁に対して行う場合でも、「信じるに足りる相当の理由がある場合」に限られます。マスコミ等、通報することで発生や被害の拡大を防止するために必要と認められる者に対する場合は、①内部や監督官庁に通報すれば不利益取扱をされると信じるに足りる相当の理由がある場合、②内部に通報すれば証拠等が隠滅されると信じるに足りる相当の理由がある場合、③労務提供先から正当な理由なく通報を止められた場合、④書面によって内部に通報してから 20 日を経過しても調査をする旨の通知がないか、正当な理由がないのに調査しない場合、⑤個人の生命身体に危害は発生する急迫した危険がある場合に限られているのです。
ちなみに公務員も公益通報者に該当するのですが、アメリカの FBI 前長官の例などは、日本に司法妨害罪がないだけでなく、国民の生命、身体などに直接関わらないので、日本では、仮に解雇前に例のメモをマスコミに開示していたとして、公益通報者保護法では前長官を保護することは難しくなります。

3.民法等による保護

(1) トナミ運輸事件
公益通報者保護法施行前の内部通報に対する不利益取扱いが債務不履行、不法行為とされた事件で有名なのはヤミカルテルに関するトナミ運輸事件(富山地裁平成 17 年 2 月 23 日判決)でしょう。裁判所は、告発者(原告)が告発したヤミカルテル行為は現実に行われていたとし、告発者(原告)が内部で副社長や営業所長に直訴したものの受け入れられなかったことから新聞社に通報をしたと認定しました。報道機関は是正を図るに必要な者ではあるものの、一方で会社の違法行為が不特定多数に広がり、短期的には会社に打撃を与え得ることから信頼関係維持のため会社の不利益にも配慮する必要があったとしながらも、告発者が会社内部で是正のため努力しても会社の状況から何らかの是正措置が執られる可能性は低かったとして、告発は法的保護に値するとしました。告発者はその後、退職を強要されたり、個室に入れられ、格別の仕事もないまま、昇進もなく過ごすしかないような不利益な取扱いを受けたとして、会社の不法行為、人事権の逸脱による債務不履行を認めたというものです。この判決の判断方法は、まさに今も公益通報者保護法のモデルとなったともいえるような事件でした。

(2) 大阪市河川事務所職員懲戒免職事件
こちらは、大阪地裁平成 24 年 8 月29 日の判決で、行為自体も公益通報者保護法施行後の、公務員に関わる事件です。河川事務所職員が清掃時に収得した現金等を分配する映像を撮影し、自らも分配を受けた原告が、この映像をマスコミに提供したところ、この領得等を以て、懲戒免職処分を受けたため、免職処分の取消を求めたというものです。公益通報者保護法では、河川事務所による物色・領得行為は同法が認める法律違反といえるか微妙で、通報対象事実に該当しない可能性があります。この映像はテレビで放送され、調査チームによる調査がなされ、大量の処分者が出ました。判決は、原告も 5 万円の分配を受けてはいるものの、原告の内部告発により、河川事務所の違法または不適切な取扱いの実態が明らかになってその是正が図られており、これは原告に有利な事情として考慮すべきであるとし、懲戒処分として免職としたのは裁量権の逸脱であるとして、免職の無効を言い渡しました。通報行為についても、内部への通報をしないまま直ちにマスコミに映像とともに通報することは公益通報者保護法では認められないとされる可能性が高い行為ですが、裁判所は、この法律を離れ、懲戒免職処分の相当性から、判断をしたのです。

4.おわりに

大阪河川事務所事件からすると、FBI前長官の行為が仮に解任前になされていたとしても、これを以て解雇されていて、日本で裁判になれば、その解任が無効となる可能性は十分にあるといえるでしょう。公益通報者保護法は、内部通報制度を構築する際の参考にはなりますが、社内の通報制度を構築する場合には、この法律の枠組みにとらわれることなく、通報者の保護範囲をより広い制度にしておくことが重要と思われます。

