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労働契約法・パートタイム労働法について

労働契約法が平成20年3月1日から施行され、パートタイム労働法が改正され平成20年4月1日から施行されたので、今回は、両法を簡単にご紹介したいと思います。

第1 労働契約法について

1 労働契約法とは

これまで、最低労働基準については、労働基準法に規定されていますが、労働契約に関する民事的なルールについては、労使関係は、契約関係であり契約法の枠組みに基づくものですが、民法(623条以下)及び個別の法律において部分的に規定されているのみであり、体系的な成文法が存在ししていませんでした。そのため、個別労働関係紛争が生じた場合には、判例法理による解決がなされてきました。

今回制定された労働契約法は、基本的に労働契約法理の一部を制定法にしたものであり、裁判規範という観点からは新たなルール形成という意義はあまりなく、むしろ法律家以外にはなじみが薄い判例法理を制定法にすることで、ルールを広く国民に知ってもらい、社会への浸透を図るという意義が大きいものとなっています。

2 労働契約法における合意と就業規則

(1) 労働契約法は、労働契約は労働者と使用者との合意で成立するものである、としています(6条)。

ただ、労働契約法は労働関係における就業規則の実際上の重要性から、その労働契約に対する効力を明らかにすることを同法制定の最重要事項と位置付けられ、そして、就業規則の実際上の機能に即し、判例法理を受け入れて就業規則の法的効力を明確化しています。

(2) 7条は、労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする、と規定しています。

「合理性」と「周知」という要件をクリアした就業規則の規定があれば、そこに定められた労働条件が労働契約の内容となるのが原則であり、ここでいう「合理的」という概念や「周知」の具体的意味は、これまで最高裁判決で積み重ねられた判断基準によるものです[i]。

(3) 労働条件の変更については、労働者の合意なく、就業規則の変更により、労働者の不利益に労働条件を変更することができないと規定されています(9条)。

この例外として、合意なく、就業規則によって労働条件の変更をする場合の要件は、10条に定められています。労働条件の変更の要件は、主として、「変更が合理的なとき」であり[ii]、もう1つの要件としては「変更後の就業規則を労働者に周知させたとき」であり、これらをみたすときには、「労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものである」とされています。

(4) ただし、個別特約により、就業規則の効力を個別特約により排除できると規定しています(7条、10条)。10条においては、就業規則の変更の場面において、「労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分」については、合意が優先すると規定されています。就業規則の基準に達しない特約をすることはできませんが(12条)、上回る特約をすることは有効となります。

今後は、当該契約条項が、上記のような合意部分に当たるのか否か、という点が争われることになります。特に異なる条件を特約していただけで、「変更されない労働条件として合意」されていたと解釈できるのか、あるいは、変更を排除する意思が明確に読み取れない限りそのような合意はないと解釈すべきなのか、今後の議論の展開によるところとなります。

第2 パートタイム労働法について

1 パートタイム労働法とは

1993年に制定された「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」をいいます。この法律の多くは、労働省・厚生労働省の行政指導のための根拠規定だったこともあり、パートタイム労働者の雇用改善という点で必ずしも十分に機能を発揮してこなかったことなどから、今回の改正ではパートタイム労働者の雇用改善が目指されました。

2 主な改正点

(1)労働条件の文書交付・明示義務(6条)

パートタイム労働は、その仕事形態が多様であり,、通常の労働者とは異なり個々の労働者の労働条件が就業規則等で明確になっていないことが多く、雇い入れ後に労働条件について疑義が生じることが少なくないことから、特にトラブルが起きやすい事項、退職手当、賞与、昇給の有無について、従来は努力義務でしたが、文書の交付により労働者に明示することが義務化されました。

なお、労働基準法15条1項関連事項(賃金、就業の場所、始業・終業時刻等)については、そもそも同条により使用者に明示義務があります。

(2)均衡のとれた待遇の確保の促進(1、3、8条以下)

パートタイム労働者の働き・貢献に応じた待遇の確保が目指されています。

ア 「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」に対する差別的取扱いが禁止されています(8条)。差別が禁止される労働条件は、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇となります。

対象となるのは、以下の3要件をすべて満たすパートタイム労働者となります。

a 業務の内容とそれに伴う責任の程度が通常の労働者と同じであること

b 雇用契約期間に定めがない労働契約を締結していること(反復更新により期間の定めがない労働契約と同視することが社会通念上相当と認められる期間の定めのある労働契約を含む(同条2項))

c 当該事業所における慣行その他の事情からみて、雇用関係の全期間において、職務の内容および配置が通常の労働者と同一の範囲で変更の見込みがあること

イ  ア以外のパートタイム労働者については、職務の内容、職務の成果、意欲、能力や経験などを勘案して賃金を決定するよう努力義務を事業主に課しています(9条1項)。

ウ  教育訓練について、職務内容が通常の労働者と同一のパートタイム労働者に対しても実施する義務(10条1項)や、福利厚生施設(給食施設、休憩室、更衣室)をパートタイム労働者にも利用する機会を与えるよう配慮する義務を事業主に課しています(11条)。

(3)通常の労働者への転換の促進(12条)

