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労働契約法・パートタイム労働法について(2008年6月2日)

労働契約法・パートタイム労働法について

労働契約法が平成20年3月1日から施行され、パートタイム労働法が改正され平成20年4月1日から施行されたので、今回は、両法を簡単にご紹介したいと思います。

第1 労働契約法について

1 労働契約法とは

これまで、最低労働基準については、労働基準法に規定されていますが、労働契約に関する民事的なルールについては、労使関係は、契約関係であり契約法の枠組みに基づくものですが、民法(623条以下)及び個別の法律において部分的に規定されているのみであり、体系的な成文法が存在ししていませんでした。そのため、個別労働関係紛争が生じた場合には、判例法理による解決がなされてきました。

今回制定された労働契約法は、基本的に労働契約法理の一部を制定法にしたものであり、裁判規範という観点からは新たなルール形成という意義はあまりなく、むしろ法律家以外にはなじみが薄い判例法理を制定法にすることで、ルールを広く国民に知ってもらい、社会への浸透を図るという意義が大きいものとなっています。

2 労働契約法における合意と就業規則

(1) 労働契約法は、労働契約は労働者と使用者との合意で成立するものである、としています(6条)。

ただ、労働契約法は労働関係における就業規則の実際上の重要性から、その労働契約に対する効力を明らかにすることを同法制定の最重要事項と位置付けられ、そして、就業規則の実際上の機能に即し、判例法理を受け入れて就業規則の法的効力を明確化しています。

(2) 7条は、労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする、と規定しています。

「合理性」と「周知」という要件をクリアした就業規則の規定があれば、そこに定められた労働条件が労働契約の内容となるのが原則であり、ここでいう「合理的」という概念や「周知」の具体的意味は、これまで最高裁判決で積み重ねられた判断基準によるものです[i]。

(3) 労働条件の変更については、労働者の合意なく、就業規則の変更により、労働者の不利益に労働条件を変更することができないと規定されています(9条)。

この例外として、合意なく、就業規則によって労働条件の変更をする場合の要件は、10条に定められています。労働条件の変更の要件は、主として、「変更が合理的なとき」であり[ii]、もう1つの要件としては「変更後の就業規則を労働者に周知させたとき」であり、これらをみたすときには、「労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものである」とされています。

(4) ただし、個別特約により、就業規則の効力を個別特約により排除できると規定しています(7条、10条)。10条においては、就業規則の変更の場面において、「労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分」については、合意が優先すると規定されています。就業規則の基準に達しない特約をすることはできませんが(12条)、上回る特約をすることは有効となります。

今後は、当該契約条項が、上記のような合意部分に当たるのか否か、という点が争われることになります。特に異なる条件を特約していただけで、「変更されない労働条件として合意」されていたと解釈できるのか、あるいは、変更を排除する意思が明確に読み取れない限りそのような合意はないと解釈すべきなのか、今後の議論の展開によるところとなります。

第2 パートタイム労働法について

1 パートタイム労働法とは

1993年に制定された「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」をいいます。この法律の多くは、労働省・厚生労働省の行政指導のための根拠規定だったこともあり、パートタイム労働者の雇用改善という点で必ずしも十分に機能を発揮してこなかったことなどから、今回の改正ではパートタイム労働者の雇用改善が目指されました。

2 主な改正点

(1)労働条件の文書交付・明示義務(6条)

パートタイム労働は、その仕事形態が多様であり,、通常の労働者とは異なり個々の労働者の労働条件が就業規則等で明確になっていないことが多く、雇い入れ後に労働条件について疑義が生じることが少なくないことから、特にトラブルが起きやすい事項、退職手当、賞与、昇給の有無について、従来は努力義務でしたが、文書の交付により労働者に明示することが義務化されました。

なお、労働基準法15条1項関連事項(賃金、就業の場所、始業・終業時刻等)については、そもそも同条により使用者に明示義務があります。

(2)均衡のとれた待遇の確保の促進(1、3、8条以下)

パートタイム労働者の働き・貢献に応じた待遇の確保が目指されています。

ア 「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」に対する差別的取扱いが禁止されています(8条)。差別が禁止される労働条件は、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇となります。

対象となるのは、以下の3要件をすべて満たすパートタイム労働者となります。

a 業務の内容とそれに伴う責任の程度が通常の労働者と同じであること

b 雇用契約期間に定めがない労働契約を締結していること(反復更新により期間の定めがない労働契約と同視することが社会通念上相当と認められる期間の定めのある労働契約を含む(同条2項))

c 当該事業所における慣行その他の事情からみて、雇用関係の全期間において、職務の内容および配置が通常の労働者と同一の範囲で変更の見込みがあること

イ  ア以外のパートタイム労働者については、職務の内容、職務の成果、意欲、能力や経験などを勘案して賃金を決定するよう努力義務を事業主に課しています(9条1項)。

ウ  教育訓練について、職務内容が通常の労働者と同一のパートタイム労働者に対しても実施する義務(10条1項)や、福利厚生施設(給食施設、休憩室、更衣室)をパートタイム労働者にも利用する機会を与えるよう配慮する義務を事業主に課しています(11条)。

(3)通常の労働者への転換の促進(12条)

一度パートタイム労働者となると通常の労働者となるのは困難な状態にあることから、通常の労働者への転換の促進のため、以下のいずれかの措置を講じる義務を事業者に課しています。

a 通常の労働者の募集に関する情報を事業所等に掲示する等によって、既に雇用しているパートタイム労働者に周知すること

b 事業所内において、通常の労働者の配置を新たに行う場合に、応募の機会をパートタイム労働者にも与えること

c 一定の資格を有するパートタイム労働者を対象とした通常の労働者への転換のための試験制度を設けたり、通常の労働者への転換を推進するための措置を講じること

(4)説明義務(13条)

以上の(2)(3)にあげた事項に関する決定をするに当たって考慮した事項を、当該短時間労働者に説明することが事業主に課されています。

(5)苦情処理・紛争解決援助(法19条以下)

紛争の解決を促進するための仕組みとして、事業主による苦情の自主的解決(19条)、都道府県労働局長による助言・指導・勧告(21条1項)、調停(22条1項)に関する規定が設けられました。

[i] 秋北バス事件最高裁判決(最大判昭和43.12.25)では、就業規則が、一種の社会的規範としての性質を有するだけでなく、それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、経営主体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるに至っている(民法92条参照)ものということができる、としています。その後、最高裁は「合理的な内容である限り労働者を拘束する」としています(電電公社帯広局事件(最一判昭和61.3.13)・日立製作所武蔵工場事件(最一判平成3.11.28))。

「周知」については、フジ興産事件(最二判平成15.10.10)において、「就業規則が法的規範としての性質を有するもの・・・として、拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要する」とされています。

「周知」とは、例えば、①常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、備え付けること②書面を労働者に交付すること、③磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずるものに記録するなど、労働者が知ろうと思えばいつでも就業規則の存在や内容を知り得るようにしておくことをいいます。

[ii] 10条では、「労働者の不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき」とされています。これは、第四銀行最高裁判決(最二小判平成9.2.28)であげられた判例の7つの判断要素が整理されたものです。

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