改正個人情報保護法のポイントと実務への影響

弁護士 田中 敦

1 はじめに
本年5月30日から、いよいよ改正個人情報保護法(以下「改正法」といいます)が全面施行されます。改正法には、従来の5000件要件の撤廃のみならず、数多くの重要な改正点が含まれます。
改正法には、2つの重要なポイントがあります。1つは、大手通信教育事業者の大規模な漏えい事件等を背景として、個人情報の保護を大幅に強化していることです。もう1つは、ビッグデータ等の利活用へのニーズの高まりを受け、個人情報を加工して作成された匿名データ等の利活用の促進が図られています。
以下では、主な改正点をご紹介し、事業者に求められる改正法への対応について簡単に述べます。
2.個人情報の保護の強化
(1)個人情報に関する定義の新設
改正法では、個人情報の類型として「、個人識別符号」と「要配慮個人情報」が新たに定義されました(改正法2条2項、同条3項)。
個人識別符号は、遺伝子情報、指紋、住民票コード、旅券番号等、当該情報単体から特定の個人を識別し得る情報をいい、個人識別符号を含む情報は常に改正法上の個人情報として取り扱われます。
要配慮個人情報は、人種、信条、病歴、犯罪歴等、その取り扱いに特に配慮を要する情報を含む個人情報をいいます。要配慮個人情報を取得し又は第三者へ提供するには、その都度本人の同意を得る必要があり、オプトアウトによる第三者提供は認められません(改正法17条2項、23条2項)。
これらの定義の新設により、各事業者には、保有する個人情報の性質に従って、
それぞれ適切な管理を行うことが求められます。

(2)トレーサビリティ確保の義務
前述の大手通信教育事業者の漏えい事件では、大量の個人情報が、本人の知らない間に、名簿業者を通じて社会に流通していたことが大きな問題となりました。
これを受け、改正法では、トレーサビリティ確保のために、個人データ(個人情報データベース等を構成する個人情報)の第三者提供にあたり、提供者、受領者双方へ、第三者提供にかかる一定事項の記録の作成・保存義務が定められました。
個人データを第三者へ提供した場合、提供者は、速やかに、提供年月日、当該第三者の氏名や住所等の記録を作成し、一定期間保存しなければなりません(改正法25条1項、同条2項)。また、第三者から個人データの提供を受けた場合も、受領者は、速やかに、当該第三者の氏名や住所等、個人データ取得の経緯を確認したうえ、それら事項と提供年月日の記録を作成して保存する必要があります(改正法26条1項、同条3項、同条4項)。

(3)オプトアウト規定の厳格化
前述の大手通信教育事業者の漏えい事件では、オプトアウトによる第三者提供の手続が形骸化し、自己の個人情報が名簿業者により第三者提供されていたことを多くの本人が認識していなかったことも問題視されました。
このため、改正法では、本人による関与を確保するために、オプトアウトによる第三者提供を行う個人情報取扱事業者は、従前のオプトアウトの要件に加えて、提供される個人データの項目や本人の求めの受付方法等のオプトアウトに関する一定事項を、個人情報保護委員会へ届け出ることが義務付けられました(改正法23条2項)。
個人情報保護委員会は、本人が容易に知り得るよう、各事業者から届け出られた事項をウェブサイトで公表することとなります(同条4項)。

(4)データベース等提供罪の新設
改正法では、違法な個人情報の提供を未然に防止するため、データベース等提供罪が新設されました(改正法83条)。個人情報取扱事業者やその従業員等が、業務に関して取り扱った個人情報データベース等を自己もしくは第三者の不正な利益を図る目的で提供し又は盗用したときは、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます。
今後、故意による個人情報の不正流出事件が生じた場合には、違反行為者にはデータベース等提供罪が適用され、刑事罰が科されるおそれが大きいと考えます。
3.個人情報を利用して作成されたデータの利活用
改正法で定義が新設された「匿名加工情報」とは、個人情報の一部の記述等を削除することで、特定の個人を識別できないよう加工された情報をいいます(改正法2条9項)。
匿名加工情報を取り扱う事業者は、本人の同意を得ることなく、匿名加工情報データベース等を第三者へ提供することができます。
もっとも、匿名加工情報は、個人情報そのものよりも危険性が低いとはいえ、元の個人情報への復元等により本人の利益を害するおそれがないとはいえません。そのため、匿名加工情報を作成し又は第三者提供する事業者には、加工方法の漏えい防止のための安全管理、匿名加工情報に含まれる個人に関する情報の項目の公表義務等、本人への配慮のための一定の義務が課されます(改正法36 条各項、37 条)。
改正法により、匿名加工情報に該当する情報は本人の同意なく第三者提供できることが明確化され、個人情報を加工して作成されたビッグデータの利活用が促進されることが期待されています。他方で、匿名加工情報を利用する事業者には、不十分な加工により本人が特定されてしまう事態等が生じないよう、改正法が定める義務を十分に理解し、遵守することが求められています。

欧州GDPRの概要と対応にあたっての注意点

 

弁護士 田中 敦(たなか あつし)

 

1 はじめに

本年5月25日から、EUにおけるGDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)の適用が開始されました。