一度パートタイム労働者となると通常の労働者となるのは困難な状態にあることから、通常の労働者への転換の促進のため、以下のいずれかの措置を講じる義務を事業者に課しています。

a 通常の労働者の募集に関する情報を事業所等に掲示する等によって、既に雇用しているパートタイム労働者に周知すること

b 事業所内において、通常の労働者の配置を新たに行う場合に、応募の機会をパートタイム労働者にも与えること

c 一定の資格を有するパートタイム労働者を対象とした通常の労働者への転換のための試験制度を設けたり、通常の労働者への転換を推進するための措置を講じること

(4)説明義務(13条)

以上の(2)(3)にあげた事項に関する決定をするに当たって考慮した事項を、当該短時間労働者に説明することが事業主に課されています。

(5)苦情処理・紛争解決援助(法19条以下)

紛争の解決を促進するための仕組みとして、事業主による苦情の自主的解決(19条)、都道府県労働局長による助言・指導・勧告(21条1項)、調停(22条1項)に関する規定が設けられました。

[i] 秋北バス事件最高裁判決(最大判昭和43.12.25)では、就業規則が、一種の社会的規範としての性質を有するだけでなく、それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、経営主体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるに至っている(民法92条参照)ものということができる、としています。その後、最高裁は「合理的な内容である限り労働者を拘束する」としています(電電公社帯広局事件(最一判昭和61.3.13)・日立製作所武蔵工場事件(最一判平成3.11.28))。

「周知」については、フジ興産事件(最二判平成15.10.10)において、「就業規則が法的規範としての性質を有するもの・・・として、拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要する」とされています。

「周知」とは、例えば、①常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、備え付けること②書面を労働者に交付すること、③磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずるものに記録するなど、労働者が知ろうと思えばいつでも就業規則の存在や内容を知り得るようにしておくことをいいます。

[ii] 10条では、「労働者の不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき」とされています。これは、第四銀行最高裁判決(最二小判平成9.2.28)であげられた判例の7つの判断要素が整理されたものです。

労働者派遣法改正による日雇派遣原則禁止

弁護士 西村真由美

1 法改正の経緯

平成18年頃から,偽装請負・違法派遣問題,違法な給与天引き,労災隠し,ワーキング・プアなどが問題とされ,特に日雇派遣労働者については,派遣元会社による雇用管理が不十分といわれました。そこへ,リーマンショックに端を発する派遣切りが社会問題化し,日雇派遣に対する規制強化の流れが更に強まりました。このような流れを受けて,平成24年3月28日,派遣労働者の保護を目指し労働者派遣法が改正され,同年10月1日より施行されています[1]。

2 日雇派遣の原則禁止

改正労働者派遣法では,原則として日雇派遣を禁止しています。ここでいう「日雇派遣」とは,日々または30日以内の期間を定めて雇用する労働者派遣のことです。これは,あくまで「派遣元と派遣労働者との雇用契約」の期間が30日以内のものを禁止するのであり,派遣先と派遣元との契約期間を縛るものではありません。日雇派遣の一番の問題は,雇用管理責任が曖昧になる点であり,それは「派遣元と労働者との間の関係の希薄さ」に起因するところが大きいからです。

なお,「30日以内」とされた理由は,30日を超える期間を定めて雇用契約を締結した場合は雇用保険加入の対象となることから[2],適正な雇用管理が可能と考えられる点にあるようです。

3 日雇派遣禁止の例外

(1)もっとも,日雇派遣禁止には例外が認められています(改正労働者派遣法35条の3第1項)。

第一は,当該日雇労働者の適正な雇用管理に支障を及ぼすおそれがないと認められる業務として政令[3]で定める業務について労働者派遣をする場合です。

第二は,雇用の機会の確保が特に困難であると認められる労働者の雇用の継続等を図るために必要であると認められる場合,その他政令で定める場合です。

(2)まず,第一の例外の趣旨は,以下のとおりです。日雇派遣労働者の中には今までどおりの働き方を希望する者も多く,原則禁止にした場合,失職するおそれがあります。また,雇用者責任を果たせない事業者に対しては個別のケースに応じた指導強化で対応することも可能です。そこで,日雇派遣が常態であり,かつ,労働者保護に問題の少ない業務では,政令により限定列挙する形で日雇派遣を認めたのです。

具体的には,改正前の労働者派遣法において派遣期間制限のない業務として列挙されていた“専門26業務”のうち,ソフトウェア開発業務や通訳業務,秘書業務等の“17.5業務”が,日雇派遣原則禁止の例外とされています(政令4条1項)[4][5]。

(3)次に,第二の例外は,政省令[6]に以下のように規定されています。

ア 日雇労働者が60歳以上である場合

イ 日雇労働者が学校教育法の学校(専修学校・各種学校を含む。)の学生又は生徒(定時制の課程に在学する者等を除く。)である場合

ウ 日雇労働者の収入(生業収入)の額が500万円以上である場合

エ 日雇労働者が生計を一にする配偶者等の収入により生計を維持する者であって,世帯収入の額が500万円以上である場合

上記アが例外とされたのは,禁止すると高齢者の雇用機会確保の点で不都合が生じるためであり,他方,上記イ,ウ,エが例外とされたのは,逆にそもそも雇用確保の要保護性が低いためだとされます。

