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日本会社による特許権侵害を幇助又は教唆した外国会社に対する国際裁判管轄(2009年2月26日)

日本会社による特許権侵害を幇助又は教唆した外国会社に対する国際裁判管轄

東京地判平成19年11月28日(平成16(ワ)10667号 損害賠償等請求事件)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071130131328.pdf

弁護士 渡辺惺之

1.はじめに

外国会社が日本特許侵害品を直接に日本に持ち込んだ場合、その外国会社が日本に支店や営業所等を全く持たない場合でも、被告としてわが国の裁判所に損害賠償請求訴訟を提起することができる。外国会社による特許権侵害という不法行為の行為地又は侵害結果発生地として、不法行為による損害賠償請求について国際裁判管轄が認められるからである。ところが、外国メーカーが、わが国に直接に輸出したのではなく、別の会社を介してわが国に販売したような場合、外国メーカーに対するわが国の国際裁判管轄が認められるかは、判例では微妙になっていた。本判例はこのような場合の、外国会社に対する国際裁判管轄の要件を明確にしたもので、今後、類似した知的財産権侵害事件に限らず、内外企業の共同不法行為により日本国内で法益侵害を生じたという事件類型をも射程に収める重要な新判例と考えられる。この判例には他の論点もあるが、ここでは不法行為地管轄のみを取り上げる。

2.事実と判旨の概要

日本会社X(富士通)が、米国会社Y2(センティリアム・コミュニケーションズ・インコーポレイテッド)及びその日本子会社Y1(センティリアム・ジャパン)を被告として、Y2が製造・販売しているチップ(被告製品)を内蔵したモデムによるADSL通信は、データ伝送方式に関するXの特許権(本件特許権)の技術範囲に属すると主張し、その生産、譲渡、輸入、譲渡の申出はいずれも、本件特許権の間接侵害に当たるとして損害賠償等を請求する訴訟を提起した。

Xの本案請求に関して、裁判所は、Y2の本件製品によるデータ伝送方式は、Xの特許権の技術には属さず、本件製品の製造、譲渡などの行為はいずれも間接侵害には当たらないとして請求を棄却した。ここで取り上げたいのは、Y2に対する日本の国際裁判管轄の問題である。Xのこれに関する主張は、訴外日本会社住友電工及びNEC(以下、訴外Aら)は、Y2の製品を日本に輸入しNTTに譲渡した行為により、本件特許権の間接侵害による不法行為責任を負うところ、Y2とY1の行為はこの訴外Aらの間接侵害行為の共同不法行為に当たり、共同不法行為責任を負うというものである。Xはこの他に、国際裁判管轄に関して3点の予備的主張をしているが、ここではこの主位的主張に関する判断のみを取り上げる。この点に関して本判例はこれまでの類例に比べて大きな一歩を進めたと評価できる新判断を下している。

裁判所は、先ず、「民訴法5条9号の不法行為地の裁判籍の規定に依拠して我が国の国際裁判管轄を肯定するためには,原則として,〔1〕原告主張に係る不法行為の客観的事実の存在及び〔2〕そのうちの実行行為地又は損害の発生地が日本国内であることが証明されれば足り,違法性や故意過失については立証する必要はないと解するのが相当である(最高裁平成12年(オ)第929号同13年6月8日第二小法廷判決・民集55巻4号727頁)。そして,共同不法行為においては,上記〔1〕の国際裁判管轄を肯定するために立証すべき客観的事実は,当該不法行為の実行行為,客観的関連共同性を基礎付ける事実又は幇助若しくは教唆行為についての客観的事実,損害の発生及び事実的因果関係であると解するのが相当である。」と原則ルールを判示する(太線は筆者による)。

その上で国際裁判管轄の要件とした要証事実について、「不法行為の実行行為」は「Aらは,被告製品又は被告製品を組み込んだADSLモデムを輸入し,同ADSLモデムをNTTに販売しているのであるから,仮に,本件特許が無効とならず,被告製品の輸入,販売等が本件特許権の侵害行為に該当するのであれば,Aらの上記行為は,本件特許権を侵害する不法行為を構成し,また,本件特許権を有しているXに,我が国において,損害は発生しているものと認められる。」とし、「客観的関連共同性を基礎付ける事実又は幇助若しくは教唆行為についての客観的事実」については、被告の営業活動についての証拠により認定されたところから、被告製品が「ADSLモデムに組み込まれた形でNTTに譲渡されることを認識しており,そのような認識の下に,Aらに対して,積極的に被告製品の販売のための活動を行ったものと推測されるから,Y2には,Aらの上記不法行為について、少なくとも客観的関連共同性が認められ,また,Y2のAらに対する被告製品の販売行為及びその前提としての営業行為は,Aらの上記不法行為の幇助ないし教唆行為と評価できる」としている。

3.本判例の注目すべきpoint

従来、内外会社の共同不法行為による権利侵害が日本国内で生じている事例類型において、外国会社を日本の裁判所に訴えるための管轄要件として、一部の判例は非常に狭く厳しい要件を課すことがあった。先例として東京地判平成13年5月14日判時1754号148頁[眼圧降下剤事件]が挙げられる。製薬会社グループの中枢会社が日本子会社の共同被告として訴えられた事例であるが、相被告である日本会社について本案棄却判断を先に行い、それを援用して外国会社にも不法行為該当行為の証明がないとした裁判管轄判断の処理には疑問を残した(この判例に対する筆者の批判はL&T18号20頁以下)。さらに古い判例であるが、東京地判平成9年2月5日判タ936号242頁は、継続的取引契約の一方的な打ち切りを、外国親会社が日本子会社に指示してさせたと主張して、共同不法行為者として共同訴訟管轄を主張したのに対して、被告外国親会社に不法行為責任を負わせることが相当と認められる特段の事情が必要という独自の理由を挙げて、管轄を否定している。

これら事例における判断は、内国会社と外国会社を共同被告として訴えるという形で問題となったことの影響もあると思われる。国際共同訴訟の裁判管轄として問題となったので、相被告である在外当事者の管轄利益を重視し固有必要的共同訴訟に準じる場合に制限すべきとする古い有力学説の影響を受けたと考えられる。本判決もX1との共同訴訟管轄についてはこの立場に立っている。しかし、この制限学説は理論的に問題を含むだけでなく、実務的にもグローバル化した国際取引の現状に照らして疑問が多い。

このように、これまで共同不法行為事件の国際裁判管轄は、単独では日本に裁判管轄が認められない外国会社を、相被告に対する請求との関連により我が国で訴えることができるかという視角から考えられてきた。しかし、本件では、その他に、共同不法行為者とされる「Aら」は訴外人で相被告ではないタイプの共同不法行為として検討されたところが新しいといえる。共同不法行為では当然に共同不法行為者の一人のみを単独で訴えることもできる。その場合に国際裁判管轄に関して備えるべき要件を判旨引用のウルトラマン事件最高裁判例の原則に照らして明らかにしたものと評価されよう。

本判例は、外国会社を共同不法行為者として日本で訴えるため要件を、ウルトラマン事件最高裁判例に照らして明確にしており、下級審判例であるが、今後の渉外訴訟実務にとり重要な意味を持つことになると思われる。

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