GDPRは、欧州経済領域(EEA)域内の新たな個人情報保護の枠組みを定めたものですが、EEA域内に所在する者の個人情報の移転を伴う取引を行っている事業者にも幅広く適用されるため、多くの日本企業がGDPRへの対応を求められます。

以下では、GDPRの概要をご紹介し、欧州に関連する取引を行うわが国の事業者に求められるGDPRへの対応の注意点について簡単に述べます。

 

2.GDPRの概要

(1) GDPRとは

EUでは、1995年に個人情報保護に関する法制度の共通化のためにデータ保護指令(96/46/EC指令)が採択されました。当該指令は、加盟国に対して直接には適用されず、加盟各国が自国の法令により個人情報保護の枠組みを定めていました。

その後、近年の急速な技術進歩や個人情報取扱いのグローバル化を受け、新たな態様での個人情報の取扱いに対応すべき必要性が生じるとともに、国家を超えたデータ保護法制のさらなる均一化が求められるようになり、国内法の制定を経ずとも加盟国を直接拘束する統一的な法規範として、2016年4月27日にGDPRが採択されました。

 

(2) GDPRの適用対象

GDPRで保護対象となる「個人データ」とは、EEA域内に所在する自然人(データ主体)を識別し得る情報をいい(4条)、データ主体は国籍や居住地を問いません。そのため、海外赴任や出張でEEA域内に所在する日本人従業員等の情報も、GDPRにより保護される個人データに含まれ得ます。また、日本からEEA域内へ個人データを送付した場合には、当該個人データについても、EEA域内においてGDPRに従って適切に処理されなければなりません。

仮に事業者がEEA域外に所在しているとしても、当該事業者がEEA域内のデータ主体に対して商品やサービスを提供する場合には、GDPRの適用を受けます(3条)。そのため、インターネット取引等で日本企業がEEA域内の顧客等に商品やサービスを提供する場合、たとえ当該企業がEEA域内に拠点等を有していなくても、GDPRが直接適用されることとなります。

また、わが国の個人情報保護法では「個人データ」に直ちには該当しない可能性のあるIPアドレスやCookieといったオンライン識別子が、GDPRでは保護対象の「個人データ」に挙げられていることにも注意が必要です。

 

(3) 個人データの処理・移転に関する義務とデータ主体の権利

GDPRの適用対象となる個人データについて、その処理等を行う事業者(管理者及び取扱者、以下「管理者等」といいます。)には、法令上、適切なセキュリティ措置の実施(32条以下)、データ保護責任者の選任(37条)等の様々な義務が課せられます。

また、GDPRでは、多くのデータ主体の権利が明記されており、わが国の個人情報保護法における本人の権利よりも広い範囲で、個人データにより識別される個人の権利が認められています。例えば、GRPRにおいては、わが国の個人情報保護法と異なり、自己の個人データの削除を求めることができる削除権(「忘れられる権利」、17条)、自己の個人データのコントロールを可能とするデータポータビリティ権(20条)等が明記されています。

 

(4) GDPRの違反者への制裁

GDPRの大きな特徴の一つが、違反者への厳しい制裁金が定められていることです。違反類型に応じて、違反企業に対しては、最大で2000万ユーロ又は前年度の全世界年間売上の4%を上限とする制裁金が課せられるおそれがあります(83条)。

欧州においては、過去に競争法違反により多くの日本企業に対し巨額の制裁金の支払いが命じられており、将来にはGDPR違反により日本企業に対し制裁金が課されることも十分想定されます。欧州でビジネスを行うわが国の企業としては、制度上、GDPRに違反した企業には数十億円を超える制裁金が課せられるおそれがあることに十分注意すべきでしょう。

 

3.GDPRへの対応の注意点

本稿では、GDPRにより求められる対応を網羅的に説明することは字数の制限上困難ですが、GDPR対応にあたっての基本的な方針を最初に述べ、その後、特に注意すべき点をいくつかご紹介します。

 

(1) GDPR対応への基本的な方針

まず、GDPRへの対応には、社内の現状を把握し、GDPRの要求事項と現状のギャップを分析することで、対応方針を策定することが重要となります。

社内の現状把握としては、各拠点や部署への質問票送付やインタビューなどにより、どの拠点又は部署が、どのような目的で、どのような流れでEEA域内のデータ主体の個人データを取り扱っているのかを正確に理解することが必要です(いわゆる「データマッピング」)。

その上で、GDPRの要求事項に照らし合わせ、対応すべき課題を洗い出すとともに、それら課題に優先順位をつけながら対応方針を策定しなければなりません。

 