4 企業にとっての注意点

(1)以上の改正に伴い,企業としては以下の点に注意する必要があります。

まず,改正前の専門26業務については,派遣契約上は形式的には専門26業務とされていながら,実態としてはそれ以外の業務に労働者派遣を行うケースが見られたことから,労働局が,専門26業務への該当性につき集中的に指導監督してきました。さらに,行政機関が,例外業務の該当性に関する解釈を変更することで,これまで17.5業務に該当するとされてきた業務についても,例外には該当しないと判断するおそれがあります。したがって,企業としては,専門業務の該当性についての行政機関の解釈に注意していく必要があります。人材会社の中には,例外規定は運用次第で大きく変わるリスクがあり,それに頼っていては事業の安定性を確保できないという意識のもと,日雇派遣は全て使えなくなるという前提で事業構築しているところもあるようです。

(2)次に,物流業界等,繁忙期のある業界が派遣先である場合,人手不足に拍車がかかることになります。

対応策としては業務請負とすることが考えられますが,偽装請負とならないよう注意が必要です。また,『日々紹介』といわれるシステム(利用者が労働者と直接雇用契約を締結する点に着目し,給与振込を除く労務手続きを代行するシステム)も,対応策の一つとして考えられます。しかし,日々紹介は事実上の日雇派遣とみられるリスクがあり,コンプライアンスリスクは増すといわざるを得ません。さらに,『雇用管理代行』という,求人や雇用管理を代行する仕組みも考えられますが,これも,利用者の直接雇用となりうるため,日々紹介と同様のリスクが生じます。

このように,繁忙期のある企業では,人員を派遣労働者に頼ることができなくなるため,計画的な人員募集が必要です。また,人材調達ができても,個々の仕組みに応じたコンプライアンスリスクに充分な注意を払う必要があります

(3)改正労働者派遣法は施行されたばかりであり,行政がどのような態度をとるかにつき,今後の運用を注視していく必要があります。

[1]本改正により,労働者派遣法の正式名は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」から「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」に改正され,法律の目的にも,派遣労働者の保護のための法律であることが明記されました。

[2]雇用保険法6条3項

[3]改正後の労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行令(以下「政令」とします)第4条

[4]厚労省ホームページ http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/haken-shoukai/kaisei/02.html

[5]日雇派遣禁止の例外業務が“17.5業務”と表現されているのは,改正前政令4条1項第16号で,「受付・案内」と並んで「駐車場管理等」が規定されていたところ,今回の改正で,案内・受付は日雇派遣禁止の例外とされ,駐車場管理は例外とされなかったことによるものです。

[6]政令4条,改正後の法施行規則(以下「省令」とします)第28条の2及び第28条の3

名古屋自動車学校事件最高裁判決

弁護士 倉本武任

1.はじめに

定年退職後の再雇用者と正職員の待遇差が旧労働契約法 20 条[1] に違反するかは、長澤運輸最高裁判決(最高裁平成 30 年 6月 1 日判決)が、定年後再雇用における旧労働契約法 20 条の解釈・適用判断を示し、再雇用であることは同条の「その他の事情」として考慮すると判断しました。その後、本稿で取り上げる最高裁判決の第一審となる名古屋地裁令和 2 年 10 月 28 日判決(以下「一審判決」といいます)は、定年後再雇用職員(有期雇用)の基本給について、基本給は正職員定年退職時の基本給 60%を下回る限度で不合理と認められると判断し、控訴審である名古屋高裁令和4 年 3 月 25 日判決(以下「原審判決」といいます)も一審判決の内容を維持したため、最高裁の判断が注目を集めていました。しかし、令和 5 年 7 月 20 日最高裁第一小法廷判決(以下「本判決」といいます)は正職員と定年後再雇用職員(有期雇用)との間の基本給、賞与に関する損害賠償請求の上告人(第一審の被告)敗訴部分を破棄し、名古屋高等裁判所に差し戻すとの判決を下しました。本稿では同判決について詳細を検討します。

 

2.事案の概要及び争点について

自動車学校の経営等を行う被告にて、正職員として勤務していた原告らが、定年退職後、有期の嘱託職員として再雇用され、定年前と同様の業務を行っていましたが、定年前と比較して原告らの基本給、皆精勤手当、敢闘賞、賞与(有期嘱託職員については嘱託職員一時金との名目)が減額して支給され、家族手当は支給されていなかったため、これらの労働条件の相違が旧労働契約法 20 条に違反するとして、原告らが被告に対して差額賃金、損害賠償等を請求した事案です。本判決の中心的な争点は、基本給、皆精勤手当、敢闘賞、賞与(嘱託職員一時金)といった労働条件の相違が旧労働契約法 20 条に違反するかであり、以下では特に基本給の相違について検討します。

 

3.原審判決(一審判決)と本判決の判断の差異

原審判決(一審判決)は、一部の正職員

の基本給の金額の推移から正職員の基本給が、その勤続年数に応じて増加する年功的性格を有すると判断したうえ、嘱託職員の賃金総額が正職員定年退職時の労働条件を適用した場合の 60% をやや上回るか、それ以下にとどまる点について、同年代の賃金センサス上の平均賃金を下回る水準であり、労働者の生活保障という観点からも看過し難い水準に達していると指摘しています。そして、嘱託職員時の基本給が正職員定年退職時の基本給の 60% を下回る限度で不合理と認められると判断しました。

