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会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律施行規則の一部改正等について (2017年1月30日)

会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律施行規則の一部改正等について

弁護士 立川 献

1.はじめに

会社分割等の会社の組織変動に伴い、分割会社(A社)から承継会社(B社。なお、新設分割の場合にあっては新設会社)に特定の事業等が承継されることとなった場合、もともとA社に在籍していた労働者の取扱いは、A社とB社の締結した分割契約や、分割計画の定めに従って決定されることになります。しかし、当該労働者からすれば、労働契約が自らの意思とは無関係に承継され、指揮命令を行う使用者が変更されることもあり得ることとなるため、大変大きな問題となります。そのため、会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(以下「承継法」といいます)が制定され、施行がされています。承継法の施行後においても、大学教授等を中心とする「組織の変動に伴う労働関係に題する研究会」が発足し、組織変動に伴う労働者の地位を保護するため、報告書や提言がなされているところです。

この度、承継法施行規則の一部と、承継法指針の一部の改正が行われました。さらに、会社分割ではないものの、事業譲渡又は合併を行うにあたり、会社等が留意するべき事項に関する指針(以下「事業譲渡等指針」といいます)が制定され、本年9月1日より施行・適用されることとなりましたので、それらの改正内容等について、ご紹介をさせていただきます。

2.承継法施行規則、承継法指針の改正

(1)会社分割における労働契約の承継

会社分割において労働契約がB社に承継されるか否かは、①承継される事業にその労働者が主として従事しているか、②分割契約、分割計画(以下「分割契約等」といいます)にその労働者の労働契約を承継する旨の定めがあるかによって変わります。
Ⅰ.当該事業に主として従事している場合で、分割契約等に承継される旨の定めがあると、当該労働者はB社に承継される

Ⅱ.当該事業に主として従事している場合で、分割契約等に承継される旨の定めがないと、当該労働者はB社に承継されない(異議の申出をするとB社に承継される)

Ⅲ.当該事業に主として従事していない場合で、分割契約等に承継される旨の定めがあると、当該労働者はB社に承継される(異議の申出をするとB社に承継されない)

Ⅳ.当該事業に主として従事していない場合で、分割契約等に承継される旨の定めがないと、当該労働者はB社に承継されない

会社分割においては、A社の権利義務がB社に包括的に承継されることとなります(包括承継)。そのため、法的には、A社での労働条件は、そのままB社での労働条件として承継されることになります。

しかし、個々の労働者がこの点をきちんと理解したうえで、会社分割がなされるわけではありません。従前の労働条件が承継されるかどうか、ということについては、労働者にとっては大きな関心事であるにもかかわらず、労働者あるいは労働組合等に対する通知事項として規定されていませんでした。

(2)通知事項の追加

そこで、A社による労働者への通知事項に、「当該労働者の労働契約が承継会社等に承継される場合には、労働条件はそのまま維持されること」が追加されることとなりました。これにより、承継される労働者も、従前の労働条件で勤務できることを把握することができるようになりました。

(3)承継法指針の改正

承継法指針においては、会社法における議論を踏まえて、重要事項が整理・追加されました。重要と思われるポイントは、以下の3点です。
①承継される事業に主として従事していない労働者につき、商法等の一部を改正する法律附則5条の協議(5条協議)が必要
②5条協議が全く行われなかったり、協議が著しく不十分である等、5条協議を求めた趣旨に反することが明らかな場合、最高裁判例において、労働契約の承継の効力を個別に争うことができるとされていることに留意する
③会社分割に際し、承継法によらず、各労働者との間で転籍に関する合意を行ったうえで承継会社等に労働者を転籍させる場合においても、承継法に規定されている労働者への通知及び5条協議等を省略することができない

3.制定された事業譲渡等指針の内容

(1)事業譲渡における労働契約の承継

事業譲渡の法的性質は個別の財産等の承継(特定承継)であると考えられています。そのため、譲渡会社と譲受会社の間における事業譲渡契約の中で、当該労働者の承継について定めて合意したうえで、労働契約の移転について、当該労働者の個別の同意が必要です。

以上のとおり、事業譲渡に伴う労働契約の移転については、労働者の個別の同意が必要となっていることから、事前の協議や通知を要求する等の特段の法的措置は定められていません。しかし、労働者の納得性を高める等、自主的なコミュニケーションを促進するために、事業譲渡等指針が定められることになりました。

(2)事業譲渡等指針の内容

事業譲渡等指針には、大きく分けて、①承継予定労働者との事前協議に関する事項、②労働組合等との手続に関する事項、③合併にあたっての留意事項の3点が記載されています。

①に関しては、真意による承諾を得るために、時間的余裕を見て、事業譲渡に関する全体の状況、労働条件に関する点等を十分に説明すべきことが定められています。特に、情報提供に誤りや虚偽があると、意思表示の取り消しに関する民法上の規定により、同意が取り消される可能性があることが明示されており、適正な手続きを経て合意を取得するべき重要性が強調されています。

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