(2) EEA域外の第三国への移転の原則禁止

まず一つ目の注意点として、GDPRでは、EEA域外への個人データの移転が原則として禁止されています。例外的に、欧州委員会が個人データの保護の「十分性」を認定した国については適法に移転できます。日本は、長らく「十分性」認定を受けるための取組みを続けてきましたが、平成30年7月、EUとの間で「十分性」の認定を受けることの最終合意に至ったことが報じられました。

もっとも、「十分性」の認定の手続が完了するまでの間は、EEA域内のデータ主体の個人データを日本国内へ移転するには、たとえ親子会社間であっても、下記のいずれかの要件を満たさなければなりません。各要件の詳細については割愛しますが、当該個人データの量、性質、移転の目的、利用の態様、移転事業者間の関係性等を個別具体的に考慮して、最もふさわしい手続を選定することが求められます。

 

①本人からの個別の同意の取得

②標準契約条項(Standard Contractual Clauses)の締結

③(グループ会社間での)拘束的企業準則(Binding Corporate Rules)の策定

 

(3) データ保護責任者の選任

個人データの管理者等の中心的業務が、大規模なデータ主体の定期的かつ系統的な監視を要する業務であったり、又は、機微情報(人種、思想、遺伝データ、生体データ、犯罪歴等)を大規模に取り扱う業務であるなどの一定の場合には、当該事業者には、高い独立性を有する「データ保護責任者」(Data Protection Officer)の選任が義務付けられます。データ保護責任者の任務には、他の従業員への助言や事業者の監視等が含まれます(39条)。

 

(4) データ保護影響評価

個人データの処理が個人の権利又は自由に対して高度のリスクをもたらす危険がある場合、当該個人データの管理者は、個人データの処理に先立ち、これにより個人データの保護にどのような影響を及ぼすかを評価しなければなりません(35条)。

 

(5) 侵害発覚時の通知義務

個人データの滅失、サイバー攻撃による漏えい等、個人データの侵害行為が発覚した場合、当該個人データの管理者は、侵害を認識してから72時間以内に監督機関へ通知しなければなりません(33条)。9月11日の日経新聞では、このGDPRの適用後初めての例として、ブリティッシュエアウェイズの顧客情報約38万件が盗まれたとして個人情報保護当局や警察に届け出たと報じています。情報の取得は8月21日から9月5日まで続いたとしており、当局が今後どのような措置をとっていくかが注目されます。

以 上

民法改正に伴う『約款』の見直し

弁護士 佐藤 有紀

民法改正案が3 月31 日付で国会に提出されました。今回の民法改正は、従前から
議論されていた債権法改正の集大成であり、実務に与える影響も少なくないものと思わ
れます。今回は、多岐に渡る民法改正のうち、定型約款(民法改正案第548 条の2 以下)に関する取扱い(のごく一部)について取り上げたいと思います。定型約款とは、「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」(民法改正案第548 条の2 第1項)と、定型取引とは、「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」(民法改正案第548条の2 第1 項)と定義されています。
定型取引を行うことの合意をした者は、一定の場合(定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたか、定型約款を準備した者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していた場合)、定型約款の個別の条項について合意をしたものとみなされます(民法改正案第548 条の2 第1 項)。現状広く用いられている約款の法的な位置付けをしたのが今回の定型約款制度と言えるでしょう。
もっとも、そもそも定型取引は、取引の「内容の全部又は一部が画一的であることが」双方に合理的なものとされており、画一的であることが不合理であり定型約款に該当しないと判断される約款も出てくる可能性があります(例えば、約款の内容を相手方との間で特約条項により相当程度変更する場合など。この場合は契約内容自体は有効となれば実際上不利益はないかもしれませんが、それ以外の定型的約款に該当しないとされる場合に約款
が無効として民法の規定に沿って解釈されることもあり得るのではないかと思います)。また、画一的であることの合理性の判断要素は今後の実務の集積を待たなくてはならないように思われます。
なお、相手方の権利を制限し、義務を加重する条項で、定型取引の態様、実情、社会通念に照らし信義則に反するものは、契約内容と認められません(民法改正案第548 条の2 第2 項)。信義則違反となる場合は、「消費者の利益を不当に害することとなる」条項を無効とする消費者契約法上の概念と必ずしも一致するものではないこと、即ちいわゆるB to B 取引における約款が無効とされる可能性がある点には注意が必要です。