原審判決(一審判決)に対して本判決は、正職員の基本給は、勤続年数に応じて額が定められる勤続給としての性質のみを有するということはできず、職務の内容に応じて額が定められる職務給としての性質や職務遂行能力に応じて額が定められる職能給としての性質を有するとみる余地があるとし、他方で、嘱託職員の基本給は、正職員の基本給とは異なる基準の下で支給され、勤続年数に応じて増額されることもなく、嘱託職員の基本給は正職員の基本給とは異なる性質や支給の目的を有すると述べています。さらに本判決は、原審判決が、正職員の基本給について、年功的性格を有すると述べるにとどまり、他の性質の有無及び内容並びに支給の目的を検討せず、また、嘱託職員の基本給についても、その性質及び支給の目的を何ら検討していないこと、賃金決定に至る労使交渉の具体的な経緯を労働契約法 20 条にいう「その他の準備」として勘案していないことを指摘しています。

 

4.基本給の待遇差が違法となるのはどのような場合か

本判決は、原審判決が、基本給の性質、目的、及び労使交渉の具体的な経緯を考慮していないことを理由に原審へ差し戻しているため、今後、差し戻された名古屋高等裁判所の判断を待つ必要がありますが、以下では基本給の待遇差が違法となるのはどのような場合かについて検討したいと思います。

(1)基本給の性質及び目的

基本給は、年齢に応じて決定される年齢給、勤続年数に応じて決定される勤続給、職務遂行能力の習熟度に応じて決定される職能給、担当する職務の内容に応じて決定される職務給、役割の大きさに応じて決定される役割給など様々な性質を持つ場合があります。この点は、本判決においても、その性質や支給目的を検討する必要があることが指摘されています。

(2)不合理と評価される場合とは

正社員(無期雇用)と有期雇用労働者間で賃金制度がそもそも異なる場合であっても、正社員(無期雇用)の基本給の制度設計や有期雇用労働者の就労実態によっては、正社員(無期雇用)の基本給の性質・目的が有期雇用労働者にも該当する場合はあると考えられます[2]。正社員(無期雇用) の基本給には、本判決も指摘するように、年齢給だけでなく、勤続給・職能給・職務給等の性質が組み合わされている場合もあり、かかる場合に有期雇用労働者も正社員(無期雇用)と同じ職務に従事し、長期間勤続している実態が認められるにもかかわらず、職務給や勤続給の性質を考慮しない賃金制度が有期雇用労働者に適用されているとすれば、その相違は不合理と評価される可能性があります。

また、原審判決(一審判決)は、旧労働契約法 20 条の「その他の事情」として、長澤運輸最高裁判決を引用したうえで、定年後再雇用されたものであることは「その他の事情」として考慮すると判断していますが、この点は、正社員と比べて、キャリアや生活保障の必要性などが異なるとして、正社員と定年後再雇用された者の待遇の差異の不合理性を否定する方向に働くと考えられます。もっとも、それだけで不合理性が完全に否定されるものではなく、他の事情等との総合考慮となり、基本給が定年後の賃金減額の許容範囲を超える減額があるような場合には、不合理性が認められると考えられます。この点、原審判決(一審判決)は嘱託職員時の基本給が正職員定年退職時の 60%を下回る限度で不合理と判断し、部分的に不合理性を認めていますが、数字の根拠は明確ではありません。現在、高年齢雇用継続給付金の支給要件は、定年前から賃金水準が 75%未満に低下したこと[3]とされており(雇用保険法 61 条1 項)、原審判決(一審判決)はかかる基準を考慮したようにも思われます。

定年後再雇用時の基本給はどこまでなら減額しても不合理でないのかという基準が気になるところですが、重要な点は制度設計にあたり、なぜその割合を減額するのかを説明できるようにしておくことであり、これまで特に理由もなく減額をしていたという場合には、制度設計の見直しが求められると思われます。

以上

 

[1] 法改正により旧労働契約法20条は削除され、現在は、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条~10条において、正職員とパート・有期雇用職員との待遇差に関する規定が設けられています。

[2] 同一労働同一賃金ガイドライン(厚生労働省告示第430号7頁~8頁第3の1の注1)では賃金の決定基準・ルールの相違がある場合は、「通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間で将来の役割期待が異なるため、賃金の決定基準・ルールが異なる」等の主観的又は抽象的な説明では足りないとされています。

[3] 高年齢雇用継続給付は、雇用保険の被保険者であった期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の一般被保険者が、原則として60歳以降の賃金が60歳時点に比べて、75%未満に低下した場合に支給され、支給額は、各月の賃金が60歳時点の賃金の61%以下に低下した場合は、各月の15%相当額、61%超75%未満に低下した場合は、その低下率に応じて、各月の賃金の15%相当未満の額とされています(但し、各月の賃金が一定額を超える場合は支給されません。)。

企業年金の受給者減額の可否に関する判例の動向

弁護士 田中 敦

【はじめに】

企業年金とは、国民年金や厚生年金などの公的年金に上乗せする形で、民間企業が退職者に対し独自に支給する形態の年金をいいます。ところが、近年、景気後退や業績の悪化を理由に、多くの企業で企業年金の支給額を減額しようとする動きが見られるようになりました。そのような状況の中で、今年に入り、退職後に企業年金を受給している者の支給額を減額することができるか否かが争われた事案で、一方的な減額が認められないとして、企業側の敗訴とする最高裁判所の判断が相次いでいます。今回は、企業による一方的な企業年金の減額が認められないとした最高裁平成22年3月16日第三小法廷判決(判タ1323号114頁)及び最高裁平成22年6月8日第三小法廷決定を参考に、企業年金の減額の可否について検討します。

