HOME>Legal Essays>『国際取引における裁判管轄 (基本契約書において管轄地が定められていない場合において)』(2016年3月15日)

『国際取引における裁判管轄 (基本契約書において管轄地が定められていない場合において)』(2016年3月15日)

『国際取引における裁判管轄
(基本契約書において管轄地が定められていない場合において)』

弁護士 木曽誠大

1.はじめに
日本所在の会社(売主)と外国の会社(買主)との間に、①日本で製造された製品について、売買代金支払いについての紛争が生じた際、②基本合意書はなく、③日本港でのFOB、④支払方法は日本の銀行への送金を指定したという条件の下(以下「本事案」といいます。)、日本に裁判管轄が認められるでしょうか。お客様から頂いたご相談を下に作成した仮想の本事案を参考に、平成23 年民事訴訟法改正により新設された民事訴訟法第3 条の3 第1 号(債務履行地管轄)について、本稿でご紹介いたします。
2.概論
国際取引とは、国境を越えた物品・資金・技術の移転、役務の提供を指すとします。その上で、国際取引における国際裁判管轄とは、我が国の裁判権が、当該取引の当事者及び審判の対象たる訴訟物の視点から制限されるか否かを論じるものです。従来、判例による処理がなされていた同分野につき、上述の国際裁判管轄についての国内法の整備がなされ、一定の明確化が図られました。
3.本事案についての検討
本事案は、売買代金の支払いを求める、「契約上の債務の履行の請求を目的とする訴え」に該当し、本事案の条件及び関係法規定に基づいて、「債務の履行地」が日本国内にあると認められるかが問題となります。

売買代金の振込先が日本の銀行口座である場合、我が国が「債務の履行地」に当たるかにつき、判示した裁判例は見当たりません。しかし、財産権上の訴えについての特別裁判籍を定める民事訴訟法第5 条1 号(義務履行地管轄)との関係で、未払給料の請求の際の土地管轄について判示した、大阪高決平成10 年4 月30 日(判タ998 号259 頁)が参考になると考えられます。同事案は、自宅付近の銀行の口座に給料を送金してもらっていた債権者(従業員)が、自宅を管轄する裁判所に訴訟を提起したところ、債務者(会社)が、給料支払義務の履行は、会社本店付近の銀行において送金手続を行えば終了するため、義務履行地は、会社本店所在地の管轄裁判所であると争ったものです。同決定は、給料債務が持参債務であることを前提に、銀行振込による場合、債務者による送金手続のみで義務の履行は終了せず、債権者の指定口座に入金されて初めて債務者の義務が終了すると判示し、債権者の主張が認められました。

上記裁判例を参考にすれば、本事案の代金支払債務は、持参債務であるところ、買主は、海外の銀行で送金手続を行いますが、左の送金手続のみで義務の履行は終了するものではなく、売主の指定した口座に入金されて初めて義務の履行が終了するため、日本が債務履行地に当たると考えられます。更に、本事案は、日本国内製造製品を、日本港において引き渡すものであって、日本の国際裁判管轄を否定すべき「特別の事情」は認め難く、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められると考えられます。

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