会社法改正

弁護士・ニューヨーク州弁護士 佐藤有紀

企業統治(コーポレートガバナンス)の強化を柱とする会社法改正に関する法案が平成25年11月29日に閣議決定され、同日、第185回国会に提出されました。これは法務省の法制審議会会社法部会第一回会議が平成22年4月に開始されてから、同部会による平成24年8月1日付「会社法制の見直しに関する要綱案」の決定を経て、今回法案化されたものです。

今回の会社法改正には実務に影響を与える点がいくつかありますが、そのハイライトのひとつが社外取締役の義務化(するかどうか)という点でした。今回は、この点について概説したいと思います。

1.社外取締役設置義務化見送りと説明義務

結局、改正案によれば、監査役設置会社である上場会社等(正確には、金融商品取引法<以下「金商法」といいます>第24条第1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない会社)において社外取締役を置いていない場合、「取締役は、当該事業年度に関する定時株主総会において、社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならない」という条項が加わることになりました(会社法第327条の2の新設)。

会社法は、上場会社と非上場会社とを問わず、すべての株式会社に適用される法律ですが、この社外取締役未設置に関する説明義務は上場会社等のみに課される義務ということになります。そこで(上場会社と非上場会社とを区別する)金商法を引用し、会社法に金商法上の概念を持ち込む形で法改正することになりました。

上場会社が社外取締役を置くことが相当でない理由を説明する際には、事業報告書という書面ではなく、定時株主総会において直接株主に説明しなければなりません。これまでの実務に鑑みると、事業報告書という書面のみでの説明となれば、テンプレートのような表現を用いてどの上場会社も同じような説明を行うことになっていただろうと思いますが、取締役が定時株主総会で理由を説明しなければならないとなると、そのような形式的な対応では難しいのではないかと思います。その意味では、社外取締役を設置しない積極的な理由を各社で考えなくてはならないこととなり、社外取締役制度に対する各社の理解が深まるのではないかと期待されます。

また、私の実務経験からすると、毎年株主総会はあるものの、株主の前で報告・説明を行うのが取締役の本業ではないため、説明を担当される取締役も出来る限り株主からの厳しい質問は少なくしたいのではないかと思います。この観点からすると、定時株主総会において社外取締役不設置の理由を説明しなければならなくなる(そしてその質問に対応しなければならなくなる)のであれば、いっそのこと社外取締役を設置した方が無難ではないかと考える上場会社が出てくるのではないかという予想もされます。結果として、社外取締役設置義務規定は見送られたものの、実質的には社外取締役の設置を半ば強制するようなプレッシャーを与える規定が会社法改正案に導入され、社外取締役設置義務と同様の働きをすることを立法者は期待しているのではないかとも推測されます。

2. 社外取締役の定義の変更

技術的な話になりますが、改正案ではそもそも社外取締役の定義が改正されることになります(会社法第2条第15号)。これまでは当該株式会社またはその子会社等の業務執行取締役もしくは執行役又は支配人その他の使用人である(あった)かどうかで判断されていました。今後は社外取締役の要件に、①株式会社の親会社等またはその取締役もしくは執行役もしくは支配人その他の使用人でないこと、②株式会社の親会社等の子会社等(当該株式会社及びその子会社を除く。)の業務執行取締役もしくは執行役又は支配人その他の使用人でないこと、③株式会社の取締役もしくは執行役もしくは支配人その他の重要な使用人または親会社等(自然人であるものに限る。)の配偶者または2親等内の親族でないことが追加されます。

この改正により影響が出るのは、上場会社の社外取締役に、親会社等の取締役が就いている場合です。当該上場会社が、いわゆるオーナー企業であったり上場子会社であったりする場合には、現在の社外取締役が会社法改正後も「社外取締役」に該当するのかチェックが必要になります。

また、社外取締役の要件に係る対象期間についての規律が以下の通り改められることになりました。すなわち、

(1) その就任の前10年間株式会社またはその子会社の業務執行取締役もしくは執行役または支配人その他の使用人であったことがないこと

(2) その就任の前10年内のいずれかの時において、株式会社またはその子会社の取締役(業務執行取締役もしくは執行役または支配人その他の使用人であるものを除く)、会計参与または監査役であったことがあるものにあっては、当該取締役、会計参与または監査役への就任の前10年間当該株式会社またはその子会社の業務執行取締役もしくは執行役または支配人その他の使用人であったことがないこと

という形で対象期間が制限されました。従前の会社法は、対象期間に制限がなかったことから、一度でも取締役等になった場合、社外取締役に就任することはできないことになっており、その点が問題とされていましたので、立法によって解決が図られることになります。なお、親会社の「元」取締役は(10年待つことなく)社外取締役になることができます。