【平成22年の最高裁判所による裁判】

1 最高裁平成22年3月16日第三小法廷判決(「X銀行事件」)

この事案は、銀行の取締役を退任した原告が、株主総会決議を経て、当時の役員退職慰労金規程に従い退職慰労年金を受給していたところ、その後に当該規程の廃止決議がされ、年金の支給が打ち切られたため、被告である銀行に対し、未支給分の退職慰労年金の支払等を求めたものです。

被告である銀行は、退職慰労年金における集団性、画一性等の制度的要請から、一定の場合には退任取締役の同意なく契約内容を変更することが許されるなどと主張し、原告の主張を争いました。

原判決では、被告主張の理由に依拠し、一定の場合には、規程の改廃の効力を退職した取締役に及ぼし、その退職慰労年金請求権を減額し又は消滅することができると判断して、原告の請求を棄却しました。これに対し、最高裁は、本件退職慰労年金の額及び支給方法は、原告の退職時に原告と会社との間の契約内容として確定していたとし、年金の制度的要請という理由のみをもって、原告の同意なく、本件規程の廃止の効力を及ぼすことはできないと判断して、原判決を破棄・差戻しとしました。

2 最高裁平成22年6月8日第三小法廷決定(「NTT事件」)

この事案は、原告会社が、確定給付企業年金法に基づき実施している企業年金について、受給権の内容等に変更を生じさせる年金規約の変更をするために、厚生労働大臣の承認を求める申請をしたところ、厚生労働大臣が、上記規約変更は、受給権者等に対する給付の額を減額する場合に該当し、減額のために必要とされる要件を満たしていないとして、会社に対し当該規約変更を承認しない旨の処分を行いました。そこで、原告会社が、その処分の取消しを求めたものです。

原告は、①給付額減額の要件を定める法令の規定が無効である、②本件申請にかかる規約変更が「給付の額を減額する」場合に該当しない、③仮に②において「給付の額を減額する」場合に該当するとしても、本件の規約変更は法令に定める要件を満たすなどと主張し、不承認処分の取消しを求めました。

第一審判決及び原判決は、ともに原告の主張を全て退け、本件処分は有効であると判断しました。これに対し、原告は上告受理を申し立てましたが、最高裁はこれを却下しました。

【検討】

1 企業年金の受給者減額が認められた事例

以上の2件の判例に対し、企業年金の受給者減額が認められた事例としては、最高裁平成19年5月23日第一小法廷決定(「松下電器産業事件」)があります。

この事案は、被告会社において、従業員の退職にあたり、退職金の一部を拠出して会社との間で年金契約を締結し、会社がこれを運用して年金を支払うという企業年金制度が採られていたところ、会社が給付利率の引下げを決定したため、被告会社の元従業員である原告が、当該決定の効力を争い、引下げがなければ各支給日に支給されたであろう金額と実際の支給額との差額の支払いを求めたものです。

このケースでは、退職者に支給される年金額算定の基礎となる約定利率が年7.5%~10%と高水準に設定され、実際の運用利回りとの差額は会社の収益から賄われていました。被告会社は、市場利回りの低下や業績悪化等を理由に、約定利率を一律2%引き下げる内容の年金規程の改定を行いました。ここで、被告会社の年金規程には、将来、経済情勢等に大幅な変動があった場合には規程の全般的な改定または廃止を行うという旨の、改廃条項が置かれていました。

第一審判決及び原判決は、当時の被告会社の経済状況からすれば、本件規程の改定は上記改廃条項の要件を満たすことが認められるとして、ともに原告の請求を棄却しました。これに対し、原告は上告受理を申し立てましたが、最高裁はこれを退けました。

2 企業年金の種類

企業年金の種類は、大きく分けて、自社年金型と外部積立型に区分できます。

自社年金型とは、年金給付のための資産を企業外に取り分けていない制度のことをいいます。この制度を対象とした法令上の規制は存在せず、基本的には各企業が自由に制度を設計できることとされています。上記のX銀行事件及び松下電器産業事件の各事案における年金制度が、この自社年金型に該当します。

一方、外部積立型とは、厚生年金基金や確定給付型企業年金のように、拠出する掛け金を外部に積み立てて、会社の資産とは別個に管理する制度をいいます。この類型の企業年金については、厚生年金保険法や確定給付企業年金法の規制に服することとなります。上記のNTT事件の事案における年金制度が、この外部積立型に該当します。

3 検討

企業年金の受給者減額の可否については、当該企業年金が、自社年金型か外部積立型かにより、その判断枠組みが異なります。

(1) 自社年金型

まず、自社年金型の企業年金の場合、法令または監督官庁による規制が予定されていないことから、自社年金制度を定めた規程の改廃の可否については、専ら民法、労働法の解釈に委ねられると考えられています。これまでの裁判例からは、その一般的な判断枠組みは、①年金支給額の減額について、契約(規約)上の根拠があるといえるか、②実際に行われた減額の内容について、必要性・相当性があるかにより判断されるものとされています[1]。

松下電器産業事件では、①会社の年金規程に当該規程の改廃条項が置かれていること、②改定以前の約定利率が高水準に設定されており、市場利回りの低下や会社の業績悪化といった事情からすれば、規程の改定もやむを得ないものといえることから、減額が認められています。

一方、X銀行事件では、①会社の退職慰労金規程に改廃条項はありませんでした。そこで、原審は、規程の条項の解釈を経ることなく、年金制度の制度的要請を理由に、減額を有効と判断しました。これに対し、最高裁は、年金の支給は会社と退職取締役との間の契約に基づいて行われるという個別契約的側面を重視し、契約(規約)中に減額の根拠が認められない以上、会社が一方的に支給額を減額することはできないと判断したものと考えられます。

(2) 外部積立型

外部積立型の企業年金の場合、受給者減額を内容とする規約変更については、法令上、厚生労働大臣の承認・認可が必要とされています。その承認・認可の要件は、①企業、基金の財政状態が悪化していること、②受給者の3分の2以上の同意を得ること、③希望者には一時金での清算を認めることと定められています。

上記①の要件に関しては、確定給付企業年金法施行規則5条2号の「経営の状況が悪化したこと」について、どのように解釈すべきかが問題とされてきました。この点、NTT事件では、「受給権者等に対する給付減額が許容されるためには、単に経営が悪化しさえすれば足りるのではなく、母体企業の経営状況の悪化などにより企業年金を廃止するという事態が迫っている状況の下で、これを避けるための次善の策として、給付の額を減額することがやむを得ないと認められる場合に限られる」と判断した原審判決を支持しており、同号の要件該当性に関し最高裁が初めて判断を示したものとして、先例的意義を有するものといえます。

【終わりに】

今年の最高裁による企業年金の受給者減額の可否の判断は、減額についての契約(規約)上の根拠及び減額の必要性を、より厳格に要求したものと考えられます。今後、企業が年金制度を構築するにあたっては、将来、支給額を減額しなければならざるを得ない状況が生じた場合を見据え、年金規程に減額の根拠となる条項を置くことが望まれます。また、企業がすでに実施されている企業年金の支給額を減額するにあたっては、年金規程の内容、減額の必要性及び減額の程度について、より一層慎重に検討することが求められるものと思われます。
[1] 森戸英幸=君和田伸仁=大沢英雄「企業年金(受給者減額)」(ジュリスト1331号147頁)

雇用機会均等法9条4項の違反等が争われた事件

弁護士 倉本武任

 

1.はじめに

女性労働者が妊娠、出産、育児等に関連して職場でハラスメント行為を受けることや、妊娠、出産等を理由として、使用者から不利益な扱いを受けることを、マタニティ・ハラスメント等(以下、「マタハラ等」といいます)と呼ぶこと[1]  は広く浸透しているかと思います。このようなマタハラ等に該当する労働者の妊娠、出産、育児休業取得を理由とする解雇・雇い止めに対しては、法令等において個別に禁止規定等が置かれています。労働者に対する解雇の有効性は、労働契約法(以下、「労契法」という)16 条において、解雇権濫用法理が定められていますが、実際に労働審判や訴訟になった場合には、労働者側から個別の禁止規定に該当するとの主張が行われる場合もあります。

本稿では、かかる個別の禁止規定の中でも、妊娠中の女性労働者及び出産後 1 年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇について、事業主は、当該解雇が、妊娠または出産等に関する事由を理由とする解雇でないことを証明しない限り無効とする旨を定める、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下、「均等法」といいます)9 条 4 項違反が争点となった、裁判例(東京地裁令和 2年 3 月 4 日判決〈以下「原審判決」といいます〉、東京高裁令和 3 年 3 月 4 日判決〈以下「控訴審判決」といいます〉を合わせて、以下「本判決」といいます) を取り上げ、本判決の意義等について検討いたします。

2.事案の概要及び争点について

原告は、被告が運営する保育園にパート保育士として就職後、正規職員に登用され、勤務していました。原告の妊娠が判明したことから、原告が平成 29 年 3月末まで勤務し、同年 4 月 1 日以降は、産休に入ることで原告と被告は合意し、その後、原告は出産しました。原告が、平成 30 年 3 月 9 日に復職時期を示して、時短勤務を希望する旨の書類を提出したところ、被告はその後の原告との面談時に、原告に対し、復職させることができない旨を伝え、その際、原告は被告に対して解雇理由証明書の交付を求めました。被告は、「保育園施設長と保育観が一致しないことにより同園への復帰希望をかなえることができず、被告都合による解雇に至った」旨が記載された解雇理由証明書を原告に交付しました(以下、「本件解雇」といいます)。

原告は、本件解雇が客観的合理的理由及び社会通念上相当性があるとは認められず、権利の濫用にあたり、また、均等法 9 条 4 項に違反することから無効であると主張し、被告に対して、労働契約上の地位にあることの確認を求めるとともに、賃金支払請求、不法行為に基づく損害賠償請求等を求めました。

本件の争点は、退職合意の成否、本件解雇の有効性、賃金請求権及び賞与請求権の有無、不法行為に基づく損害賠償請求の有無と多岐に渡りますが、本稿では、本件解雇の有効性に関する争点及び不法行為に基づく損害賠償請求の有無について、検討します。

3.本判決における判断

(1)客観的合理的理由及び社会通念上相当性の有無について

被告は、原告の解雇理由として、原告の園長等に対する反抗的、批判的言動が、単に職場の人間関係を損なう域を超えて、職場環境を著しく悪化させ、被告の業務に支障を及ぼす行為であり、就業規則に定める「その他前各号に準ずるやむを得ない事由があり、理事長が解雇を相当と認めたとき」に該当する旨、主張しました。

原審判決は、原告が批判的言動を繰り返したという事実を認めず、質問や意見を出したことや、保育観が違うということをもって、解雇に相当するような問題行動であると評価することは困難であると判断したうえ、認定できる原告の言動等を前提とした場合に、これらが就業規則に定める「その他前各号に準ずるやむを得ない事由があり、理事長が解雇を相当と認めたとき」に該当するとはいえないことから、本件解雇は、客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認めることはできず、権利の濫用として、無効であると判断し、控訴審判決も同結論を維持しています。

(2)本件解雇の均等法9条4項違反

原審判決は均等法 9 条 4 項について、

「妊娠中及び出産後 1 年を経過しない女性労働者については、妊娠、出産による様々な身体的・精神的負荷が想定されることから、妊娠中及び出産後 1 年を経過しない期間については、原則として解雇を禁止することで、安心して妊娠、出産及び育児ができることを保障した趣旨の規定」として、その趣旨を明示しています。そのうえで、原審判決は、同項の趣旨を踏まえると、均等法 9 条 4 項ただし書きの「前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。」との文言に関して、使用者は、単に妊娠・出産等を理由とする解雇でないことを主張立証するだけでは足りず、妊娠・出産等以外の客観的に合理的な解雇理由があることを主張立証する必要があると明示しました。そして、原審判決は、前記(1)のとおり、本件解雇には客観的合理的理由があると認められないため、被告が、均等法 9 条 4 項ただし書きの「前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明した」とはいえず、この点においても本件解雇は無効であると判断しています。なお、控訴審では、被告から、本件ではたまたま本件解雇が原告の出産日から 1 年経過しておらず、これにより均等法 9 条 4 項違反とされることは被告にとってあまりに酷である等、主張しましたが、控訴審判決は原審判決の結論を維持しています。

(3)不法行為に基づく損害賠償請求の有無

原判決は、本件解雇が、権利の濫用で無効であるだけでなく、均等法 9 条 4 項違反で違法であることから、被告に不法行為が成立することを認め、また、慰謝料の算定にあたり、均等法 9 条 4 項に違反した事実を考慮しています。控訴審判決も、原審判決の結論を支持しています。

 

4.本判決の意義等について

労契法 16 条について、解雇に客観的合理的理由があり、社会通念上相当であることの立証責任はそもそも使用者側にあります。本判決の結論だけを見ると、均等法 9 条 4 項ただし書きについて、使用者側で妊娠・出産等以外の客観的に合理的な解雇理由があることを主張立証する必要があると明示した部分は、労契法 16 条において解雇に客観的合理的な理由があることを使用者側で主張・立証しなければならない点と重複し、均等法9 条 4 項ただし書きについて個別の判断を求めているのかは明確ではないように思われます。事実本判決以前、均等法 9 条 4 項違反が問題となった事件[2] では、就業規則所定の解雇事由があり、労契法16 条に違反しない以上、妊娠を理由とする解雇でないことは当然として、労契法 16 条に該当するかどうかだけを問題として、均等法 9 条 4 項に意味を持たせていませんでした。

しかし、原審判決が、あえて均等法 9条 4 項の趣旨について女性労働者が安心して妊娠、出産及び育児ができることを保障する趣旨である旨、明示している点を捉えれば、原審判決は、同趣旨を踏まえて、均等法 9 条 4 項ただし書きが求める使用者側の立証はより厳格なものが必要であることを言わんとしているようにも思えます。均等法 9 条 4 項が、妊娠中等の解雇を原則無効としているのは、同期間中の解雇は、妊娠や出産を理由とするとの推認を前提としていると思われ、そうであれば、使用者側による妊娠・出産等を理由とするものでないことの立証は、かかる推認を覆すような高度の立証を求めているとも考えられます。

本判決の事案は、被告が本件解雇の理由として挙げた事実がほとんど認められておらず、そもそも、本件解雇自体が解雇権の濫用として認められる事例であったため、均等法 9 条 4 項を問題とする実益が乏しく、この点が際立ちませんでしたが、均等法 9 条 4 項ただし書きが、高度の立証を使用者側に求めているとすれば、解雇理由によっては、労契法 16 条の解雇権の濫用にあたるか否かと均等法 9 条 4 項ただし書きに該当するかの判断を異にすることはあり得ると思われます。なお、本判決は、均等法 9 条 4 項に違反した事実自体を理由に不法行為が成立することを認めており、均等法違反が認められた場合には、使用者側には不法行為責任を負うリスクもあります。使用者としては、均等法 9 条 4 項が女性の出産、育児に関する重要な権利を定めたものであることを、十分に理解する必要があると思われます。

 

[1] 妊娠・出産等については、女性労働者のみが対象ですが、育児休業については、男性労働者も対象となり、パタニティ・ハラスメント(パタハラ)と呼ばれています。

[2] 東京高裁平成28年11月24日判決

労働契約法改正に伴う有期労働契約の取扱

弁護士 西村真由美

1 法改正の経緯

平成24年8月10日,有期労働契約に関する新たなルールの制定を内容とする改正労働契約法が公布されました。有期労働契約は,社会の変化に応じた多様な働き方を選択できるものとして広く利用されていますが,正規雇用の労働者と比べ,雇用の不安定さ,賃金,能力開発の点において格差があるとしてこれまで問題となっていました。特に,リーマンショックに端を発した経済危機の後,雇用情勢が急速に悪化し,「派遣切り」とともに「雇止め」が大きな社会問題として注目されています。このような流れを受け,有期契約労働者の保護を目的とした法改正がなされ,平成25年4月1日より施行されています[1]。

2 法改正の概要

本改正では,有期労働契約の適正な利用のために,主に以下の3点が整備されました。第1に有期労働契約から無期労働契約への転換(法18条),第2に「雇止め法理」の法定化(法19条),第3に不合理な労働条件の禁止(法20条)です。

(1)有期労働契約から無期労働契約への転換

有期労働契約から無期労働契約への転換制度は,本改正の目玉とされるものであり,改正法施行後に締結された有期労働契約が繰り返し更新されて通算5年を超えたとき[2]は,労働者の申込みにより,期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるという制度です。この制度により無期労働契約に転換した労働者には,別段の定めがない限り,契約期間を除いて従前と同じ労働条件が適用されることとなります。もっとも,労働協約,就業規則及び労使間の個別の合意において「別段の定め」を設けることにより,契約期間以外の労働条件について変更することは妨げられません。

(2)「雇止め法理」の明文化

有期労働契約に関し,最高裁判例[3]で確立している雇止めに関する判例法理が明文化されました。雇止め法理とは,当該有期労働契約が,有期労働契約の反復更新により無期労働契約と実質的に異ならない状態にある場合,または雇用の継続に対する労働者の合理的な期待がある場合には,解雇権濫用法理(法16条)が類推適用され,雇止めが客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないときは,従前の有期労働契約が更新されたとみなす,というものです。改正法では,これに「期間満了日までに労働者が有期労働契約の更新の申込みをした場合」または「期間満了後遅滞なく有期労働契約締結の申込みをした場合」という要件が加えられています。

(3)不合理な労働条件の禁止

有期契約労働者の労働条件が,期間の定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と相違する場合,その相違は,職務の内容や配置の変更の範囲等を考慮して,不合理と認められるものであってはならないとされます。これに関しては,具体的にどのような場合に労働条件が不合理であると認められるかは個別具体的事情により様々であり,今後の裁判例の蓄積が待たれるところです。

3 企業にとっての注意点

以上の改正に伴い,企業としては以下の点に注意する必要があります。

(1)就業規則の整備

前述のとおり,無期労働契約転換後の労働者については,別段の定めがない限り,契約期間を除いて従前と同じ労働条件が適用されることとなります。したがって,無期転換申込権を行使した労働者は,直ちに正規雇用の労働者と同一の取扱いを受けるわけではありません。

もっとも,法12条は,「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は,その部分については,無効とする。この場合において,無効となった部分は,就業規則で定める基準による。」として,就業規則の最低基準効を定めており,無期転換後の労働者の労働条件が正規雇用の労働者の就業規則の基準を下回る場合に,就業規則上の基準が適用されてしまう余地があります。

そこで,企業としては,正規雇用労働者向けの就業規則のみならず,法18条における「別段の定め」として,無期転換後の労働者に適用される就業規則等を今後新たに整備する必要が出てくると考えられます。

(2)無期転換申込権の放棄

本制度はあくまで労働者から使用者に対する申し込みが要件となっており,労働者としては,無期転換申込権を自らの自由意思に基づき放棄することは当然可能です。しかしながら,有期労働契約者には,そもそも雇止めの不安があり,正当な権利行使を控えてしまいがちであることから,無期転換申込権の放棄についても,それが自由な意思表示に基づくものであると認めるに足る合理的理由が客観的に存在する必要があると考えられます。したがって,企業としては,労働者による無期転換申込権の放棄が自由な意思表示に基づくものでなかったと主張されぬよう,書面による十分な説明と熟慮期間を与えるといった措置をとることが後の紛争を防止するために肝要です。

(3)今後の運用

現在,常用労働者に占める有期契約労働者の割合は約22.5%であり[4],非正規労働者の人数は,今年1月からの2カ月間で約65万人増加しています[5]。また,安倍政権下で進められている雇用制度改革においては,今回紹介した法改正とは逆の方向,すなわち労働市場の流動化,解雇規制の緩和や,職務や勤務地を絞った限定正社員制度の普及等が提唱されており,今後,雇用の構造が大きく変わる可能性が高まりつつあります。このような社会変化に伴い,これまで問題とならなかった新たな労使間紛争が生じてくることも考えられます。

改正労働契約法の解釈においては,未だ未確定な部分も存在するため,企業としては,今後の具体的な紛争の蓄積とそれに対する裁判所の判断を注視していかねばなりません。それとともに,多様化する雇用形態の選択肢の一つとして,今後の有期労働契約者の活用を考えた運用の在り方を検討する必要があります。

[1] 本改正のうち,法19条(有期労働契約の更新等)については,従来の雇止めに関する判例法理を明文化したものであり,実質的変更が加えられているわけではないので,改正法の公布日である平成24年8月10日から施行されています。

[2] 5年の通算契約期間を算定する際,原則として前の有期労働契約との間に6カ月以上の無契約期間(クーリング期間)がある場合には,その前の契約期間は通算されません。

[3] 法19条1号に対応する判例として,東芝柳町工場事件(最判昭和49年7月22日民集28巻5号927頁),同条2号に対応する判例として,日立メディコ事件(最判昭和61年12月4日判時1221号134頁)。

[4] 厚生労働省「有期労働契約に関する実態調査」

[5] 総務省統計局「労働力調査」